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第1部   科学技術発展の展望
第5章  新分野の開拓と科学技術水準の向上
2  基盤的科学技術の培養
(3)  情報処理技術


電子技術を母体として誕生した電子計算機は,単なる計算業務への利用にとどまらず,検索,管理などその利用範囲はきわめて広いものとなり,広汎な情報処理の高度化に寄与しつつある。

したがつて,電子計算機およびその利用に関する情報処理技術は,今やきわめて重要な基盤技術となるとともに,今日注目されているシステム技術の重要な要素ともなつている。


(1) 電子計算機システムに関する技術

ハードウエアの主要な性能の一つであるサイクルタイムの高速化と主記憶装置の大容量化は,ほぼ指数関数的に急速に進歩してきた。

これらは(2)でも述べたようにトランジスタと磁気コアマトリクスの特性の高周波化によつて達成された。ICやLSIの技術は,処理の高速化,電子計算機の小型化と同時に,複雑化する電子計算機の信頼度の向上に大きな役割を果たしつつある。磁気薄膜が磁気コアに代つて用いられるようになればさらに性能の向上が期待されるが,マトリクス方式にも限界が見えはじめ,新たな記憶方式の開発が要請されている。

補助外部記憶装置については,磁気ドラムや磁気テープについて,中間的な性能をもつ磁気ディスクや大容量低速磁気コアマトリクスが開発され,さらに,写真フィルムを用いた超大容量メモリーの開発など,用途に応じた性能の多様化が進みつつある。

入出力機器は,高速化と同時に,より使いやすくするという方向で進歩している。出力装置としてのラインプリンターは,機械的な印字機としての限界にほぼ到達しているが,ブラウン管表示方式は,さらに高速の表示を可能にすると同時に,図形処理を容易にした。しかし,入力装置は,出力装置に比べ,性能の向上が遅れている。カードやテープの読み取りについてはOCRなど光学的な読取り方法により,高速化されているが,利用者が,カードやテープを用いないでタイプライターなどにより直接入力しようとする場合,漢字を用いるわが国にあつては,とくに,経済的かつ簡便なタイプライターの開発が要請されている。また,音声や手書文字さらには図形等の読取りも,電子計算機の利用の高度化に必須の要件であり,ソフトウェア,ハードウェアの両面から,強力に研究開発を推進することが望まれている。

第1-62図 コンピュータ主記憶装置のサイクルタイムの推移 (世界の傾向)

ハードウェア自身の性能向上は,演算処理時間の飛躍的短縮をもたらしたが (第1-62図) ,電子計算機システム全体としての能率を向上するため,主にソフトウェアによる連続自動処理機能やタイムシェアリング機能がきわめて重要となつてきた。タイムシェアリングの機能は,オンラインによる多人数の同時使用を可能にするものとして,新しい電子計算機利用形態を生みだしており,電子計算機との対話形式による利用や電話回線との結合により,一般大衆に電子計算機利用を普及させる可能性をもつている。

人間と電子計算機を結ぶ入出力機器やプログラム言語については,より使いやすくするための努力が続けられてきたが,電子計算機からくる制約はまだ大きい。

今後,人間工学的なアプローチにより,さらに,使いやすい電子計算機システムの開発が必要である。

電子計算機技術は,現在一つの完成したパターンを作りあげた。このパターンは,今後,広い分野において,各分野に適応した形で高度に利用されるようになるであろう。しかし,人間の頭脳に比べ,学習,連想,抽象化,認識といつた能力の欠如が電子計算機利用の拡大を妨げていることも明らかである。

電子計算機技術は,電気通信の発展とともに,成熟した電子技術を主な母体として急速に成長してきたが,今後は,さらに幅の広い新しい情報科学技術を確立することなくしては,今までのような発展は期待できないであろう。


(2) プログラミング技術

プログラミングは,従来人間の作業範囲であつたが,プログラム作成に要するコストの増大や,プログラミングに使われる手法,さらにその基礎となる技術体系や理論などの不十分さが,現在プログラム作成にあたつて大きな障害となつている。プログラミングのコストを低減するには,個人的能力に頼つている体制を改め,プログラミング手法の体系化を図るとともに,電子計算機を利用したプログラミング手法を開発することによつて,プログラミングの機械化を図る必要がある。また,異なる機種間のプログラムの互換性を高め,より自然語に近い,使いやすいプログラム言語が開発されなければならない。


(3) 情報処理システムの技術

電子計算機は,早くから,数値計算の機能を利用した科学的な計算に威力を発揮したが,続いて,情報の蓄積,検索機能を利用して,大量データの処理に用いられるようになつた。座席予約サービス為替業務などがその例である。これらの応用形態は,比較的単純なデータを記憶し,常に記憶内容を更新しつつ,必要に応じてデータを取りだすというパターンである。このパターンによるコンピュータの利用は,現在急速に普及しつつあり,きわめて広い分野で応用される可能性を有している。しかし,その利用を進める場合,文献,図形,音声などの形の情報の入力や検索の方法に問題があり,とくに全国的なネットワークを構成する場合には,データ伝送の経済性や信頼性の問題が,さらには秘密保持や情報の帰属の問題が大きなものとなろう。

他方,電子計算機利用による機器やプラントの自動制御が,近年,急速に進歩しつつあり,電子計算機利用の一領域を形成しつつある。電子計算機による自動制御は,人間を単純作業から解放するとともに,他方では多様な需要に適合したより複雑な製品の生産を可能にするという意味で,工業生産技術に革新的な影響を及ぼすであろう。

また電子計算機によるシミェレーションは,自然科学のみならず,社会科学の分野においても重要な手法となりつつある。すなわち,これは多くの複雑なシステムをモデル化し,電子計算機の計算の迅速さを利用して,多数のパラメータを変化させることによりシステムの設計をしたり,予測したり,スケジェールを作つたりすることに応用しようとするものである。PERTなどによる最適化手法は,比較的モデル化の容易な部類に属し,大規模な作業のスケジューリングにすでに用いられている。また運転など教育訓練用のシミュレーションモデルもすでに一部実用の域に達している。この面での困難さは,現実のシステムをモデル化したときのモデルの信頼度にある。とくにきわめて複雑な社会現象を対象とした予測などのモデルは,困難なものが多い。しかし,信頼度の点で不完全ではあつても,他の手段よりすぐれているならば,これを採用する意味は十分にあり,このような観点からこの分野での研究開発が進めば,今後社会科学の手法にも革新的な影響を与えるであろう。

上に述べてきた電子計算機利用の各種手法を総合的に活用して,企業や機関など組織における情報システムを全面的に機械化する試みが行なわれるようになりつつある。この場合,情報システムの分析,機械化情報システムの設計,運用および管理,効果の判定等複雑なプロセスを必要とするが,これに必要な技術の母体はまだ確立されていないため,比較的容易な領域を除いて,まだほとんど成功していない。今後,各組織において,積極的な機械化への試みを行なうことにより,システム技術の応用力を高めるとともに,情報処理システム技術の確立のためにもシステム技術を全体的に育成し,豊富な新手法を開発することがとくに要請される。


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