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第1部   科学技術発展の展望
第4章  経済の効率的発展における科学技術への期待
3  産業構造の高度化と技術開発
(2)  農林水産業,中小企業の近代化



(1) 農林水産業の近代化

わが国の農林水産業は,現在,大きく転換すべき時期に立ち至つている。

すなわち,経済の高度成長に伴う就業人口の減少,経営規模拡大の困難,米の大幅な供給過剰,林産物,水産物,畜産物,果実等の需給不均衡,農産物価格の高騰,経済の国際化に伴う農産物自由化への要請等多くの問題に直面している。

農林水産業就業人口の減少傾向をみれば, 第1-21表 にみられるように,近年,年率4%程度で減少しており,今後さらに減少傾向を強め,昭和50年には630万人程度(全就業人口の約12%)になるものと予測される。このような労働力の減少は,今後の農林水産業にさらに大きな影響を与えるであろう。これに対処するため,科学技術面では,機械化を中心とした省力化技術の確立が強く要請されており,それを基軸に技術の高度化が推進される必要がある。

さらに,国民の食糧消費についてみれば,近年所得水準の上昇とともに,高度化を伴いながら増大している。すなわち,総摂取熱量の増加とともに,そのなかで,でん粉質を中心とする植物性食品から動物性食品への転換,野菜,果実等の比重増大という質的変化が顕著にみられる。今後さらに, 第1-22表 にみられるように,食生活は,ひきつづき西欧水準への接近を続けると推定されている。このような食生活の向上に伴う農水産物需要の質的変化は,今後の農業生産の方向を示している。すなわち,粗飼料の生産確保に基づく大家畜畜産の進展,資源培養型漁業の発展,青果物の安定供給等が重要であり,食糧生産における選択的拡大が強く要請されている。

第1-21表 産業別就業構造

以上に述べた就業労働人口の減少,食糧消費構造の高度化という二つの大きな潮流のなかにあつて,わが国農林水産業が1億人に及ぶ国民に効率的,安定的に食糧を供給していくためには, 第1-23表 および 第1-24表 にみられるような現在の低生産性から脱して,高生産性農林水産業への新たな展開が必要であり,これはまた,わが国の健全な発展のためにも緊急な課題となつている。

高生産性農林水産業展開への歩を踏みだすにあたり,その志向すべき方向は,水利,土地等生産基盤の充実,生産から加工,流通に至る大型機械や大規模施設の建設導入による装置化の進展である。さらに,これらの大型装置の利用を中核として従来の零細な生産単位の枠を越えて,生産単位の大規模化がなされる必要がある。そして,このような大規模な組織内にあつては,中枢管制機構の下に,整備された情報に基づいて,需要に見合つた生産,品質の規格化,出荷調整等がコントロールされるという,二連のシステム化が図られることとなろう。

第1-22表 1人1日当たり栄養摂取量

前述したわが国農林水産業の当面する問題と将来の展望に対して,科学技術はどう寄与しようとしているのか。もちろん,工業生産と異なり,農村社会の影響等種々の条件下にあつて,科学技術の果たす役割は万能ではない。

しかし,農林水産業の近代化の要請が高まるにつれ,科学技術の役割がますます増大してきている。

昭和30年代にはいつて,農林水産業はかつてない高い生産力水準に達したが,これをもたらしたものは,科学技術のめざましい発展である (第1-51図参照) 。これを列記すれば,第1に,品種,栽培法等の改良であり,水稲その他の作物における新品種の普及,水稲における保護苗代による早期,早植栽培の普及が急速に進んだこと,第2に,農薬や高度化成肥料あるいは土壌改良材等各種農業資材の開発普及であり,とくに除草剤,ビニールの多角的利用などが急速に普及したこと,第3は,機械化の進展であり,動力耕うん機,防除機等農業機械の導入が急速に進み,また最近では乗用トラクター,高性能防除機,コンバイン,ヘリコプター等の利用も活発になり,作業規模も次第に大きくなりつつあること,第4には,以上の技術の成立の基礎をなす圃場,用排水施設などについて,新たに開発された効率的な圃場整備工法による改良が進んだこと等をあげることができる。

第1-23表 農業の比較生産性

第1-24表 生産性の国際比較(水稲)

第1-51図 除草剤使用による省力化とその経済効果(水稲)

このように,従来からの増収技術の発展に加えて,省力化技術も進展し,小農的技術としてはすでに高い水準に達している。 第1-52図 にみられるように,近年における科学技術は労働生産性を高める方向で発展しつつあるが,労働力の減少と兼業化がひきつづき進行するなかで,今後さらに高度な機械化技術体系への発展を中心として,科学技術の進展が要請されている。

今後の農林水産技術の展開について,その基本的方向を概観すれば,次のようなものとなろう。

その第1は,大型トラクター,コンバイン,大型真空サイロ等高能率機械・施設が,高性能小型機械・施設との組合せを伴いながら,漸次展開してゆくことである。

水田作部門においてみれば,まず,人力に依存してきた田植作業と刈取作業が,小型田植機と収穫機の開発改良によつて,機械化されるであろう。一方,生産単位の拡大に伴い,大型トラクター,コンバイン,カントリーエレベータ(米麦生産流通合理化モデルプラント)等の利用による大規模機械化体系への進展がみられ,これらは,労働生産性を著しく高めるであろう (第1-53図参照)

酪農部門においては,ルーズバーン方式の大型畜舎における自動給飼・給水装置による飼養管理の省力化および飼料の生産利用段階でのフォーレージハーベスター,大型真空サイロ等の各種機械・装置の利用によつて,生産性が著しく向上するであろう。

第1-52図 労働生産性と土地生産性の推移

さらに,林業部門でも遠隔自動制御方式による集材機,急傾斜で起伏の多い地形に適した林業車両および付属作業機の開発が望まれる。

第2は,温度調節,光質制御および化学物質による農作物の生育調節をはじめ科学的な制御についての技術進歩である。

すなわち,施設園芸部門における広汎な環境制御にとどまらず,育苗における温度調節,果樹摘果剤の開発普及,性誘引物資や不妊物質利用による病害虫の制御,林地における植生別除草剤の開発,化学物質による呈味物質やアミノ酸等の増加に基づく品質改良等があげられる。

そして第3は,生産の基礎条件である土地,水等の整備に関する技術の開発改良が進み,たとえば,水田にあつては,大規模機械化に対応して大計画圃場の整備が必須であるが,とくに地下水位のコントロールに必要な排水組織の確立,用排水の合理的利用,管理の自動制御方式の開発が期待されよう。

その他,果樹部門におけるかん水,防除施設などの集中管理方式,畜産に関しては,山岳地帯における蹄耕法による草地の開発も含めて,高い土地生産性をもつ草地の造成があげられよう。

第4に,貯蔵・加工・輸送に関する技術の進展であり,米の大規模な乾燥貯蔵施設,果実・野菜の大型自動選別施設,低温貯蔵施設,さらに産地から消費地にいたる低温輸送体系の確立等があげられよう。

第1-53図 10年後の労働時間の推定

第5は,需要の増大する畜産や果樹などの部門の拡大に伴い,山地をも含めた土地の総合的な有効利用に関する技術の進歩が期待されることがある。

この際には,気象条件,土壌条件等適地適産の観点はもとより,国土保全,自然休養地等の公益的機能も総合的に勘案した計画技術の確立がなされなければならない。

もちろん,以上に述べた技術の発展の基盤として,優良品種の育成(機械化適応性品種,高たんぱく品種,林木の短期育成品種等),連作障害の解明を含む地力保全技術の確立をはじめ,多くの諸問題が存在することは論をまたない。

さらに,水産技術について述べれば,海洋開発の一つの核として,従来の「とる漁業」から,資源培養型漁業への飛躍的な発展の段階を迎えており,その確立のために,種苗の安定的な生産技術,種苗放流技術,消波堤等の開発を中心とする漁場造成技術の進展が期待されるほか,未開発・未利用生物資源の調査,魚肉たんぱく質の高度利用技術等の推進がなされなければならない。

今後,農林水産業に関する科学技術は,機械技術,電子技術,さらには遺伝現象を明らかにしつつある分子生物学等の他領域との関連を強めることによつて,新しい展開が期待されており,その究極的な目標である自然環境の制約を極力制御することによつて,植物体,動物体を自動的に管理することをめざして,一層の進展が図られるであろう。

以上のように農林水産業の近代化のための技術課題は多く,これら諸問題の解決に当たつては,国が積極的に取り組むことが重要である。


(2) 中小企業の近代化

経済の国際化に伴う外資の進出,後進国の追い上げ,労働力不足の深刻化など最近の中小企業をめぐる情勢はきびしいものとなつている。

第1-54図 付加価値生産性の推移

労働力不足の進行は,今まで若年の比較的安価な労働力に依存してきた中小企業に大きな影響を与え,賃金コストの上昇は中小企業製品の価格上昇の圧力となり,国際競争の場において,豊富かつ低れんな労働力を背景とする開発途上国製品に追いあげられ,とくに米国市場では輸出市場を浸食されているものが多い。また,外資の進出に対処するための国内大企業の再編成に伴う下請中小企業の整理,統合,階層分化などの促進,あるいは需要の成長が高く,比較的量産可能な中小企業分野への外資の進出などが予想され,中小企業はきびしい情勢下にある。

このような事態に対処するためには,生産性の向上 (第1-54図参照) ,企業体質の強化,資金調達力の強化などが望まれている。このためには,資本装備率をあげること,販売力,経営力などの強化を図ることはもちろんであるが,それと同時に技術の向上が肝要である。

中小企業製品のなかで,衣服・身回り品,家具・装備品,出版・印刷,雑貨,金属製品,機械など加工度の高い部門での成長力は,消費構造の高度化,多様化を反映して,他製品に比べて高いものがある。したがつて,製品の高級化,多様化を図るためにより高度の技術水準に到達することが必要であると同時に,現在の技術水準に甘んじることなく,新製品を開発し,製品の多様化を実現することができるほどの技術開発力をもつことが望まれる。

1企業によつて,危険負担の伴う研究活動を実施し,技術を高度化することは,相当多額の資金を必要とするために,おのずからその限界がある。

そのため,共同化や協業化が必要である。また,製品あるいは工程を限定して専門化することも重要である。専門化することによつて,相対的に相当の量産効果を期待できるとともに,製品あるいは工程が限定されるために,技術水準の向上を図ることがより容易となろう。このような技術的高度化は,製品の独自性を創出せしめ,競争上有利な地位を確保することが可能となる。さらに進んで,このような技術ポテンシャルの向上は,同種類の類似製品にその技術を適用することによつて製品の多様化を促進し,専門化によつて生じる専門製品の需要減退,価格低落などの危険を分散させることができるであろう。

以上のように,わが国の中小企業がきびしい情勢に対処して,企業体質の強い中小企業へ脱皮していくためには,共同化,専門化を推進するとともに,技術の振興が重要な課題となつている。

このような観点から,必要とされる技術振興の方向および技術的課題を要約すると,次のとおりである。


1) 現在手作業に依存している部門の機械化の推進

これに該当する技術的課題としては,たとえば,作業工具製造業における研削,研磨工程,モザイクタイルの貼り工程など現在工程のすべてが手作業で行なわれているものの,新鋭の専用自動機械の開発,導入による生産性の向上がある。


2) 各種専用機の高性能化,高速化の促進

これに該当する技術的課題としては,たとえば,レンズ製造業におけるガラス切削機の高精度化,なめし革製造工程における鉤込機の高性能化,織布工程における超高速自動織機の開発などがあげられる。


3) 各製造工程の連続化,自動化の推進

これに該当する技術的課題として,たとえば金属洋食器製造業における研磨工程,鍛造工程などの連続化,レンズ製造業における成型作業工程の自動化,連続化,衣服製造業における自動化などがある。


4) 加工技術の開発,高度化

これに該当する技術的課題として,たとえば,窯業原料の精製技術の改善,開発などがある。


5) 原材料,素材の開発

これに該当する技術的課題として,たとえば利器工匠具製造業における刃物材料の開発,作業工具用材料の開発などがある。

以上のほか,新規製品の開発,デザインの高度化などが必要である。

以上にのべた開発課題を解決するに当たつては,中小企業みずからの努力にまつところも少なくないが,中小企業の技術開発力,資金力などの弱いことから,国の積極的な助成策,税制上の優遇策,技術指導などがとくに必要である。


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