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第1部   科学技術発展の展望
第2章  技術発展の動向
1  発展形態からみた技術の動向
(6)  品質の高度化・高性能化


品質の高度化・高性能化は,技術が指向する必然の形態であり,顕著な例についてみることにしよう。

品質の高度化では,高圧碍子,IN高張力鋼,スポンジチタン,MK磁石鋼,農作物の品種改良などが端的な例としてあげられよう。

高圧碍子の耐電圧についてみると,昭和31年には約250kvであつたものが,41年には約500kvへと飛躍的に向上したが,耐衝撃性,耐アーク性を有する磁器開発などがその重要な鍵であつた。

IN高張力鋼は,すでに登場していたTI高張力鋼に比べて溶接性にとみ,すぐれた低温靱性をもつている (第1-10図参照) 。IN高張力鋼を生みだすためには,電炉,平炉,転炉で溶解する鋼への精度のよい窒素の添加方法の確立,適切な窒化物の種類と量の決定,圧延,熱処理条件の選定などの研究が必要であつた。

第1-10図 IN高張力鋼の低温靱性

農産物の品種改良では,水稲の新品種レイメイがあげられる。これは,多収かつ耐冷性の強いフジミノリの種子にコバルト60を照射したもので,フジミノリのもつている特性に加えて,短桿で倒伏性が強く,機械化に適している。

このほか,品質の高度化,原材料の有効利用のためのプロセスの改良,開発の例として,製鉄業におけるLD転炉の開発,化学工業における完全循環法による尿素合成技術,ナフサ分解による塩化ビニルモノマーの製造技術などがあげられよう。

LD転炉では,純度の高い酸素を吹き込んで鋼を精錬するので,普通の銑鉄が使用できる上に,りんや酸素の含有量の少ない良質の鋼が得られる。最近では,高炭素鋼,低合金鋼などの製造も可能となつた。

完全循環法による尿素合成では,蒸気消費量の低減効果もあるが,粒状尿素は固く,表面がなめらかで植物に有害なビュレットが少ないなど使用特性のすぐれた品質を得ることができる。

ナフサ分解方式による塩化ビニルモノマーの製造技術は,従来のカーバイトを原料とする方法とは異なつて,石油を原料とする方法であり,原料転換のほかに副産物や廃棄物の少ないこと,電力消費の少ないことなどが長所としてあげられる。

第1-11図 鉄道における速度の推移

高性能化の例としては,高速化を実現した東海道新幹線,高精密化を果たした高性能電子顕微鏡,高性能質量分析機,時計,カメラなどがあり,このほか性能が顕著に向上したものとして,YS-11,国産自動車などがあげられよう。

東海道新幹線は,新しい軌道構造や架線の開発,A.T.C,C.T.Cなど制御技術の開発,高速車両の開発などによつて,従来の鉄道と比べて,飛躍的な高速化を実現せしめた (第1-11図) 。高性能電子顕微鏡の分解能は, 第1-12図 に示すように,年ごとに高性能化している。従来の光学顕微鏡は,せいぜい倍率2,000倍程度で,解像力も0.2u程度が性能的に限度であつたが,電子線を使う新しい理論が発見され,1932年に電子顕微鏡が登場するに至り,倍率は200,000倍以上,解像力も0.002μ以下となり,従来の光学顕微鏡に比べて一挙に100倍も能率をあげることが可能となつた。さらに,優秀な電子レンズの開発,電圧,電流変動低減技術の開発,装置の設計,工作技術の高度化などによつて,ますます高性能なものとなつている。

第1-12図 高性能電子顕微鏡の分解能の推移図)。高性能電子顕微鏡の分解能

有機化合物の構造解析に使用される高性能質量分析機は,従来実用的分解能が,約3万(分析試料の質量の3万分の1の質量を分析できる)までであつたのに対し,42年頃には従来のものより簡単な操作で,分解能約7万の装置が開発され,複雑な有機化合物中に含まれる水素と重水素との区分ができるようになつた。

YS-11は, 第1-13図 に示すように,最大有料荷重に比して,離着陸距離が短かく,すぐれた安全性と耐久性を有している。これは,広い面積のフラップの採用,余裕馬力の大きいエンジン,大直径の4枚羽根のプロペラ,大きな主翼などすぐれた設計技術によつて完成したものといえよう。国産自動車の性能は, 第1-14図 に示すように,加速性能,エンジンの効率向上が図られ,着実にその成果があがつている。

第1-13図 機種別離陸滑走路長および最大有料荷重

第1-14図 国産自動車の高性能化の推移

また,最近個々の技術の品質の高度化,高性能化とならんで,これらを総合化した装置,システムの大型化,複雑化が急速に進んでいるが,それとともに,所要の機能,性能を発揮させるためのいわゆる信頼性の向上が重要な問題となつている。

信頼性の向上は,材料面での品質の高度化,装置を構成する部品類の軽量・小型化や高性能化,また,新らしい機能をもつ部品の採用,信頼性管理技術の採用など,あらゆる面の総合的な技術の集合化により達成されるものである。

ここでは,電子機器類の信頼性について概観してみよう。

最近における主要な電子部品の故障率は, 第1-2表 のとおりで,マイクロモジュール化,固体電子回路の採用などによつて,従来のものに比べ,信頼性は大幅に向上している。

すなわち,これらは,配線,組立ての作業がなくなり,異種物質の接合点が少なく,かつ,気密性が良いため,衝撃,振動,湿気,塵埃などに対して,非常に強くなつたため,信頼度を大幅に向上させることができたのである。

第1-2表 主要電子部品の故障率

とくに,固体電子回路は画期的なもので,接触個所は入力・出力の二か所しかなく,また,機械的構造を必要としないので,信頼性はほとんど完全に近いといつてよい。

したがつて,これを使用することにより,あらゆる重要な電子機器の信頼性を著しく向上させることができた。このように,電子機器に限らず,あらゆる機械装置についても,技術の進歩に伴い,性能の向上が図られるとともに,信頼性を向上させることができたのである。これらの機器類を総合化したシステムの信頼性は,たとえば東海道新幹線自動列車制御装置(A.T.C)の場合にみるように,きわめて高いものになつている (第1-3表参照)

第1-3表 東海道新幹A.T.Cの平均故障間隔

品質の高度化・高性能化は,今後も大きな課題となるものと思われる。たとえば今までのものよりもつと高品質な材料(複合材料,合金,セラミックスなど)の開発,原油を原料としコークスを熱媒体としてエチレンを経済的に有利なコストで製造するオレフィン等の新製造法の開発,YS-11よりも高性能な国産ジエット機の開発などが予想され,これとともに,信頼性の向上もさらに飛躍的な発展をとげることが予想される。

これらの諸形態のほかに,たとえば東海道新幹線などのように多くの技術分野の成果を結集し,これらを有機的に結合し,組織化するという技術の総合化という形態がみられる。以上に述べてきた技術の開発にあたつては,それを構成する諸要素の技術水準が高かつたことが重要であつたことはいうまでもない。しかし,個々の技術を巧妙にかつ効果的に組み合せるいわゆる技術の総合化,システム化によつて,十分,所要の機能を発揮させることができたことを見逃してはならない。技術の蓄積が多くなり,また,大型かつ複雑なプロジェクトの出現するなかで,技術の総合化は重要な発展方向になると思われる。

以上のべてきたように,技術は,大容量化,自動化,直接化,新機能の創出,軽量・小型化,品質の高度化・高性能化の面でさらに飛躍的に進展するものと考えられるが,とくに最近では自動化,直接化技術が顕著な動きを示している (1-15図参照)

第1-15図 導入技術からみた形態別件数の伸び率の推移

また,ここでとりあげた主要な技術をみると,その開発を成功させた共通的な基盤技術として,材料技術,電子技術,情報処理技術,制御技術,触媒技術,分析計測技術,システム技術などがあげられよう。

このような共通的な基盤技術の進展が支えとなつて,ここでのべたような発展形態を一層高度化する方向に技術が発展しており,このことがわれわれの生活にもつと高度な豊かさ,快適性,便宜性,安全性などを賦与してくれるのである。


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