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第2章  研究活動
3  研究投資
(2)  民間企業の研究費


わが国の研究投資において,民間の負担率が大きいことはすでに述べたとおりであるが,この民間産業は,営利を目的とするかぎりにおいて,研究投資もまた経済効果のあがる研究に重点を置くことは当然のことである。これを段階別にみた場合,工業技術院 注1 )および科学技術庁 注2 )の調査にーよれば,基礎,応用,開発研究の割合がそれぞれ11〜12%,35〜38%,51〜53%であり,民間企業の研究投資は,最も短時間に資金の回収が得られる開発研究に重点が置かれていることが認められると同時に,開発研究に最も多額の資金を必要としていることがうかがわれる。

また,質的な面からみた場合,民間企業の研究は,従来ややもすると導入技術の消化に傾きがちな面があり,企業活動の源泉を外国の研究開発に求める事態も一部にはみられた。しかし,厳しい国際競争にうち勝つためには,今後は自主技術の開発が何よりも急務であり,短期間に研究投資の成果を得ることを目的とするだけでなく,長期的見地に基づいた研究活動の活発化が要請されるようになつている。

第2-49図 研究費の対売上高 比率の推移


注1)技術交流に関する調査,中間報告書(41,1)工業技術院


注2)企業経営面からみた研究管理の状況調査‐科学技術庁 40年度調査

研究費(支出額)の対売上高比率をみると( 第2-49図 参照),昭和36年度の1.12%を最高として,それ以後は減少する傾向を示しており,昭和39年度は1.04%となつた。この傾向を企業活動のうえからみた場合,売上高の増加は必ずしも利潤の増加に結びつかず,また,景気の下降期には早急に投資効果が求められない研究投資を低く押え,資金を他の部門に多く使用する傾向にあること,大企業においては研究規模の拡大化により,経営者が研究への投資に慎重にならざるをえなくなつたことなどが反映されているものと考えられる。

1 規模別分析

経済の規模の拡大とともに,民間企業もまたその規模を拡大し,世界の主要大企業中に占めるわが国の企業の比率は,増加する傾向にある。また,近年の技術革新は,生産工程,生産規模をますます高度化,大型化させ,企業の生産額,従業者数等においても大企業の占める比率は,年々増加しつつある。研究活動の面でも,この傾向は同様である。研究を行なつている会社数は,資本金10億円以上100億円未満の規模では昭和35年の323社から昭和39年度の563社へ,資本金100億円以上では36社から82社へと2倍強の増加を示している( 第2-50図 参照)。また,研究を行なつている会社の割合は,資本金100億円以上では,87社中82社と94%の割合に達し,特に,製造業では,58社全部が研究を行なつている。資本金規模が小さくなるとともに,この割合は減少の傾向を示し,資本金100万円以上1,000万円未満の層では,わずかに5.3%となつている。

研究費の資本金階層別の構成をみると,第2-50図(B)のとおり,資本金100億円以上の企業は,昭和35年度では26.4%,311億円であつたものが,39年度には41.6%,967億円へと大幅に増加した。また,資本金10億円以上の企業を合計すると,39年度には,全研究費の77.7%を占め,その大半を使用している。なお資本金100万円以上1,00万円未満の小企業の占める割合は,35年度の11,5%から39年度には3,1%に低下しており,その比重は,減少する傾向にある。

第2-50図民間企業研究活動資本金別推移 (A)会社数の増加割合

第2-50図民間企業研究活動資本金別推移 (B)研究費の支出構成比

このことは,企業規模により,研究の内容がかなり異なつており,小企業ほど商品の改良研究など,販売政策上特に短期間にその成果を求める研究が断片的に行なわれていることが示されているものと考えられる。

次に,1社当たりの研究費では,資本金100億円以上の企業では,39年度には11億8千万円となり,最小の階層である資本金100万円以上1,000万円未満の企業ではわずかに145万円で,実に820倍の開きがある。ところが,35年度以降を時系列でみると,意外なことには,各層ともほとんど増加していない。もちろん,個々の企業を考えた場合,35年以降大幅な増額を続けている例も多々あるものと思われる。しかし全体としてみた場合には,過去5年間に増資等により上位規模層に移動した企業が多いこと,また全産業が含まれているため,研究活動のさかんな産業と,低下傾向にある産業とが相殺し合つた場合もあることなどを考慮しても,研究規模能力を大幅に拡充した一部の企業を除き,大部分の企業は,研究所の建物のような固定資産に大きい投資をする場合のほか,一定の研究陣容,研究目的のもとでは,急激な拡大を図ることが困難なためあまり激しい変化を示さなかつたものと思われる。(第2-51図参照)

第2-21表 「会社等」研究者1人当たり研究費

同様に,1人当たり研究費をみると,「会社等」全体では,第2-21表のように年々かなり・の増加を示しており,特に,39年度は,407万円(支出額を研究者数で割つたもの=A/N),147万円(人件費と固定資産購入額を除いた研究費を研究者数で割つたもの=B/N)となり,前年度に比べてそれぞれ62万円,23万円の増加となつた。

しかし,これを資本金規模別にみると,第2-52図及び53図のごとく,資本金の規模によりかなりの相違がみられ,大企業になるにしたがつて金額が高くなつているが,全体の動きは,10億円以上の企業の動きにかなり左右されていることがわかる。

次に,第2-54図により資本金階層別の研究費費目別構成をみると,35年度以降,いずれの年度においても大企業ほど人件費の割合が低いことがわかる。年度別にみれば,各階層とも毎年人件費の割合が増加しているが資本金100億円以上の企業では35〜39年度で27%から35%へと増加したものの,他の階層に比し,依然として低い,これに対し資本金1億円未満の企業では,ここ23年は50弾%こす状態になつている。また,資本金100万円以上1,000万円未満の小企業では,人件費の比率が高く,しかも毎年の変動がかなり激しい。

一方,これと逆の傾向を示すものとして,固定資産の購入額がある。年々研究費全体に占めるその割合は減少しているが,資本金階層別では,大企業ほどの購入比率が高い。なお,消耗資材費については,ほとんど変化がみられない。

第2-51図 資本金規模別,1社 当たり研究費

第2‐52図「会社等」研究者1人当たり研究費

これらの事実は,大企業ほど研究が大規模化し,毎年,研究装置等に多額の経費を新たに使用しているが,消耗資材費は,研究者が使用するものであり,研究活動を続ける限り,毎年一定の経費が支出される性質のものであるためと思われる。また,固定資産の購入額を土地建物とそれ以外のものとに区分してみると,資本金100万円未満の階層を除き,各階層とも,昭和36年度に土地,建物に対する投資が最高の割合を示し,この時期に研究所の設立等,本格的に研究施設の拡充が進められたものと考えられる。資本金階層別では,大企業の方が土地,建物に対する投資の割合が高い。

最後に,研究費の対売上高比率は,昭和36年度を最高に以後減少していることはすでに述べたとおりであるが,資本金階層別にこれをみると,第2-55図のごとく,一般に大企業ほどこの比率は高く,資本金100億円以上の企業では,昭和36年度の1.40%から昭和39年度の1.17%まで,常に1%をこえている。資本金10億円以上100億円未満の階層では,1%を上下しており,他の階層と比較して,ほぼ安定した動きをしている。

それ以下の階層の企業では,年度による変動がかなり激しい。

また,全体の比率が年々減少していることは,とりもなおさず資本金100億円以上の企業の動きに左右されたものである。しかし,資本金100万円以上1,000万円未満の小企業層では,研究実施企業数が5%程度ではあるが,第2-55図の如く,年度による変動はかなり激しいものの,売上高比率の水準は高く,研究を行なつている会社はかなり意欲的な投資を行なつているものと考えられ,また,これが研究投資額の最低限度を示すものとも思われる。

2  産業別分析

産業別の研究費の構成では,昭和39年度では製造業が全体の約90%を占め,その製造業のなかでも特に化学工業と電気機械工業がともに全体の20%を越す額を使用しているのが特徴的である。

第2-53図 「会社等」研究者1人当たり研究費

第2-54図 資本金規模別費目別構成比 (A)人件費

(B)固定資産

この2産業は,すでに述べたように,企業活動が基礎科学の分野に密接しており,研究開発がその企業の維持発展の基盤であるとされる分野だけに,民間の研究活動において大きな役割を果たしているものと考えられる。

また,この2産業における研究投資の伸びも目ざましく,化学工業においては,昭和35年度は270億円で全体の21.8%であつたものが,39年度は657億円,26.9%と絶対額および構成比とも目ざましく増加し,しかもその増加の傾向が毎年安定的である。また,電気機械工業は,化学工業についで多額の研究費を使用しており,昭和35年度には280億円,22.6%と化学工業よりも多くの研究費を使用し,その後は化学工業とほぼ平行して増加してきたが,昭和38年度に504億円に達したのち,39年度は,景気の影響を受けたためもあつて508億円とほとんど増加を示さず,その構成比も20.8%と低下した。このため39年度においては,化学工業が電気機械工業を追い抜く結果となつた( 第2-56図 参照)。

第2-55図 資本金規模別研究費 の対売上高比率

この2産業に続くものとしては,輸送用機械工業,機械工業,鉄鋼業があり,これら3産業の研究費は,39年度でそれぞれ,242億円,190億円,133億円といずれも100億円を突破している。

次に,昭和35年度の研究費を100として39年度の水準をみると,第2-57図のごとく伸びが高いものとしては,建設業の490,続いて非鉄および金属製品の273,化学工業242,機械工業221等があげられる。これらのなかで,建設業は,基準となつた昭和39年度が異常に低すぎるためともみられ,またその絶対額も昭和35年度で33億円とあまり多くないので,比較の対象外とすれば,非鉄および金属製品が36億円(全体の構成比2.9%)から99億円(24.1%)へと増加しているのが特に目立つている。反対に研究活動の伸びが停滞している産業としては,鉱業が25億円から19億円へと2割以上の減少を示し,その産業構造のうちに占める比重の低下とともに,研究活動のうちに占める比重もまた低下している。続いて,全産業の増加指数平均195を大きく下まわる産業としては,繊維工業143,鉄鋼業153,窯業163等がある。繊維工業,窯業等は,この間の増加額もそれぞれ約20億円と低く,全体の研究費の増加にはほとんど寄与していない。

第2-56図 研究費産業別構成比の推移

研究費の費目別の構成をみると,各産業とも人件費の割合が増加しつつある。昭和39年度で人件費の割合の高い産業には,鉱業35%,繊維工業49%,食品工業48%,窯業47%,木材およびパルプ工業と機械工業のそれぞれ46%がある。これを35年度と比較すると,食品工業と木材,パルプ工業は,すでに35年度で44%,45%と高い率を示しており,人件費を中心とした研究費がこれらの産業の構造的特性であるとも考えられる。しかし,鉱業では32%から51%へと4年間に19%も人件費が増加している。これは,研究費そのものは減少したが,そのうち人件費は他の費目比べて減少しがたい性格をもつているため,その比率が相対的に上昇したものであると思われる。そのほかには,繊維工業の32%が49%へと17%の増加,続いて10%以上の増加を示すものとしては,鉄鋼業,電気機械工業があり, 一般に研究費の増加率の低い産業では,人件費の割合が高くなる傾向にある。

反対に,人件費の増加率が非常に低く,しかもその構成比も低い産業としては,化学工業がある。化学工業における人件費比率は,昭和35年度は33%であつたものが,昭和39年度は36%と3%の増加を示したにすぎない。これは,人件費の増加と平行して,固定資産の購入額等が増加したためである。一般の産業において人件費と固定資産購入額がほぼ逆の動きを示しているなかで,化学工業においては固定資産購入額の割合が35年の32%,39年度は33%とんど変わらず,全費目にわたる研究活動の充実を示すものと思われる。

第2-57図産業別研究費の推移 (主要産業のみ)

一方,固定資産の購入額の割合は,全般的な傾向としては低下を示し,その構成比率は,全産業平均で4年間に約10%低下している。そのなかで,機械工業,鉄鋼業,輸送用機械工業は,それぞれ249%)減,18%減,18%減とかなり激しい低下を示しているがこれは,昭和35年度の構成比が41%,40%,46%と他の産業に比べて特に高い構成比を示していた産業であつて,昭和39年におけるその構成比についても特に少ないわけではない( 第2-58図 A,B参照)。

産業別の研究費固定資産購入額を全購入額に占める構成比でみると,化学工業は年々その比重を増し昭和35年度の20.3%から昭和29年度は35.8%へと急激な増加せみぶりをている。これに反して,電気機械工業は,昭和36年度の6.1%を最高にして,その後は絶対額,構成比とも減少し,昭和39年度では15.1%となつて,これまでの最低値を示した。

また,この固定資産の購入額は,民間産業の設備投資の動向と非常に類似しているが,各産業の設備投資額のなかに占める割合と,研究費の産業別の構成比とを比較してみると,化学工業と電気機械工業においては,設備投資の構成比率をはるかに超過した比率を研究用固定資産の購入額において占めていることがわかる。

製造業について,研究費と出荷額,付加価値額との関係をみると,製造業全体を100とし,研究費,出荷額,付加価値額それぞれの産業別構成比を示したのが第2-22表である。これらの数値だけでは,特に系統的な関係は見出せえないが,その構成比で出荷額,付加価値額に対して研究費が特に高い数値を示しているものに化学工業と電気機械工業がある。これに対し,逆の関係を示す産業には食品工業と繊維工業があり,その他の産業では,出荷額,付加価値額,研究費の比率の動きの相違は,あまり認められない。

第2-58図産業別,費用別構成比

第2-22表 研究費と出荷額,付加価値額各構成比の比較

次に,1社当たり研究費では第2-59図のごとく,全産業平均が昭和35年度の1,890万円から昭和39年度には2,380万円と26%の増加となつているが,昭和36年度にはすでに2,330万円を示しており,その後ほとんど増加していない。昭和39年度の産業別の1社当たり研究費をみると,多額のものとしては,鉱業5,500万円,化学工業5,800万円鉄鋼業4,900万円,電気機械工業6,400万円,輸送機械工業8,900万円などがある。これらの産業のなかで,最高額の研究費を示している輸送用機械工業は,船舶工業,自動車工業が非常に多額の研究費を支出しており,両産業とも近年の発展をよく反映し,昭和36年以降も1社当たり投資額が低下することなく,増加の一途をたどつてきている。ただ,研究実施会社数がほとんど増加していないため,全体の研究費のなかに占める割合は,ほとんど増加しない。

第2-59図 産業別1社当り研究費

化学工業と電気機械工業は,1社当たり研究費でも高い値を示しているが電気機械工業については,昭和36年度の1億4,280万円を最高に,その後は減少を続けている。鉱業については,全体では減少しているものの,石炭関係会社数の減少と金属鉱業の研究費の増加の結果として,1社当たりの研究費は増加している。

研究費の対売上高比率では,全体に昭和36年度以降減少の傾向にあるが,第2-60図のごとく製造業では,昭和39年度に1.20%となり,昭和37年度の水準にかえつた。産業別には,化学工業および電気機械工業のそれぞれ2.31%が最も高く,これに続くものとしては,輸送用機械工業の1.40%,機械工業の1.22%がある。反対に低い方の産業としては,食品工業の0.42%,紙,パルプ工業の0.45%がある。全産業の対売上高比率の平均は1.04%であるが,このラインに達している産業はわずかに4産業である。しかし,また,この4産業がいずれも研究投資の中心的な産業であるため,全体の比率を高めているわけである。かりに化学工業と電気機械工業を除いて対売上高比率を計算すると,昭和39年度はさきに述べた全平均の1.40%に比べ,0.69%と大幅にダウンする結果となりこの両産業がいかに民間の研究活動で重要な役割を果たしているかとうかがわれる。なお,研究費の対売上高比率は,各産業とも特徴的な数値をもち,年によつて大きく変動することは少ない。

第2-60図産業別研究費の対売上高比率

以上の各種の分析により,民間産業の研究活動では,化学工業が著しく活発であり,次いで,電気機械工業が重要な位置を占めている。これらの傾向から,上記の2産業は,研究活動が企業活動に重要な役割を果しているとみられる。研究活動の面から,このように非常に研究の活発な産業と,これと反対の産業に分けると時系列的にながめた場合,一般的に後者の産業は経済活動におけるその比重が低下し,前者の比重が大きくなつてきているということができよう。


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