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第1部   科学技術発展の展望
第6章  科学技術の効率的振興
2  科学技術振興上の問題点
(2)  弱体な自主技術開発力


一国の技術開発力を表わす指標の一つに技術貿易収支が用いられるが,わが国の技術貿易を諸外国のそれと比較したのが 第1-67図 である。わが国の技術輸出は,技術導入を上回る伸び率で着実に伸びているとはいうものの,対価支払額に対する対価受取額の比率はわずかに11%にすぎず,アメリカは例外としても,イギリス,フランス,西ドイツの比率に比較してはるかに小さく,また技術輸出に伴う対価受取額においても,わが国は西ドイツの3分の1,イギリスの5分の1,フランスの9分の1程度になつている。

さらに,電子計算機,石油化学,航空機などの重要技術分野の技術貿易をみると,石油化学を除いて原子力開発,宇宙開発,海洋開発,航空機,電子計算機では,技術輸出がほとんどなく,逆に技術の導入件数はかなり多く,これらの分野における技術開発力の弱さを示している (第1-40表参照)

第1-40表 重要技術分野の技術導入,輸出状況(昭和25〜43年度)

これらの技術は他分野への波及効果も大きく,また広汎な技術分野に対する先導性をもつていることを考慮に入れると,わが国においては,みずから技術革新を惹起するような新技術を創出する力が十分でないことを示しているものといえよう。わが国の外国への特許出願件数は,アメリカの11分の1,西ドイツの5分の1,イギリスの3分の1,フランスの2分の1程度となつており,技術輸出には一般に特許権を伴うことを考えれば,この差が,わが国の技術輸出の少なさと大いに関係があるように思われる。

第1-67図 技術貿易の国際比較

なお,ちなみに国内特許出願件数のうち外国人の占める割合をみると,昭和42年において総出願件数に占める外国人の割合は24.2%であるが,有機化合物(46.1%),高分子化合物(38.1%),原子力(38.4%),航空(51,0%)などの重要技術分野において外国人の占める割合はきわめて高い。このことも,重要技術分野におけるわが国の技術開発力に問題があることを示唆しているものといえよう。

以上のように,自主技術開発力が弱体である原因として,独創的な技術開発の経験が乏しかつたことがあげられよう。

東海道新幹線,耐震構造の高層建築などのようにわが国で開発されたものもあるが,諸外国に先がけて開発した自主技術は,主要国に比べきわめて少なく,従来,一般的に基本的な特許権,プロセスを導入した上で,操業技術,品質などについてわが国の研究開発の成果を付加し,わが国の特色をだしている場合が多く見受けられた。

このことは,わが国の研究投資構造にも反映している。すなわち,わが国の研究投資は,経済力のめざましい向上,研究開発に対する認識の高まりとともに著しい増加を示し,昭和43年度においては約7,700億円に達した。

第1-68図 研究投資の対国民所得比および対国民総生産比の国際比較

また,研究費の対国民所得比,対国民総生産比は近年徐々に上昇し,昭和43年度にはそれぞれ1.82%,1.45%になつている。しかし,わが国の研究投資の規模は,研究費の対国民所得比および対国民総生産比のいずれをとつても,欧米先進国との間になおかなりの格差が存在している状況にある (第1-68図参照) 。さらに,研究成果を開発し,実用化する開発研究がとくに欧米諸国に比べ見劣りがすることが,開発研究費の全研究費に占める割合が小さいことからうかがわれる (第1-69図参照) 。これは,従来わが国では主要技術の多くをほとんど完成された導入技術に依存してきたので,開発研究に多額の費用を必要としなかつたためと考えられるが,近年自主技術開発の必要性の増大に伴い,原子力,宇宙などのビッグ・プロジェクト等において開発研究の努力がなされてきたので,開発研究費の増加が著しくなつており,その全体に占める比率は漸次上昇するものと思われる。

第1-69図 基礎,応用,開発別研究費

また,研究課題の規模についてみると,企業では大部分が,1,000万円未満の研究課題であり,しかもその開発目標期間は2年以内のものに集中しており(科学技術庁計画局昭和43年度調査),研究課題の規模は非常に小さいといえる。

国の研究についても,最近,大規模プロジェクトは増加しているが,その規模は一般的に主要国のそれに比べ小さいといえる。

このように,わが国の研究投資構造が主要国のそれと比べ総体的に弱体であることに,自主技術開発力の格差が端的に示されているといえよう。わが国においては,先に述べたように推進すべき研究開発課題が山積しており,これらを効率的に開発し,自主技術開発力を培養するためには,今後研究投資の飛躍的増加が必要となるであろう。

そのほか,自主技術開発力が弱体である原因として,従来自力による技術開発よりも導入技術の探索に重点がおかれ,導入技術が技術の導入を誘発するといつた悪循環が続いてきたこと,国が主体となつて推進することが期待されている社会開発関連技術,先導的および基盤的科学技術の振興が必ずしも十分でなかつたこと,研究開発を効率的に推進するために必要な研究開発の合理的な運営,管理,科学技術人材の養成,確保,科学技術情報流通体制の整備等の面においてなお十分でなかつたことなどがあげられる。

さらに,わが国の科学技術振興上の問題として以上のほかに,今日とくに重要となつている社会開発関連技術の開発基盤が十分に確立していないことをあげなければならない。すなわち,第3章で述べたように社会開発関連技術は,一般に産業技術に比べ研究水準および技術水準が相対的に低く,適切な開発体制が確立していないことである。

社会開発関連技術については,その性格上国が何らかの形で関与し,各省庁ごとにそれぞれの責任の範囲において研究開発が実施されている。ちなみに昭和43年度において国立試験研究機関の社会開発関連技術の研究課題は約2,000課題であるが,関連機関が共同して総合的に研究している課題は21課題,全体の1%にすぎない。

また,社会開発関連技術の開発に関して総合的な長期計画あるいは具体的な年次計画が定められているのは,脱硫技術の開発プロジェクトに若干見受けられるが,なお十分であるとはいえない状態である。

また,社会開発関連技術は,本来,自然科学と社会科学,技術相互間において,それぞれが密接な関連性をもつており,個別の技術が優秀であつても,諸分野の条件を満たし,かつ全体システムのなかでの調和を保たなければならない。したがつて,個々に研究を実施していては効率的ではなく,総合的な計画のもとに実施することが必要である。

以上,現在の科学技術振興上の主な問題点を概観してみたが,今後はわが国の国情,風土に合致した独創的な技術開発を基調とする科学技術の振興を展開し,社会・経済からの期待にこたえるとともに,自主技術開発力の培養に努め,バランスのとれた科学技術の発展を図ることが肝要であろう。

また,科学技術が巨大化,複雑化している今日,科学技術全般にわたつて自力のみで研究開発を行なうことは必ずしも得策ではなく,世界に散在,蓄積されている研究成果を巧みにわが国の技術開発に組み込んでいくことが重要であると考えられる。


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