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第1部   科学技術発展の展望
第3章  社会開発における科学技術への期待
2  生活環境の改善と技術開発
(3)  災害防止対策


わが国は,自然災害に限つてみても,その被害額はきわめて多額に及んでおり,世界有数の災害国である。

災害を起こしやすい自然的要因として,気象,地形および地質の三つを挙げることができるが,わが国は,これらの要因を本質的にそなえているといえる。これら自然的要因と稠密な人口,無計画に高度化した土地利用,国土保全のあり方等の社会的要因とが関連して各種自然災害が多発し,年々おびただしい生命と国富が失なわれている。

一方,わが国における労働人口は,いまや5,000万人を超える状態にあり,このうち雇用労働者は約3,000万人にも及んでいる。これら労働者の安全衛生の確保は,国民の多数に関係する問題として,その解決を図らなければならない。このため,災害の防止対策に対する要請は,ますます強まつている。

国土を保全し,国民の安全を守ることは国の基本的責務であるが,災害防止に関する抜本的対策の樹立のためには,科学技術の開発が不可欠である。

このため,防災に関する科学技術の研究を強力に推進し,災害の予知・予報の実現と防止技術の飛躍的な進歩を図る必要がある。

以下,自然災害の防止技術および産業災害防止技術について述べる。


(1) 自然災害の防止技術

自然災害の防止技術としては,予知技術,防止技術,気象制御技術があげられるが,当面は予知技術と,防止技術に重点が置かれており,将来は気象制御技術も重要となろう。


(a) 予知技術

災害対策として科学技術の面から重要なもののーつは,大きな被害をもたらす災害の発生を予知するための技術の確立である。

なかでも,地震予知の実現は,ひろく国民の期待するところであり,近年その可能性が明らかにされつつある。震源の分布は,不規則なものではなく,重力異常,熱流量機構,地殼内ひずみの分布,その他,地球内構成の力学的なつり合い条件に深く関連していることが判明しつつある。このため,これら地質的な構造との関連を追求すべく,観測精度の向上,観測網の強化に努める必要がある。その他,過去に大地震が発生した記録のある地域,活断層地域等,特定観測地域における研究観測の集約実施を行なう必要がある。

また,自然災害のなかでもとくに大きな被害をひきおこす台風,集中豪雨,豪雪,乱気流等の異常気象については,その発生機構を明らかにし,予知方法の確立を図らねばならない。このためには,より広汎な,より高精度なデータの収集が必要であり,気象衛星,気象ロケット,気象レーダ等の利用による気象技術の高度化を図ると同時に,気象データ情報ネットワークの確立が急がれねばならない。


(b) 防止技術

災害を可能な限り少なくするため,災害に強い都市や建造物の建設が必要である。すなわち,地震に対しては,国土全域の地盤調査,高層建築物や超大構造物の耐震構造の研究としての基礎構造物と地盤との相互作用に関する実験的研究,軟弱地盤の振動特性の研究および軟弱地盤工法の研究が重要とされている。

風水害に対しては,河川災害を水文学的,水理学的および地理学的見地から調査研究し,その動的生態を明らかにし,河川災害の防止対策の基礎資料を整備することが望まれている。また,台風時の高潮および波浪の推算に関する研究,防災施設に作用する波力,高潮・津波防波堤の効果等を実験,追跡し,被害を最小限にする研究が必要である。

その他雪害・冷害・干害・火災・地すべり等の災害に対しても,それぞれの防止技術の確立が必要である。

災害は一国内に限定されて起こるものばかりでなく,多数の国にまたがつて起こることが多い。たとえば,台風および津波災害等に関して国際協力が必要であることは多言を要しない。また,自然災害のなかには世界的に検討されるべきものも少なくないから,自然災害防止の科学技術研究は,わが国内だけで行なうにとどまらず,広く外国との情報交換などを図つて,国際的に対処することが肝要であろう。


(2) 産業災害防止技術

わが国の産業災害は,逐年減少の傾向をたどつているが,産業災害による死傷者は,今なお多数にのぼり,職業性疾病も,把握された限りにおいては横ばいを続けており,決して満足すべき状態には達していない。

さらに,今後,産業の進展によつて,安全衛生に対する十分な配慮がなければ,災害の大型化,新しい型の職業性疾病の発生が予想される。

このため,産業活動のより一層の発展に伴つて労働者の安全を十分確保することが必要である。

産業災害防止対策としては,安全教育の推進,管理指導の強化および科学的災害防止対策の三つの柱が挙げられるが,とくに,科学技術的災害防止対策の強化は,最近の技術革新および産業活動の活発化により,要請が強まつている。

このため,1)災害原因の科学的究明,2)機械設備の本質的安全化,3)職業性疾病対策の強化が必要である。

1)としては,災害発生の責任の追求とは異なつた角度からその原因を科学的に掘り下げ,再発を防止する対策を見出すことが肝要である。企業においては,災害が発生した場合,原因調査を徹底して行ない,その原因を科学的に追求することに重点を置かなければならない。

2)としては,(イ)在来機械の安全面の改良改善または安全器具,安全装置等の装着を行ない,災害を予防すること,(ロ)災害発生の原因工程の排除または作業者を不用とする無人機械の開発を行ない,災害原因を除去すること,(ハ)危険の検知機器およびそれを通報する警報体制を整備し,災害の未然防止を図ることといつた技術的対策が必要とされている,3)としては,職業性疾病の把握は困難である上に,未知の分野が広いので,これらの疾病の早期発見および研究体制の整備に努めることがきわめて重要である。

企業においては,健康診断を徹底することはもとより,一般的健康管理についても十分注意を払い,有害要因を排除するための環境改善も必要である。

これら産業災害の防止対策としては,従来は,どちらかといえば,災害や公害に対する直接的,対症的なものが中心であつたが,今後は,災害を未然に防止し,原因を直接除去するような根本的対策を積極的に押し進める必要がある。

これら国民の生活環境の悪化をもたらしている公害および交通事故の増加,自然災害,産業災害による被害に対処するための対策は,緊急を要する課題である。これらの解決のためには,国が主導性をもつて積極的に研究開発を進めるほか,産業界と協力の上,その防止に努める必要があろう。とくに,公害は,複雑な要因から生じ不特定多数の人に危害をもたらすので,今後は事後対策から未然防止へと公害対策を進めることが望ましく,システム分析などの科学的手法を活用することが効率的であろう。


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