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第2章  研究活動
3  研究投資
(1)  研究費の推移


今日研究投資が国の経済発展の支柱の一つであり,企業にとつては,研究開発こそ,企業活動の源泉であることは,ひろく認識されてきており,研究費は,その国の国力を示す一つの指標であるとさえいわれるほど,重要視されるようになつた。

わが国の研究活動は,いまや欧米の主要国と比較して議論される段階にまでに発展してきた。しかし,従来からよく指摘されたように,基礎研究が不足していることや導入技術消化のための研究の比重が大きいことなど,研究の質に関しては,先進諸国の水準を下まわるところが少なくない。このような現状に対して,一方では研究投資は,その成果が短期間には期待できないものであり,またリスクも非常に多いことなど投資の増大に対する積極的な意欲をさまたげる要因も多い。したがつて,これらの研究水準の向上を図り先進諸国に対する遅れを取り戻すためには,今後現状の的確な把握と研究投資の重要性の十分な認識にたつた総合的,長期的な研究投資の効率的な実施拡充について,一層の努力を尽すことが必要であろう。

わが国の経済は,朝鮮動乱後急速な復興,発展を示したが,研究活動もこの時期から本格的に始まつたものと考えられる。研究費の推移については 第2-14表 , 第2-41図 に示すように毎年増加しており,特に,経済が急激に発展し,技術革新が進展した昭和34〜36年度は,対前年度比30%増という急速な増加を示した。しかし,その後経済の安定化の傾向とともに,研究費の面についてもこのような急激な変動は影をひそめ,増加率は,昭和37年度には一挙に14%台に落ち,その後もあまり伸びの変化を示していない。

第2-14表 研究費とその対前年度増加率の推移

わが国の場合,ここ数年の技術革新は,従来の技術の部分的改良を主とするものと,原理の発展に基づく飛躍的なものとが同時に花を開くこととなつて,研究投資における成果も高いものとなつたが,それだけに,研究投資に対する態度がやや安易に流れる傾向があるように見受けられた。しかし,今後の技術の発展のためには,将来の飛躍に備えた十分な蓄積が必要であり,研究投資も極めて短期的な研究,開発の成果のみにいたずらに左右されることなく,長期的な展望にたつた上での安定的な拡充が望まれており,国全体にわたる総合的見地からの質量両面における再検討が必要となりつつある。

第2-41図 研究費の推移

また,研究投資を研究費の国民所得(新しい国民所得方式により計算したもの)に対する比率によつてみると,第2-47図のように39年度におついては1.73%となり,はじめて1.73台にのることとなつた。しかし,これとてもけつして十分なものではなく,すでに昭和35年に行なわれた科学技術会議諮問第1号「10年後を目標とする科学技術振興の総合的基本方策にいて」に対する答申においても,29%をこの比率の一応の目標としており,さらに,昭和41年8月にだされた同会議の意見書においては,近い将来において2.5%になることを目標としており,今後のより一層の充実が望まれるところである。

1 研究費の構成

総理府統計局の「科学技術研究調査」では,研究実施の組織を「会社等」「研究機関」「大学等」 注) の3者に分けている。これによつて,まず,研究費の組織別の構成をみると, 第2-42図 のごとく「会社等」が全体の研究費の3分の2を占め,残りを「研究機関」と「大学等」が分けている。この比率は,ここ数年来続いており,最近では「会社等」が64〜65%「研究機関」16%,「大学等」19〜20%の水準のまま,ほとんど変化をみせていない。この事実は,3者ともほぼ同じ率で増加していることを示しているが,一方,絶対額では,「会社等」と残りの2者との差がますます大きくなることを意味しており,わが国の研究投資はますます民間企業の投資動向の影響を強く受けるようになつたともいえる。


注)「会社等」会社等とは,「農業」,「林業,狩猟業」,「漁業,水産養殖業」,「鉱業」,「建設業」,「製造業」.「運輸通信業」「電気,ガス 水道業」(以上日本標準産業分類による。)を営なむ資本金100万円以上(ただし,農林水産業は1,000万円以上)の会社および特殊法人である。調査の単位は,企業であつて,その名簿は,昭和35年事業所統計調査の結果にもとづいて作成したが,資本金1,000万円以上の会社については,その他の最近の資料によつて修正した。

なお,ここで特殊法人というのは,日本国有鉄道・日本電信電話公社・日本専売公社・日本原子燃料公社のほか,公団日本放送協会などそれぞれ法律にもとづいて設立された法人をいう。ただし,日本原子力研究所・理化学研究所など研究専門の特殊法人は,つぎの研究機関に含めた。

「研究機関」

研究機関とは,人文科学および自然科学に関する試験研究または調査研究を業務とする国,公,民営の研究

また,対前年度増加率においては, 第2-15表 のように,「大学等」が最も高い率を示したが,その絶対額が低いため,全体の増加には大きな影響を与えなかつた。

第2-42図 研究費の組織別構成比の推移

研究費の費目別構成では,「人件費」,「消耗資材費」,「固定資産の購入額」および「事務その他の経費」の4つがある。まず,人件費については,毎年高い増加を示し,研究費増加の寄与率においても最近は約半分を占め,昭和39年度では,1,649億円となり,5年間に約3倍となつた。これに対して,固定資産購入額は,35年度,36年度機関であつて,その名簿は,各省庁からの報告にもとづいて作成した。なお,本章においてとり扱う研究機関は自然科学部門のみである。

「大学等」大学等とは,学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づく大学の学部(大学院の研究科を含む。)大学附置研究所,短期大学および高等専門学校並びに国立工業教員養成所の設置等に関する臨時措置法(昭和36年法律第87号)にもとづく国立工業教員養成所である。なお,高等専門学校は昭和38年から調査対象とした。

調査の単位(1枚の調査票を作成する単位)は,大学の各学部,大学附置研究所,短期大学,高等専門学校および国立工業教員養成所である。に非常に増加したが,その後は,やや停滞状態となつている。消耗資材費と事務その他の経費においては,全体の増加傾向とあまり異なつた動きはない。( 第2-16 , 17表参照 )

したがつて,これらの構成比をみると, 第2-43図 のように,人件費の割合は増加し,消耗資材費,事務その他の経費は一定の比率を保つているか,固定資産購入額は減少している。「会社等」,「研究機関」,「大学等」についてみると,特に人件費の割合の高いのは「大学等」で,「研究機関」,「会社等」がこれに続いており,いずれの組織も前年度に比べれば,増加している。その他の費目については,特に大きい変化はみられない。以上のように,人件費の増加の高いことが費目別にみた場合の特徴といえるわけであるが,研究活動は本来研究者+の頭脳に依頼する型の活動であり,効果的な人件費節約型の投資は,非常に困難と予想されるので,このような傾向は,今後も続くものと考えられる。この点について,人件費が増加することは,研究者の質的,量的充実につながるものとして歓迎されるべきことであるうが,反面,研究活動を推進する機械器具,消耗資材等が圧迫されるおそれもでてくることを意味するものでもあり,研究者が使用できる研究費の増加が今後に残された一つの問題になるものと思われる。なお,組織別にみて,人件費の割合は,「大学等」,「研究機関」,「会社等」の順に高いことは,すでに述べたとおりであるが,このことからも,研究を段階別にみて,基礎研究は主として大学,応用研究は主として研究機関,開発研究は主として企業によるものと考えた場合,基礎研究から開発研究に進むにつれて,多くの機械器具,消耗資材等が必要になつて行くことが示されるものと考えられる。

第2-15表 組織別研究費の対前年度増加率

第2-16表 研究費増加分費目別増加寄与率の推移

第2-17表 組織別研究費の費目別構成ー昭和39年度ー

第2-43図 研究費の費目別構成比の推移

次に,研究費の国営,公営,民営別の構成をみると,民営が圧倒的に多いことは例年と変わらず,全体の構成においても,5年間でわずかに国営と民営が増加したものの,ほとんど変化はないといえよう。( 第2-44 , 45図参照 )

部門別構成では,全体における比重の大きい「会社等」の研究活動をすべて理工学部門に分類しているため,理工学部門の占める割合が非常に高く,研究活動全体の85%となつている。そのほか,農学と医学とでは,農学の方が多いが,理工学に比べれば問題にならない。理工学部門では民営が82.7%を占め,残りの大部分は国営で,公営はわずかに2.5%を占めるにすぎない。しかし,農学部門では,公営が48.2%と約半分を占め,しかもそのほとんどは公立の研究機関の研究費であり,残りを国立の「研究機関」と「大学等」が分けあつており,わが国の農学部門の研究活動における公立研究機関の重要性がこれらの事実からもうかがわれる。医学部門については,国営と公営だけがこれを行なつているが,その大部分は,「大学等」の研究費である

第2-44図 国・公・民営別研究活動の分担割合 -昭和39年度‐

第 2-45図

2  研究者1人当たり研究費

研究者1人当たり研究費の考え方には,1)研究費の総額を研究者数で割つた数値,2)研究補助者等の人件費は,研究者が研究を遂行していくために必要な経費であると考えて,研究費から研究者の人件費を差し引き,残りを研究者数で割つた数値3)研究者が研究を実施するうえに,ある程度自由に使用

第2-18表 研究者,人当たり研究費の推移

第2-19表 組織別,研者1人当り研究費‐昭和39年度‐

できる金額として,研究費から人件費および固定資産購入額を除いた残りを研究者数で割つた数値等種々の方法が考えられる。しかし,現在の統計では,第2番目の方法については,資料が欠けているため,第1番目と第3番目の方法でこれをみることにする。

昭和39年度は,研究費が前年度に比し18.9%の増加を示したのに対して,研究者数は,「会社等」で減少したことに影響されて,全体では昨年に比し,2.5%の増加と停滞を示した。この結果,全研究費を研究者数で割つた1人当たり研究費( 第2-18表 , 第2-19表 におけるA/N)は,前年度に比べてかなり増加し,325万円(38年度に比べ16%の増加)となり,そのなかで,「会社等」では,407万円と38年度に比べ62万円,18%の増加,「研究機関」では,312万円で34万円,12%の増加,「大学等」では,198万円で26万円,15%の増加となつている。

次に,人件費と固定資産購入額を除いた研究費を研究者数で割つた数値( 第2-18表 , 第2-19表 におけるB/N)については,全体では,98万円で38年度に比べて,147万円,17%の増加「会社等」では,147万円で32万円,18%の増加,「研究機関」は80万円で13万円,19%の増加,「大学等」は32万円で6万円,23%の増加となつている。

これをみると,いずれの方法によつても,「会社等」が非常に高いことに対して,「大学等」は低く,特に後者の計算方法によると,1人当たり32万円で「会社等」の4分の1以下であり,その絶対額の格差は,ますます増大していく傾向にある。

3  研究費の負担

研究費の負担を,国,地方公共団体と民間に分けてみると,第2-20表のようになる。昭和37,38年度に比し,その比率はまつたく変わらず,全体では国,地方公共団体が30%,民間が70%となつている。

「会社等」では,その99%は民間の負担であり,残りの1%は,委託費補助金等の名目で国等から民間企業に流れる研究費であると思われ,その絶対額も,約10億円と少ない。「研究機関」,「大学等」では,国,地方公共団体の負担割合が高く,民間から研究機関や大学へ流れる研究費の少いことが目立つている。

4 研究費の国際比較

研究費の絶対額では,アメリカが6兆2,500億円(63年)とわが国の20倍に相当し,世界的にもずば抜けて高い。その他の国も,アメリカほどではないにしても,第2-46図のように,わが国よりはかなり高い金額を示しており,しかも,その増加率も日本とほぼ同様の伸びを示している。全般的にみて,諸外国より数年の遅れとみられているわが国がこれらの水準に到達するには,今後一層の努力が必要である。

また,研究費の対国民所得比率は第2-47図に示すように,アメリカの3.65%を最高に,他の国はすべて2〜3%の範囲にあり,わが国が国民所得統計の変更があつたにせよまだ1.8%に到達しないでいることは,研究費の格差が一層増大するおそれがあるとも考えられるが,逆に,わが国の国力の充実することによつて,今後一層の研究投資を行なう余地があるともみることができる。

第2-20表 研究費の負担の構成比の推移

研究費の組織別使用割合では,第2-48図のように,わが国は諸外国の平均的位置にあるが,しかし,組織別の負担割合においては,民間の負担割合の大きいことが特徴となつており,今後に残された問題の一つである。

産業別の研究費の使用割合では,電気および化学工業が高い割合であることは各国共通である。しかし,ドイツを除く他の国は,航空機産業に多額の研究費をさき,その構成比はいずれも30%前後となつている。

第2-46図 主要国の研究費の推移

なお一般に,これらの研究投資関係の統計値の国際比較を行なう場合,各国の統計調査の方法,調査の範囲,調査の精度等が問題になり,同一に論ぜられない点が多々ある。したがつてこれらの国際比較を精密に行ない,評価することには困難が多く,また,研究費を費目別に分けて考えた場合,それぞれの国情によつて,人件費の水準等の相違等を考慮する必要がありこれらのすべてを勘案した研究交換レート(Research Exchange Rate)″の設定が望まれている。これは0ECDなどを中心として国際的な懸案になりつつはあるが,まだ実用化には達していない。しかし,その国のある程度の傾向を知るうえには,それほど厳密な計算を必要とせず,各国とも,為替レートをこれに代わるものとして用いているのが現状である。

第2-47図主要国の研究費の国民所得 に対する割合

第2-48図 主要国の政府・民間・大学研究費割合-1962年度(昭和37年度)


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