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第1部   科学技術発展の展望
第3章  社会開発における科学技術への期待
2  生活環境の改善と技術開発
(1)  公害防止対策


生活環境の悪化をもたらした要因のうち,近年とくに顕著にあらわれてきた公害による危害は大きい。

公害は,大気汚染,水質汚濁,騒音,振動,悪臭,地盤沈下等に大別され,その発生源において多種多様であると同時に,影響範囲も広域化し,多大な被害をもたらしている。なかでも,今日とくに深刻化してきた大気汚染,水質汚濁については,緊急にその対策を講じることが要請されている。

以下,これらの問題について述べることとする。


(1) 大気汚染

大気汚染の原因となる主なものは,工場,ビル等の煙突から排出される媒煙中に含まれているいおう酸化物(亜硫酸ガス,無水硫酸等)および粉じん,自動車の排出ガス中に含まれている一酸化炭素などがある。これら大気汚染物質の濃度は,とくに都心部,工業地帯において高まる傾向にあり,人体に及ぼす危害(たとえば呼吸器系疾患)が顕著に現われている (第1-30図参照) 。これらの防止には,汚染物質の発生源における技術的防止対策が最も重要である。

第1-30図 年齢別慢性気管支炎症状有症率

なかでも,近年エネルギー源が石炭から石油系燃料へと転換するにつれて排出されるいおう酸化物は,その濃度が年々高まつており,国設大気汚染測定網の結果によれば,東京,北九州,尼崎等において著しい上昇を示しているので (第1-31図参照) ,これらいおう酸化物の発生防止技術の開発は,緊急の課題となつている。

第1-31図国設大気汚染測定所別いおう酸化物濃度(年平均値)の経年変化

このような亜硫酸ガスを主因とする大気汚染問題を解決するための技術開発課題としては,燃焼排ガスから亜硫酸ガスを除去する方法(排煙脱硫技術)や,重油からいおう分を除去する方法(重油脱硫技術)等がある。

排煙脱硫(乾式法)は,大量の燃焼排ガスを比較的安価に処理できるため,火力発電所等の重油を大量に使用するところに適しているが,かなり大規模な装置を設けなければならないので,一般の工場等には不向きであり,このような場合には,燃焼前にあらかじめ脱硫した重油を使用する方法をとることが好ましい。このためには,排煙脱硫技術と重油脱硫技術の両技術の確立が必要となつている。

しかしながら,排煙脱硫技術は世界的にもまだ開発途上の段階であり,わが国では,世界に先がけて,国が主体となつて,脱硫率90%を目標に長期にわたり円滑な脱硫が可能な技術の開発が進められ,近いうちに実用化されることが見込まれている。

他方,重油脱硫技術は,既存技術では技術的経済的にまだ多くの問題があり,わが国で使用するいずれの種類の重油でも効率的に処理しうる直接脱硫技術の確立が強く要請されている。このため,国が主体となつて,脱硫率70%を目標に,脱硫性能が高く,しかも低廉かつ寿命の長いすぐれた触媒,高圧高温の反応条件に耐えうる装置などの開発が進められている。

一方,近年の自動車交通量の著しい増大に伴い,一酸化炭素等の自動車排出ガスによる大気汚染が進行し,とくに,大都市の交差点周辺および車道沿いの地域においては, 第1-6表 で示したとおり,その濃度が年々高まつており,深刻な問題となつている。また,風が弱く,接地逆転層が形成される特殊な気象条件下では,汚染はさらに広域化することが認められている。最近では窒素酸化物,アルデヒド類,オキシダントなどが観測され,これに関する研究の推進が重要となつている。

わが国における自動車排出ガス対策技術は,

1) 内燃機関を改善する方式
2) 排出ガスを再燃焼するか触媒を用いて酸化し無害化する方式
3) 燃料を改良し,有害ガスの排出を少なくする方式
4) 新方式の動力源による抜本的な改善を図る方式

に大別できる。

第1-6表 東京都における一酸化炭素濃度年間平均値

このうち1)は,新車の排出ガス浄化のために,まず取り上げられるべき方式であつて,現在,国産新車の排出ガス対策として採用されている。この方式による浄化の限度はまだ明らかでないが,わが国の小型車のような排気量の小さいエンジンで高回転高出力のものは,アメリカの大型車のように出力に余裕をもつた大きな排気量のエンジンに比べて,技術的な困難さが多いとされている。

2)については,実用化されているものとして,排気管への空気噴射方式がある。

本方式は,スモッグ防止のための炭化水素低減策の一つとして開発されたものであり,わが国でも一酸化炭素のほかに炭化水素の規制を行なつているアメリカへの輸出車の一部に採用されているが,排気物の浄化の向上を図るためには,さらに改良する必要がある。触媒を用いる排出ガス浄化装置は,主として耐久性に難点があり,その向上のための研究が進められているが,まだ実用化されていない。この方式は,使用過程中の点検整備のみでは排出ガスを減少させることが不十分な中古車への採用が期待されているとともに,高度な浄化を目標とする新車対策としても注目されている。

3)は,燃料の組成および性状が排出ガス組成や触媒式浄化装置の性能に及ぼす影響,あるいは,添加剤によつて燃焼を促進する方法などについて研究が行なわれている段階である。

4)は,自動車排出ガスの抜本的方策といわれ,電気自動車,蒸気自動車,ガスタービン等の研究が進められているが,現用の自動車に比べ性能および価格の両面で遜色のないものの開発が急がれている。これらのなかで,電気自動車は,比較的開発が進んでいるが,その成否は,安価で,かつ効率のよい燃料電池の開発にあるといわれている。

また,現在問題となつている一酸化炭素の濃度の低減は,他方では窒素酸化物の濃度の増大を招くことも認められているので,これらの点に留意して,自動車排出ガス防止技術の総合的,大規模な研究開発をすみやかに推進することが望まれる。

このほか,大気汚染防止対策に関しては,人体,農作物,林木,家畜等に対する汚染物質の影響の解明,これらに必要な分析,計測技術の確立が急がれている。


(2) 水質汚濁

水質汚濁による被害は,工業用水,上水道水源の汚濁,農水産業用の各種用水への悪影響,船舶の外板や橋脚の腐食などのほか,都市環境や人の健康にも及んでいる。

すなわち,熊本県水俣市,ついで新潟県阿賀野川流域に発生した有機水銀中毒事件および富山県神通川流域に発生したカドミウムによる「イタイイタイ病」等は,長期間にわたる微量重金属の汚染によつて,人体に悲惨な危害をもたらした代表的な例である。

水質汚濁の汚染源は,各種工場の排水,家庭下水,船舶からの廃油,鉱山排水,家畜飼育場排水等,種々様々であり,また汚染物質についても,それぞれ性質の異なつた化学物質であるため,汚染対策は困難なものとされている。

近年,都市河川の汚染が著しくなる傾向にあるが,これは,人口の都市集中に伴う工場排水,下水量の増加に対して,処理施設の普及,下水道事業の進捗が遅れている点に主たる原因がある。しかし,適当な技術が開発されていないものが多いことが,防止施設の効率化などを大きく妨げていることも否めない事実である。

水質汚濁対策技術は,

1) 汚濁軽減技術・・・・・・各種排水の個別処理技術,共同処理技術,循環再利用技術,下水道終末処理技術,スラッジの燃焼焼却技術,放流投棄に関する技術など
2) 汚染予測,汚染調査に関する技術・・・・・・水理模型実験技術,理論拡散方式によるシミュレーション技術,監視測定技術,分析計測技術など
3) 人体および動植物への影響究明に関する技術

に大別できる。

1)については,微生物処理方式,物理・化学処理方式,あるいはこれらをを組み合せた総合処理方式などがあるが,微量の油分の除去,水銀,カドミウム等を含んだ排水の処理,種々の排水の混入した共同処理,下水処理の困難な汚泥スラッジ等の処理などについては,いまだ多くの技術的問題を残している。たとえば,下水道の処理は,現在の技術では,経済性を考慮に入れると,一般にはBOD(生物化学的酸素要求量)を20PPM程度までしか下げられない上に,窒素は特別な条件を付与しないと処理できない状態である。また,共同処理についても,汚濁物質の構成によつて種々の技術の組合せを必要としているが,実験資料の不足等のため,適正な処理方式を適用することができないような例がみられる。

2)については,水理模型実験や理論拡散方式によるシミュレーションが水質汚濁状況の将来の予測に活用されているが,今後より精度が高く,迅速かつ弾力的な予測方法の確立が必要となつている。

また,汚染監視,排水処理の管理などに種々の機器分析が導入されているが,重金属,油等の微量分析,計測機器の自動化,自動管理のオンラインシステムの開発等,いまだ未解決の問題が多い。また,測定分析法も,上水道,下水道,工業用水,工場排水などで不統一な面があり,この統一を図ることが望まれている。さらに,測定技術の簡便化,自動記録計の開発の要請も強まつている。

3)については,人体,水産物,農作物に対する影響面の研究により,因果関係の究明,汚染機構の解明などを行ない,汚染の実体の把握に努めるとともに,汚濁物質の許容度を明らかにすることが必要となつている。

以上のように,水質汚濁対策技術は,まだ十分とはいえず,研究開発の努力の傾注が望まれている。また,水質汚濁物質については,技術の発達によつて新しい化学物質等がでてくるおそれがあるので,これらについても,その影響が顕在化する前に,その実態を把握し,未然に防止することが肝要となつている。

このほか,現在表面化している問題に廃棄物の処理がある。生産や流通の過程,あるいは消費に際して形態を変えて排出される老廃物や廃棄物の量も,生産活動や,国民所得などに正比例して増大し,その質も,生産や生活などの構造の変革に伴つて複雑化してきている。また,その処理方法も,従来のように,焼き捨てたり,埋立てに使うという画一的な処理では,おぼつかなくなつてきており,さらにこのまま放置すれば,廃棄物の不法投棄や無計画な盛土,埋立てなどによつて,環境汚染の重大要因となるのは明白である。このため,産業廃棄物,生活系廃棄物の合理的処理体系の確立および資源化して活用するための研究開発が重要とされており,国,地方公共団体および企業が一体となつて推進すべきである。

これに加えて,し尿処理技術,下水処理技術,悪臭,騒音,振動,地盤沈下の防止技術等についても,技術的に解決しなければならない問題が山積している。とくに,わが国は,資源の不足,地形的な悪条件のもとで急速な経済成長を達成したために生じたともいえる公害問題については,国が中心となつてその解決に取り組む必要があり,問題解決の根底をなす公害防止技術の開発は,急がなければならない。


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