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第1部   科学技術発展の展望
第5章  新分野の開拓と科学技術水準の向上
1  先導的技術分野の推進
(2)  宇宙開発



(1) 技術発展の傾向

1957年10月4日に行なわれた世界最初の人工衛星スプートニク1号の打上げは宇宙時代の開幕をつげる人類の歴史に残る画期的な出来事であつた。

その後の宇宙開発の進展はめざましく,1969年7月にはアポロ11号によつて人類が月着陸に成功したことは記憶に新しい。宇宙科学研究の面においては,ベネラ(金星)4〜6号による金星大気圏の直接観測,マリナー(火星)6,7号による火星近接写真の撮影等,従来の手段では不可能であつた種々の観測が行なわれ,また,バンアレン帯の発見等新しい発見もあいついでいる。一方,衛星通信に代表される宇宙開発の成果の社会生活に直接つながりのある分野への利用も,すでに実用化の段階に達している。

このような宇宙開発の進展は,人工衛星あるいは観測機器等を宇宙空間に打上げ,所定の軌道に乗せるためのロケットの発達に負うところが大きい。

ロケットの理論については,すでに今世紀のはじめにいくつかの論文が発表されているが,実用化に成功したのは,第二次世界大戦中にドイツの開発したV2号が最初であり,戦後,V2号の遺産を引き継いでロケットの開発に力を注いだソ連およびアメリカは,あいついで人工衛星の打上げに成功したのである。

ロケット自体はあくまでその塔載物(ペイロード)を宇宙空間に運搬するための道具であり,宇宙開発の成果のいかんは,ペイロードをいかに効果的に活用するかにかかつているといえよう。もちろん,ペイロードは目的に応じて種々の大きさと重量をもつものであり,とくに有人飛行の場合には,その重量は非常に大きなものとなる。大重量のペイロードを塔載するためには大推進力のロケットが必要となるが,推力を増すにはロケットの大型化と,既存ロケットの性能向上との二つの方法が考えられる。資料の比較的そろつているアメリカの例をみると, 第1-31表 にみられるように,年を追つて大型化されていつたことがわかる。

第1-31表 アメリカのロケット諸元

ロケット大型化の歴史は,同時に高性能化の歴史でもあつた。 第1-57図 は,ロケットの発射時全重量に対するペイロードの重量の比率を年代順に示したものであり,統一をとるために衛星軌道はすべて高度500Kmとしてある。

この比率が小さいほど,ロケットの単位重量当たりのペイロード重量が大きい。すなわち,ロケットの相対的打上げ能力が高いことを意味するが,図をみれば,年とともにこの能力の増加する傾向が非常に顕著である。このような大型化と高性能化の相乗作用によつて, 第1-31表 のように,打ち上げうるペイロード重量は,飛躍的に増加したのである。

第1-57図 ペイロード打上げの推移

このことは,同一機種の改良についてもいえることで,ソー・デルタロケットを例にとれば, 第1-58図 にみられるように,年々改良が加えられて大型かつ高性能化され,その結果, 第1-32表 のように,衛星打上げ能力も次第に大きくなつているのである。

大型化,高性能化とともに忘れてならないこととして,信頼性の問題がある。宇宙開発の成果を得るためには,ロケットの打上げを成功させることが必要であるが,打上げ成功の確率を高めるために,いわゆる信頼性の向上が図られてきている。

第1-58図 デルタの改造経過

第1-32表 ソー・デルタ推力強化の推移

第1-33表 によれば,アメリカの衛星打上げの成功の確率が年を追つて高まつており,信頼性技術の向上が著しいことがわかる。

第1-33表 アメリカの人工衛星等打上げ成功率

これらの目的のために,ロケットの構成材料には種々の改良が加えられている。すなわち,第1にロケット全重量に対する推進薬重量が大きければそれだけ打上げ能力が増すが,このため,チタン,アルミニウム等を用いた特殊軽金属が開発され,また超高張力鋼の実現によつて薄い鋼板の使用が可能となり,重量の軽減に寄与している。

第2に推進薬の高性能化がある。液体推進薬を例にとれば,初期には燃料としてケロシンUDMH等が目的に応じ,コスト等を考慮して使用されていたが,アメリカは,すぐこれらに比べて性能(通常比推力であらわす)のすぐれた液体水素の利用に成功し,これをサターンVロケットの第2,3段等に使用している。これらの推薬の性能は 第1-34表 に示してあるが,このほかにも,薬品の種類,混合比等を変えて比推力を大きくするための努力が続けられており,固体推薬についても同様である。

第3に,ロケットの信頼性を向上させるため,ロケットを構成するきわめて多くの部品の個々の信頼性を高める研究を進めるとともに,不良品排除などの品質管理を厳密に行ない,またこれら全体が一つのシステムとして宇宙空間という苛酷な条件下にあつて,予定された機能を正確に発揮させるための研究開発が進められている。

また,ロケット噴射に際して生ずる高熱,あるいは空気摩擦による高温に耐えるための耐熱,断熱材の開発等,ロケット材料に関する開発,改良は,あらゆる面において着々と進められている。

これまで述べてきたように,ロケット技術は,大型化,高性能化および信頼性向上を軸として発展してきたが,今後の動向については,次のように考えられる。すなわち,高性能化および信頼性の向上に関しては,引続きその努力が続けられるであろう。大型化に関しては,ヨーロツパ各国においては,フランスのディアマン・ロケット, ELDO(欧州宇宙ロケット開発機構)のヨーロツパ・ロケットのように,同一機種の改造による大型化が図られており,アメリカにおいても宿願の人類月着陸が実現した現在,サターンVより大きいロケットをまつたく新たに開発することは当面は行なわれないものと考えられ,ソー・デルタの例にみられるように,既存のロケットの改造による大型化が図られるものと思われる。

第1-34表 液体推進薬の性能

すでに,数多くの衛星打上げの実績をもつ米ソのほか,これまでにロケットの開発を行なつている各国の現状は,次のとおりである。

1) フランス:1965年にディアマンによつて衛星の打上げに成功し,現在までに自力で4個の衛星を打ち上げている。
2) イギリス:1969年夏にブラックアローの打上げ実験を行なつたが,失敗に終つた。
3) ELDO:1969年夏,ヨーロツパ1(開発は,第1段をイギリス,第2段をフランス,第3段を西ドイツがそれぞれ担当)による人工衛星打上げ実験に失敗した。

次に,わが国における宇宙開発の発展経過について述べると,わが国における宇宙開発は,昭和30年,東京大学生産技術研究所が直径1.8cm,全長0.3mのペンシル型ロケットを開発したのに始まる。以来,同大学において,諸外国と同様にロケットの大型化,高性能化が行なわれてきたが,当初の目的は観測ロケットによる宇宙科学観測にあつたことから,主として,ロケットの到達高度を高めるという方向で行なわれてきた。

こうして,わが国のロケットは,ペンシル,ベビー,カッパ,ラムダと大型化,高性能化していつたが,その開発の歩みは, 第1-35表 に示すとおりである。

第1-35表 東京大学の打ち上げた主なロケット一覧

しかし,開発が進むにつれて,この観測ロケットを姿勢制御すれば,無誘導でも衛星を軌道に乗せうるという考え方が打ち出され,科学衛星をMロケットで打ち上げる計画が,内閣総理大臣の諮問機関である宇宙開発審議会の答申(昭和42年12月),および,これに代つて,総理府に設置された宇宙開発委員会の宇宙開発計画(昭和44年10月)によつて定められた。

こうした考えに基づき東京大学は,科学衛星打上げ用全段固体M-4S型ロケットの予備実験機であるL-4S型ロケットの打上げ実験を試み,昭和41年以降数回にわたる失敗を経たのち,昭和45年2月11日,L-4S-5号機の打上げに成功,その第4段目をわが国としては初めて,また世界でも,ソ連,アメリカ,フランスについで4番目に,人工衛星として軌道に乗せることに成功した。

これにより,東大の,いわゆる重力ターン方式の有効性は確認されたが,これまでの失敗にもみられるように,なお,信頼性の技術において幾分遅れをとつているのが現状であり,Mロケットによる本格的科学衛星の打上げなど,今後の課題となつている。

一方,実用分野における研究開発に関しては,昭和35年以降科学技術庁,郵政省,運輸省,建設省,通商産業省等で進められており,科学技術庁においては実用分野の衛星を打ち上げるためのロケットの研究開発,他の各省においては,通信衛星等の実用衛星の研究を進めている。

実用分野における開発の特色は,人工衛星を正確に所定の軌道に乗せる必要があるところから,科学衛星打上げの場合に比して,精度がきわめて高いことである。

このため,科学技術庁では,液体ロケットおよび誘導制御技術の研究を進め,実験機LS型ロケットおよびJCR型ロケットの打上げ実験を行なつてきた。

その歩みは, 第1-36表 のとおりである。

第1-36表 宇宙開発事業団の打ち上げた主なロケット一覧

今後の方針として,以上の成果を基礎として,さらに足りないところは必要に応じて,アメリカの進んだ技術を取り入れる等技術開発を推進して,実用衛星を打ち上げるための4段式Qロケットを開発することとなつている。また,実用衛星については,電離層観測衛星の開発がすでに着手されている。これらは,昨年発足した宇宙開発実施の中核的推進機関である宇宙開発事業団において開発が進められることとなつている。


(2) 期待される効果

宇宙開発は,科学研究の面で,新しい観測手段を提供することにより,人類の知識の増大,科学技術の発展に貢献しているが,われわれの生活に大別して二つの効果をもたらしている。その第1は,人工衛星を利用することによる経済的,社会的効果である。一例をあげれば,大洋をヘだてた国際通信は,これまで海底ケーブルおよび短波無線によつて行なわれていたが,通信衛星の出現によつて,質,量ともに飛躍的に向上した。

現在,世界商業通信衛星組織(インテルサット)によつてすでに打ち上げられた数個の通信衛星を用いた世界をカバーする国際通信綱が設立され,大容量,高品質の国際通信が行なわれており,アポロ11号月着陸時におけるように,世界テレビ中継を可能としている。さらに,情報の重要性の増大に備えて,インテルサットは,国際通信網の充実を図つている。その他,気象衛星によつて広範囲にわたる気象ゲータの収集が容易になつた結果,これを利用して世界気象監視(WWW)計画が進められており,また,航行衛星による船舶および航空機の航行管制,測地衛星による測地綱の統一等,多くの効果が期待されている。さらに,最近は資源探査衛星を利用した地球資源の開発,各家庭に直接電波を送る放送衛星の構想等がだされている。

今後の開発の進展に伴つて,その効果はますます大きなものとなり,宇宙開発は,わが国の社会開発の基盤を確立する上においても,きわめて重要な役割を占めることになろう。

第2は,宇宙開発のもたらす技術的波及効果である。宇宙開発は,きわめて広い分野にわたる科学技術を総合的に活用してはじめて可能なものであり,しかも,各分野における先端的な科学技術を必要とする。その結果,宇宙開発の推進が科学技術全般の水準を向上させ,新技術の開発を生みだす原動力となつており,たとえば,材料技術,機械加工技術,高温,高圧技術,電子技術,計測技術,信頼性技術等の広い分野にわたつて,技術水準の高度化および新技術の開発に大きく寄与している。

これらの技術の研究開発およびこれらを有機的に総合的に体系づけていくためのシステム工学の経験が宇宙開発以外の分野における発展に貢献することは当然である。たとえば,部品の小型化のために開発された集積回路(IC)は,電子計算機から家庭用テレビに至るまで広く応用されており,また耐熱セラミックは,ロケットの頭部やノズルなどの耐熱材として開発されたが,非常な高温に耐え,しかも急激な温度変化にも強いので家庭用のオーブンとしても利用されている。また,宇宙開発のように,巨大で複雑高度な事業を遂行するために開発されたシステム工学は,たとえば,大工場の建設,造船,土木事業等に応用されており,また,技術面以外にも犯罪防止,都市交通,大気汚染等の社会問題,さらに保健,教育,行政問題の解決にも貢献しようとしている。 第1-37表は,宇宙開発分野における成果の,他分野への応用例である。

第1-37表 宇宙開発の波及効果例




(3) 技術的問題点

わが国が宇宙開発を進めるにあたつての当面の課題として最も問題となるのは,ロケットの誘導制御技術である。わが国においては,誘導制御技術の開発は,ロケット本体の開発に比べて遅れており,実用衛星のように,衛星を正確に所定の軌道に乗せることを要求される場合には,現在よりも高度の技術を開発する必要がある。

次に,ロケットに関する技術全般にわたる信頼性の問題がある。宇宙開発は広い分野の先端的科学技術の集大成であり,そのどれ一つが欠けても成功しないものであるが,そのためには,各分野において非常に大きな信頼が要求される。

わが国においては,去る2月11日,L-4Sロケットによる人工衛星の打上げに成功しているが,なお,信頼性管理技術は,十分に確立されているとはいえない状態にあり,今後とも信頼性管理システムの向上に格段の努力を払う必要があろう。

その他,ロケット構造材料,推進薬,塔載機器等関連する各分野にわたつて開発すべきもの,改良を要するものが数多くあり,これらを解決することによつて,はじめて,宇宙開発の成果が得られることであろう。


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