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 序説

(60年代の回顧)1960年代は,一言にしていえば,急速な発展の時代であつた。わが国は,多くの面で飛躍的な発展をとげ,国際的地位も向上した。

わが国経済は,急速に成長し,国民総生産において自由世界第2位の地位を占めるまでになつたし,社会も大きく変貌し,いわゆる工業化社会からさらには情報化社会へと移行しつつある。

科学技術についても,事情は同様であつた。欧米先進国に対して相当な技術格差をもつて出発したわが国の科学技術,とくに産業技術は,積極的な技術導入,その消化,改良,しんしな研究開発努力等によつて急速に欧米先進国の水準に近づき,社会・経済の発展に大きく寄与してきたのである。

しかしながら,わが国の科学技術は,いまなお欧米先進国との間に存在する格差を完全には解消しておらず,とくに,先端技術分野においてこれが著しい。さらに,1960年代の後半からとくに問題視されてきた社会開発の推進のための科学技術は,産業技術に比べてかなりの遅れがみられ,早急に発展させる必要に迫られている。

(70年代の課題)現代の科学技術は,とどまることを知らぬ発展を続け,次々と社会を変化させていく。科学技術は,経済を発展させ,社会開発を推進し,生活の豊富さ,快適さを高め,豊かな社会への発展の可能性を増大させる。国際化,情報化,都市化の一層の進展が予想される1970年代を迎えて,豊かな社会の創造という社会の要請にこたえるべき科学技術の使命はきわめて重要であり,科学技術振興の意義も,ここにあるといわなければならない。

今後の科学技術の課題の第1は,社会開発の推進である。すなわち,公害の防止,健康の増進,交通輸送の円滑化等の諸問題にこたえ,積極的に国民福祉の向上に寄与することは,現代の科学技術に課せられた大きな課題である。

第2は,経済の効率的発展である。経済の国際化と労働力不足が進行するなかで,経済を効率化し,その国際競争力を強化し,一層の経済発展を達成するために先端技術をはじめとする産業技術がきわめて重要であり,また,中小企業,農業の近代化等を図る上で,科学技術の果たす役割は大きい。

第3に,新分野の開拓である。科学技術は,単に現在の社会の要請にこたえるにとどまらず,未知の領域を開拓し,人類の可能性を拡大するものである。現在,推進されている原子力開発,宇宙開発,海洋開発等は,その代表的な例であり,社会・経済を先導し,変革する原動力となろう。

(調和と発展)科学技術の今後の発展は,これらの課題を次々と解決し,新しい未来を切りひらくことであろう。他方,複雑な現代社会においては,豊かな社会を創造するため,社会・経済の調和と発展という二つの目標を同時に達成することが強く要請されている。

したがつて,社会が急速に発展し,つねに変動してやまない現代においては,社会が発展すればまた新しい問題が生じるという社会の矛盾に対処しつつ,高福祉,高能率な社会を創造することこそ,現代の科学技術に課せられた最大の課題である。最近,一部には,科学技術の進歩が社会にひずみをもたらす原因であるかのように考える向きもあるようであるが,むしろ,科学技術の力によつてこそ,その解決が図られるのである。とくに,このような複雑かつ錯綜した現代社会の問題の解決にあたつては,システム技術を活用し,社会全体としての最適な解決に資するとともに,社会に発生する問題を予測し,これを未然に防止する措置を講じることが重要かつ不可欠となつているのである。

最近のアポロ計画の成功にみられるように,科学技術の可能性は,ほとんど無限であるといつてもよく,これを現代社会の諸問題の解決に指向させつつ推進することによつて,社会・経済の調和ある発展を実現することが可能となるのである。

(科学技術振興の方向)わが国の社会・経済の高度化に伴い,いまやかつてのように単に欧米先進国の例にならうことは許されなくなつており,わが国は,進むべき道をみずから定め,みずから切りひらくべき時期に立ち至つている。しかも,従来技術導入に大きく依存してきたわが国は,技術水準の向上等に伴い,必要とする高度な技術を入手することが次第に困難になつている。

したがつて,内在する国内の諸問題を解決し,経済の国際化に対処するためには,導入技術依存から脱却し,積極的に自主技術開発を進めることが必要となつている。

科学技術に対する期待がますます高まりつつあり,科学技術が解決すべき課題が山積している今日,科学技術を発展させ,社会・経済の要請にこたえることはきわめて重要である。このため,錯綜する社会・経済の諸要請にこたえうる合理的な科学技術政策を策定し,これを実施することが要請されている。

したがつて,今後の科学技術政策の策定にあたつては,システム分析的手法を活用し,社会・経済の要請を十分に把握し,これを科学技術振興の目標設定,計画策定等に反映させなければならない。

そして,これに基づき,先導的技術,社会開発関連技術等,重要な科学技術について,明確な開発目標を設定し,計画的,重点的に振興することが肝要であるとともに,現在とみに重要となつているシステム技術の発展を図る必要がある。さらに,科学技術がつねに社会・経済の要請に十分こたえうるよう,その基盤を培養し,その水準の向上に努めることが肝要である。

わが国の研究費は,昭和43年度には,7,678億円に達したが,社会・経済の諸問題を自主技術によつて解決するためには,今後研究努力を一層増大するとともに,その効率的活用を図り,科学技術に対する期待の増大にこたえなければならない。とくに,今後重要となる先導的技術,社会開発関連技術の開発等,政府の役割が増大することにかんがみ,政府は,その研究努力の一層の充実を図る必要がある。

(本書の構成)本書は,昭和44年度を中心としたわが国科学技術に関する諸活動の動向を分析したものであるが,その構成は,3部からなつている。

第1部においては,社会・経済に多種多様な影響を与えている科学技術の発展形態を通じて科学技術の発展の動向をみるとともに,科学技術が国民生活に大きく寄与していることを示し,現代の科学技術は,社会の多種多様な要請に十分こたえうるほど高度に発展しつつあることを述べる。

次に,1970年代を迎えて,社会開発および経済の効率的発展を達成するために,科学技術に課された重要な課題とその解決の方向を示唆するとともに,原子力開発,宇宙開発,海洋開発といつた先導的科学技術および科学技術を支える基盤的科学技術の動向と技術開発の方向を明らかにしようと努める。

最後に,このような要請を中心に,科学技術の振興を図る上で重要となつている事項について検討し,自主技術の研究開発を,重点的,効率的に推進するとともに,人材の養成,情報流通の円滑化等を図ることが重要となつていることを述べる。

第2部においては,わが国における科学技術活動の動向について,研究投資および人材,科学技術情報活動,国際協力,技術交流および特許出願の面から分析する。

第3部においては,わが国の科学技術の振興を図るために実施している政府の諸施策について,科学技術関係予算,政府機関等における研究活動,民間等に対する助成および科学技術振興基盤の強化の面から,昭和44年度を中心にして述べる。


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