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第1部   科学技術発展の展望
第5章  新分野の開拓と科学技術水準の向上
2  基盤的科学技術の培養
(9)  超限界技術


これまで述べた基盤的科学技術とは性格を若干異にするが,極限状態を探究する超限界技術は,広汎な科学技術の飛躍的な進歩を支える有力な手段となる。すなわち,技術水準の向上は実験装置にも進歩をもたらし,自然環境では想像もつかないような超高圧,超高温,極低温などの極限状態を実験装置によつてつくりだすことができるようになつた。そして,そのような環境下において,新現象の発見,新材料の開発などが促進され,科学技術の一層の発展が図られた。

そこで,次に超限界技術のうち主要なものである超高圧技術,超高温技術,極低温技術について,極限状態をつくり出す技術およびそれらの領域で開発されている技術の動向などについて概観する。


(1) 超高圧

一般に2万気圧以上の圧力を超高圧と呼ぶが,この圧力は地殻内部の圧力に相当する。超高圧発生装置は,ピストンシリンダー装置,ブリッジマンアンビルおよび多面体アンビル装置などは,種々のものが開発されている。

現在では2,000〜3,000°Cの高温下で十数万気圧の超高圧を作り出すこども可能になつているが (第1-64図参照) ,装置に使用される材料の強度に制限があり,50万気圧程度が限界とされている。また,最近爆発による衝撃波を利用した動的な超高圧発生法が開発され,上述の静的発生法では到達不可能な5×106 気圧程度の圧力が得られるが,圧力持続時間は数マイクロ秒程度であり,その間に被圧体の計測を行なうことはまだ困難である。

こうして,超高圧技術の分野では,安全で安定した圧力の発生方法,耐圧強度のすぐれた新材料の開発,超高圧下の諸現象の計測方法などの課題に挑戦している。超高圧下では,一般に物質は石英(密度2.61),コーサイト(2.68),ステイショバイト(4.22)のように,より緻密な結晶構造の形成が促進される。

また,半導体,絶縁体が良伝導体に変わつたり,磁性,光学的性質などが激変するというように通常の圧力下における物性とは全く異なる変化が観測される。数百万気圧になると物質はイオン化し,さらにそれ以上ではシリウスの伴星などで知られているような特別な超高密度物質状態が出現する。

第1-64図 超高圧の創出状況

このような超高圧下で出現する諸物理現象は,人類に自然解明の手がかりを与え,科学技術発展の原動力となるのである。

超高圧の応用分野としては,ダイヤモンド,コーサイト(高密度SiO2 ),炭化モリブデン,窒化タンタルなどの高密度物質の合成をあげることができる。また,反応速度の上昇による効率的な化学合成法,延性の増加に伴う押出し加工法,光学ガラスの屈折率を変化させることによる高分解能レンズの開発など広範囲の応用が期待されている。


(2) 超高温

超高温がとくに関心を集めるようになつたのは,核融合反応を次代のエネルギー源として活用することが提唱された約10年くらい以前のことであつた。

超高温状態をつくり出す実験はいろいろ試みられたが,電熱線などの固体を熱源とする方法では3,500゜C以上の高温を発生させることは困難であつた。これは,この高温に耐える容器の入手に限界があるためである。しかし,容器の問題はプラズマの利用,つまり容器の壁から離れた場所に超高温の状態をつくり出すことができることがわかり解消した。気体は常温では普通の分子(電気的性質の帯びていない)で構成されているが,高温になると分子は解離して原子になり,さらに原子も分離されて,イオンと電子とに分かれ,いわゆるプラズマと呼ばれる電気的な性質を帯びた一種のガス状態になり,これは物質の容器でなく,磁気の容器に閉じこめておくことができることがわかつた。

このような状態は,物質に大電流を流すか,または高圧力を作用させることによつて発生できるが,今日では発生したプラズマの加速や圧縮によつて,さらに超高温の状態を出現させることも可能になつている。

温度が数億度をこえると,原子核どうしが衝突し合つて,核融合の反応が起き,大量のエネルギーを発生させることができる。しかし,現在ではまだこのような超高温状態を安定的に長時間維持させ,核融合エネルギーを有効に取りだすまでに至つていない。

核融合エネルギーの利用を可能にするには,プラズマの閉じ込め方法(プラズマの安定化,大強度磁場の発生など),加熱方法(マイクロ波加熱,断熱磁気圧縮など)などの技術的課題を解決しなければならない。

核融合は,原子力発電に代り人工太陽を実現する未来永遠のエネルギー源になるものとして大きな期待をかけられている。

さらに,超高温,とくにプラズマの応用分野はMHD発電,ロケットのプラズマなどのほか金属の溶接,切断,溶解に威力を発揮するプラズマジェットなどがあり,限りない未来への夢を担つているのである。


(3) 極低温

近年,極低温をつくり出す技術,あるいはこの現象を利用する技術が進展し,応用への大きな可能性が開かれつつある。

一般にヘリウムを液化すると約4°Kの極低温をつくり出すことができ,さらに最近では,He3 〜He4 希釈冷却法によつて数m°k 注) の状態を実現できたといわれている。このような極低温では熱運動がほとんどなくなるため,固体の諸性質を研究する上でよい条件を与える。極低温では,ある種の金属の電気抵抗が零になる超伝導現象や,粘性が零になる超流動現象が観測されるほか,興味ある種々の現象が出現する。

超伝導体は電流を無制限に大きくすることができるため,現在では強力な磁場発生装置に不可欠なものとなつており,この利用範囲はきわめて広い。

超高温の項で述べた核融合装置に欠かせないものとなつているほか,物性研究への利用,高エネルギー加速器,電子顕微鏡,超高速列車の磁気浮上方式への応用の可能性が高い。また,わが国では世界に先がけて,すでにMHD発電への超伝導磁石の応用を試みており,さらに超伝導体の送電への応用が検討され始めている。このような実用化にあたつては,20°K位の温度でも,また強い磁界のなかでも超伝導状態を保つ材料の開発が必要であるが,常温において,ある有機物では超伝導現象が発生することの理論的提案もあり,今後の研究開発に期待がかけられている。

その他,極低温技術は,ロケットの液体水素燃料の製造,水素の分溜による重水素の製造,電子部品の冷却による性能向上など広い分野でその応用が期待されている。


1m゜kは,1/1000゜kは絶対温度を表わし,絶対温度から273.15度を引けば摂氏温度になる。

以上,これらの基盤的科学技術は,近年の科学と技術の一層の緊密化により,その重要性が増大しており,広汎な応用分野をもつ共通的なものであればあるほど,その進展に対する期待は大きい。そして,これらは長期的観点に立つて,培養する必要のあるものであり,またこの分野は科学技術におけるいわば普遍的,公共的性格をもつものであつて,国が主体となつて推進することが要請されている。


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