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第3章  科学技術人材
3.  人材の確保とその需給


明治以降,日本経済の基本的な性格として,そこには常に豊富な労働力があつた。貧弱な資源と対照的に,豊富な労働力,人口の相対的過剰の現象は,技術にも影響を及ぼし,豊富な労働力を前提とした技術がまず発達した感があつた。ところが,昭和30年代以降の急速な産業面の技術革新は,経済規模の拡大をもたらす結果となり,同時に,労働力の需要も急上昇を示した。ここに,労働力市場は,従来とは逆に,供給の不足を示すようになり,さらに若年労働力の不足は一層この傾向に拍車をかけることとなつた。一方,その需要は,量的な変化にとどまらず,その質的な面にまで及んできた。すなわち,オートメーションのごとく,従来とは全く性質の異なつた生産工程の採用により,その労働力は一方では非常に単純化するとともに,他方ではこれらの装置を管理し,操作する技術者および技能者に非常に高い資質を要求するようになつた。この,高度の技術・技能労働力の需要増大は,これに対応する人材の養成を強く要望する結果となり,その結果科学技術者養成機関としての高等教育機関,また,企業内等における再教育,再訓練等が非常に注目されるようになつた。

この人材養成に関しては,科学技術会議諮問第1号答申によつて,その重要性と諸方策が述べられ,これに基づき,高等教育機関における理工学系学生の定員の増員と,高等専門学校の設立等が実施に移された。すなわち,この答申によれば,昭和35〜45年の間に約17万人の供給が不足であるとしており,これに対する方策として,昭和36年以降逐年,理工学系高等教育機関の学生定員の増加が図られることとなつた。まず,昭和36〜42年度の間に1万6,000人の増員計画がたてられたが,この計画の実施をもつてしても,その需要に応ずることが困難であつたため,さらに,昭和36年度から昭和38年度までに2万600人の定員増が実施された。また,その後の大幅な定員増によつて,昭和40年度の1年次学生数は,大学で86,478人,短期大学で8,260人,高等専門学校で7,500人,合計10万2,247人と5年間に約4万4,500人の増となり,78優の増加を示すようになつた。( 第3-10 , 11 , 12表 参照)

第3-10表 高等教機関における1年次在学生数の年度別比較

第3-11表 理工学系学生増員計画(20,600人)の実績およびそ の後の増員状況

第3-12表 理工学系学生増員計画の内訳

一方,この増員と並行して,卒業生の需要も増大の一途をたどり,工学部については,その就職者率(全卒業生に対する就職者数の比率)は,最近では90%を下がることがないといつた状態で注),さらに,産業構造の高度化,経済規模の拡大と相まつて,この需要増加の基調は基本的には当分続くものと予想される。しかし,このような新規学卒者の供給増加は,大勢として,科学技術者の不足を漸次解消の方向に向かわせ,近い将来に,産業界における学部卒業者の充足状況は相当緩和される時期がくることが考えられる。しかし,科学技術者の需給は,専門分野別および教育段階別についてみれば必ずしも均衡がとれているとはいいがたいので,科学技術の目標ならびに経済および社会の要請に応じて,長期的観点にたつた科学技術者の養成を図るためには,教育段階別,専門分野別の検討が重要であり,今後は,これに必要な関係資料の整備をはかるとともに,調査研究を行ないこれに基づいた科学技術者の養成計画を策定する必要があろう。

注)残りの大部分は大学院に進学している。

さらに,開放経済に伴う産業界の競争激化等により,独創的技術の開発が叫ばれる今日,その需要動向からして,人材の量的な供給の面のみならず,質的な面に関しても従来にも増して,目を向けざるを得なくなつた。科学技術者の質的向上に対する要望は,近年高まる一方であり,それに対応して,教育機関の教育の質的向上は,量的な拡大とともに,急務になつて来た。その結果,大学はもちろんのこと,大学院に対する期待も近年急に高くなり大学院卒業生の需要は増加の傾向にあり,今後は高級科学技術者養成機関としての大学院の役割は益々高まつていくものと思われる。発展する科学技術に対応し,その創造力を発揮させることのできる科学技術者を供給することは,今後の人材養成に課せられた大きな課題であり,質,量,両面の確保がわが国の科学技術活動の将来の動向をになうものといえよう。

また,日進月歩の技術に対処していくためには,企業内の技術者に対する再教育,再訓練が極めて重要であることが認識され,技術者の資質の向上策として,再教育をとりあげている産業がみられ,今や教育機関の充実とともに,人材の供給に果たすこの分野の役割の重要性が認識されつつある。

企業内の教育訓練は,日浅くして導入されたTWI.(TrainingWithin Industry)MTI(ManagementTrainingProgram)CCS(Civil Commu‐nicationSection)を端緒としており,一般の企業内職員を対象として開始されたわけであるが,その後,これをもとにして発展してきた教育訓練が,海外の諸企業に大きく差をつけられていた戦後のわが国の企業を今日の状態にまで成長させてきたことについて大きな役割を果たしているものと考えられる。

しかし,技術の高度化とともに,これら教育訓練もその内容が高度化されるのは当然のことであり,従来の教育内容や教育方法をもつてしては,必ずしも十分なものではないと考えられるようになつてきた。とくにわが国の産業が今後国際競争力を培養していくためには,そのにない手である技術者や技能者の能力の十分な開発が要請されており,また,最近の科学技術の進歩による新らしい知識や情報量は著しく増大しているが,これらを技術,技能として消化吸収していくためには,従来に代る高能率的な教育技術の開発が必要となつてきている。すでにアメリカ,ソ連等においては,大脳生理学,行動心理学,,サイバネテイックス等の人間科学および人工頭脳を生み出した電子科学の理論と技術を基礎として教育技術に飛躍的な進展を遂げつつある。この方向は,一言にしていえば,知識注入主義を排して思考力を育成しようとする頭脳訓練主義への移行であるが,その具体的な方法技術として登たのがティーチングマシンの利用によるプログラム学習方式である。

プログラム学習方式とは,学習者に学習のプログラムを示し,各人がその能力差,個人差に応じて,それぞれの早さであるいは,それぞれ異なつた過程をふみながら個別的に学習するというものであつて,従来の学習方式と違つて学習者を積極的に学習に参加させることが特色である。またこのプログラムは,教科の内容を論理的にフレーム(あるいはステップ)と呼ばれる小単位に配分し,学習者が,その能力に応じて,そのフレームの解答,訂正を継続していくことによつて,学習事項を理解するように作成されるものであり,プログラムは一般的には,プログラム教科書として,学習者に提示されるが,学習効果を高めることから,ティーチングマシンの活用がはかられている。

一方,わが国の新しい教育技術についての現状では,視聴覚教育としてのテープ,スライド,映画等は比較的発展をみているがプログラム学習方式および,ティーチングマシンについては,いまだ実験的に試みられているにすぎず,今後の発展が期待されている。

また,企業内再教育,再訓練のほかに,企業外におけるものとしては大学および大学院における再教育,再訓練がありこれは学校側が産業界の人々を,聴講生,研究生のような形で受け入れているのが大部分である。また,大学院に関しては,企業等の雇用主の命により入学している場合もあり,統計的にはとれないが,高級科学技術人材養成の場として大きく活用されている。


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