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第1部   科学技術発展の展望
第2章  技術発展の動向
2  技術発展と国民生活
(4)  安全性の向上


科学技術の進歩は,交通機関を安全なものとし,保健衛生の向上に資するなど,生命に対する危険を軽減し,国民生活を営むうえで一段と安全性が向上した。

交通機関の安全性の向上の例としては,航空機,船舶,鉄道などの種々の保安装置があり,これらは,事故防止に貢献している。

航空機の事故は,着陸時に最も多く発生しているが,電子計算機を使用した計器着陸方式(I.L.S)の採用で地上からの指示電波で確実に誘導され,安全に着陸することができるようになつた。この装置は,ローカライザー(機の進入コースの左右のずれ測定),グライドパス(機の傾斜角度測定),マーカ(機から滑走路までの距離測定)の三つの方式の組合せにより,自動的に最適条件を地上から航空機に指示する構造になつている。

航空機の事故率は, 第1-19図 にみるように,年々減少する傾向を示し,安全性は大幅に向上されつつあるが,これは,計器飛行方式などの航空機操縦の自動化の採用によるところがきわめて大きいといえる (第1-19図参照)

現在,わが国で使用されている計器着陸方式は,地上200フィートまでしか誘導できず,その後は,まだ操縦士に依存しているが,今後,完全自動化が進み航空機の安全性と定時性の向上に寄与するであろう。

第1-19図 飛行方式航空交通量および事故率の推移

船舶の場合も,自動化船の開発が進められており,昭和44年12月起工した大型タンカー(13万8千重量トン)には,航法計算や人工衛星を利用して行なう船位測定などを電子計算機によつて自動的に行なう航法システムが採用されている。このほか,レーダに写つた相手の船を電子計算機が自動的に読みとり,警報を発し,未然に事故を防ぐ衝突防止システムなどの開発が進められており,これらが実用化されると船内の労力の軽減に資するとともに,より安全な航海が可能となろう。

鉄道の事故も,数々の自動化技術の採用で,着実にその効果をあげ,逐年減少する傾向にある。その主なものには,信号の自動化,信号と分岐器とを電気的にリンクさせる継電連動装置,列車集中制御装置(C.T.C),自動列車停止装置(A.T.S),A.T.Sを一歩進めた自動列車制御装置(A.T.C)などがあるが,わが国では着々とその整備が進み,安全性の向上が図られている (第1-20図参照)

C.T.Cは,一か所で一定の線区の信号,分岐器を集中的に制御することが可能で,列車を安全かつ能率的に運転させることができるものである。

また,A.T.Cは,車内信号方式を採用し,信号指示と連動して,ブレーキを自動的に作用させ,列車の速度制御を行なら装置で,万一故障した場合でも,常に,安全側(列車を停止させる方向)に動作する機構になつており,昭和39年10月にはじめて東海道新幹線で実用化されたものであるが,現在に至るまで人命にかかわる事故の発生は皆無であり,非常に安全性の高いことが立証されている。

第1-20図 自動信号化,継続連動化および列車事故の推移(本国有鉄道)

保健衛生の面では,従来の農薬や医薬品などは,高い毒性や副作用などを有するものがあつたが,新機能をもつものが開発されたことにより,これらの幣害は次第に除去されつつある。さらに,不治の病といわれた病気も,効力の著しい医薬品などが次々に開発され,治療が可能となり,健康の保持,増進が一層図られた。

たとえば,医薬品では,クロラムフエニコール等の抗生物質の出現は,従来,死亡率が高く治療の困難であつた肺炎,気管支炎などの細菌性疾患の制圧に大きく寄与しているがさらに,多くの抗生物質が開発され,その数は今や60種類にも及んでいる。 第1-21図 に示すとおり,これら抗生物質は,病原菌の種類や性質によつて広く感染症に用いられており,また最近まで治療が不可能とされていたがんについても,有効な数種の化学療法剤が出現してきている。このため,白血病,扁平上皮がん等の治療が可能となつてきた。

第1-21図 抗生物質の病原体に対する抗菌性

一方予防面では,日本脳炎,ポリオなどのウィルス性伝染病は,一度感染すると,化学療法による治療は比較的困難とされていたが,これらの発生防止のためにワクチンが開発され,死亡率が著しく減少した。

一方,副作用の除去の例として,ハシカ・ワクチンをあげることができる。ハシカによる死亡者は,近年激減の傾向を示しているが,その理由の一つに,昭和41年から普及したワクチンの効果が高く評価されている。ところが,この不活化ワクチン(Kワクチン)の副作用に対する疑問が次第に強まり,その接種が下火になつて,ハシカによる死亡者が再びふえ始めた。この副作用の大きなものに異形ハシカがあり,自然ハシカよりも重くなる場合がある。これに対処するために,Kワクチンと弱毒性ワクチン(Lワクチン)とを併用して用いる方法が試みられ,かなりの成果が得られているが,さらに,安全な新ワクチンの開発が進められている。

また,農薬では,いもち病,白葉枯病,紋枯病に対して従来,それぞれ水銀剤,銅水銀剤,砒素剤が使用されていたが,これら重金属を含む農薬は,食品への残留の危険性があつたが,抗生物質の農薬への応用に関する開発研究が進み,その結果,いもち病にはブラストサイジンSとカスガマイシン,白葉枯病にはセロサイジン,紋枯病にはポリオキシンなどの新抗生物質が発見され,実用化に移された。

これにより,食品への残留の危険性も少なくてすみ,低濃度の散布で十分に防除効果を発揮できるようになつた。

さらに,ブラストサイジンSは粉剤を散布した際に,目に炎症を起こす危険があるため,その対策としてデトキシンが発見開発され,いもち病に対する防除効果には影響を与えずに,目に対する障害のみを軽減することに成功し人体に対する安全性を高めることができた。

ポリオキシンも同様に非常に毒性が低く,人畜には無害であり,植物,魚に対する毒性もなく,安心して使用することができるようになつた。

一方,害虫防除においては,従来,パラチオン,EPNなどの人畜毒性の高いものにかわつて,殺虫効果は全く劣らず,しかもきわめて毒性の低いスミチオンなどの開発が行われ,従来よりも安全に害虫防除ができるようになつた。

このように,抗生物質系への移行などにより,農薬は人畜,食品などに対する安全性を向上させることが可能となつた。


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