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第1部   科学技術発展の展望
第1章  技術革新の新展開
1  現代の技術革新の特質


現代における技術革新はめざましく,その及ぼす影響も広く,かつ深い。

実際,われわれの生活が向上したのは,科学技術の発展によつて巨大な生産力が生みだされ,生産,流通,消費という経済のメカニズムを通じて,われわれにその恩恵をもたらしたからにほかならない。

現代の技術革新には,いくつかの特質がある。

まず第1に,現代の技術革新は,これまでになく広汎な規模をもち,かつ多様な様相を呈しており,その結果,科学技術は,社会を変革し,先導する原動力となつている。

科学技術は,自動化,省力化等によつて生産性を向上させ,労働時間の短縮を可能にするとともに,新製品を生みだし,品質を改善して,多様化し,高度化するわれわれの欲求を満足させる。また,通信・輸送手段の発達によつて時間,距離の障壁は次第に克服され,われわれの活動領域は拡大する。

こうして,技術格差,核兵器不拡散条約等の問題にみられるように,科学技術は,いまや政治,外交,経済上の重要な問題となつている。そして,次代の社会といわれる情報化社会は,電子計算機の発達による情報処理技術の飛躍的進歩をはじめとする数々の科学技術の発展によつてもたらされようとしている。このように,科学技術は,これまでになく,社会を大きく変え,これを先導するものとなつている。

第2に,現代においては,科学技術が高度に発展し,技術革新を意識的,目的的に惹起せしめることが可能となり,しかもそのもたらす恩恵がきわめて大きいことが明らかになつた結果,社会の要請に応じて,計画的,目的的に科学技術を発展させることが非常に重要となつている。

かつては,偶然ないしは僥幸の産物という面が強かつた発明発見は,いまや組織的,制度的な努力の成果としてもたらされるものとなり,研究活動においては,社会の要請にこたえて行なわれる目的的な活動が重要となつたのである。アポロ計画の成功は,その典型であり,あらかじめ目標,期限,方法等を明確に定め,努力と英知を結集することによつて,所期の目的を達成したのである。

もちろん,研究活動は,一つの創造的活動であるため,その成果は,必ずしもそれに傾注される努力に比例するとは限らず,また,科学技術の発展が,技術革新を達成するために必要な唯一の要因ではない。しかし,今日のように科学技術の果たす役割が増大している時代においては,社会の要請にこたえて,技術革新を達成するため,目的的,組織的に研究努力をつくすことが,きわめて重要となつている。

これを裏付けるように,欧米先進国においては,国民総生産の2%以上の資金を研究活動に投入し,社会の要請にこたえて,組織的,計画的に研究開発を実施している。また,民間企業においても,多くの企業は,研究活動をその活動の1部門として制度化し,積極的に研究を行なつている。わが国においても,国民総生産の1.5%が研究活動に投入されており,しかも,その70%は,民間企業が支出している。

このように,科学技術の重要性が増大し,しかもそれが意識的な努力の成果としてもたらされる可能性が大きくなるにつれて,科学技術に対する信頼度が高まり,これに対する期待も増大する。このため,科学技術を発展させるための努力の多寡が社会の発展を左右するものとなつている。

第3に,現代においては,技術革新に対する対応策が遅れ,しかも,技術革新の速度および規模が大きいため,技術革新のアンバランスが顕在化し,深刻な問題を惹起していることがあげられる。

技術革新は,社会を発展させるものであるだけに,とくにその速度が急速である場合には,社会にアンバランスをもたらすことになりやすい。しかし,このために技術革新を拒否することは,社会の発展を否定することを意味する。したがつて,技術革新の速度および規模が,社会のもつ調整能力の範囲内にある場合はともかく,これをこえる場合には,社会的アンバランスを解消するとともに,社会の一層の発展を図り,社会の発展と調和という矛盾する要請に対処し,技術革新の成果を十分に享受するための対策が必要となる。

しかしながら,これまでその対策はほとんど講じられないままになつているため,これが重大な問題を惹起している。しかも,いまや全面的な工業化,都市化が進行しつつあり,これらの問題は,深刻な様相を呈し,かつ多様化し,広域化しつつある。これに対応して,社会の要請も急速な高まりをみせており,しかも,この傾向は,今後ますます強まるものと思われる。

したがつて,これに対する対策を講じる必要がある。

高度に発展し,社会の多様な要請にこたえうるものとなつている科学技術は,このアンバランスを是正し,社会の調和ある発展を図る上で大きく寄与することは疑問の余地がない。しかし,現在は,社会開発の面における技術革新については,社会の要請と科学技術のポテンシャルとの間に,著しいギャップが生じているので,早急にこれを埋めることが必要となつており,一部導入技術に依存するとしても,きわめて大きな努力が要請されよう。一方,経済発展の面では,科学技術は,導入技術という便法があつたことも幸いしてめざましい技術革新を達成してきており,今後もますます主導的な役割を演じるであろう。

このような社会的アンバランスは,経済発展に支えられて生活水準が向上し,私的消費が多様化,高度化することによつて,生活意識が高まり,その結果不満感もつのることになるので,ますます大きな問題となる。したがつて,このアンバランスを是正することは,科学技術の面でも重要な課題となつている。

第4に,科学技術が高度に発展するにつれて,専門化う 分化するが,社会の要請にこたえて技術革新を達成するためには科学技術の総合化,大規模化が必要となり,その結果,システム技術の重要性が増大していることをあげられよう。

アポロ計画は,システム技術の発展によつて可能になつたといわれるように,科学技術が高度化したため,新たな技術を生みだすためには,多種多様な科学技術を手段と目的に整序し,体系化し,これらの効率的な組合せを図ることが必要不可欠となる場合が多くなりつつある。とくに,今日のように技術自体が大型化し,複雑な組合せを必要とし,これに多様な機能をもたせることが要求される時代においては,その目的に即して必要な手段を開発し,それを効率的に組み合せることがきわめて重要である。

このシステム技術の適用範囲は,単に科学技術の分野にとどまるものではない。変動し,発展するとともに,複雑化,多様化する現代社会においては,そこに生じる問題を解決する有力な手段として,システム技術の重要性は大きい。すなわち,現代社会に発生する問題は,複雑化し,高度化しており,その要因は多様であるとともに,相互にきわめて錯綜している。したがつて,この問題を解決するに際しては,これらの多くの要因の複雑なからみ合いに配慮し,社会全体からみてもつとも適切な対策を講じなければ,社会全体にとつてかえつてマイナスの効果をもたらさないとも限らない。

このため,複雑な問題を解決するのに適したシステム技術の手法が多くの分野において用いられ始めようとしており,今後ますますこの傾向が強まることとなろう。

このように,今日においては,技術を開発し,技術革新を達成するためにも,また,社会に生じる多種多様な問題を解決するためにも,システム技術がきわめて重要な手段となつており,システム技術の格段の発展が図られなければならない状況にある。

第5に,技術革新を達成する上で,政府の役割が増大しつつあることをあげることができよう。

科学技術の重要性が増大するとともに,研究開発が大規模化し,かつ,それに伴うリスクが大きくなるにしたがつて,政府の役割は増大する。たとえば,原子力開発,宇宙開発等,海洋開発等はその典型的な例であり,政府がその推進主体とならなければ,開発はまず不可能に近いであろう。さらに,交通,輸送,通信といつた社会活動が行なわれるフレームワークを整備し,公害防止,保健衛生,災害防止等の課題を解決することは,政府の活動にまつところが大部分であるだけに,これらの分野における科学技術を発展させ,それを技術革新に結びつける上で,政府の役割は大きい。また,政府は,みずから研究を実施するにとどまらず,科学技術人材の養成,研究体制の整備,情報流通の円滑化,民間研究の助成等,種々の科学技術振興方策を講じており,ここでも政府の役割は増大しつつある。

主要国においても,このような情勢を反映して,科学技術振興に対する政府の努力はきわめて大きく,多額の資金と多くの人材とをこれに投入している。たとえば,アメリカにおいては,予算総額の約9%,フランスにおいては約8%,ソ連,イギリス,西ドイツにおいては約5%が,科学技術の振興にあてられている。

さらに,研究活動における政府の役割の大きさは,国全体の研究投資の何パーセントを政府が負担しているかを示す研究費の公共負担割合によつてみることができる。もちろん,政府の役割は研究活動だけに限定されるものではないし,また,国情によつてかなり異なるものであるが,主要国においては,国防関係の研究費が含まれているとはいえ,ほとんど50%をこえており,アメリカ,フランスにおいては,ほぼ70%にも及んでいる。このような状況は,科学技術の振興に果たす政府の役割が大きいことを示すものである。


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