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第2章  研究活動
2  研究活動をとりまく諸要因
(4)  その他の諸要因


研究が研究者の頭脳的な活動であるだけに,研究投資の効率化のためには研究者の意志を尊重し,快適な環境のもとに研究活動が行えるように努めることが極めて重要である。そこで,ここでは昭和38,39の両年度にわたつて行なわれた"研究者の研究能力および研究意欲の向上方策に関する調査"および"研究成果と研究環境因子の関連性についての調査゛の結果を主体として,研究所における実際の研究活動をとりまく研究環境の実状と,これに対して研究管理者および研究者が,どのような意見をもつているかを述べ,研究活動の今後の方向を考察してみることとする。

まず,実際に研究業務にたずさわつている研究管理者,研究者が研究環境がどのような欠陥を有していると考えているかを 第2-8表 によつてみると,第1に研究開発の方針や計画が確立されていないこと,第2に研究員の給与,待遇がわるいこと,第3に研究費や人員が不足していること等の欠陥を指摘している。これを機関別にみると,民間では,研究費が不足しているとする者の比率が低いこと,研究方針や計画が不備であるとする者が極めて多いこと,中堅研究者が不足しているとする者が比較的多いことなどが目立ち,また国公立では,待遇の悪さと若手,補助人材の不足を指摘する者の比率が多く,さらに,国公立,特殊法人を通じて,研究費の不足を指摘する者の比率が多いことが目立つている。これらについて考察すれば,研究開発方針や計画の不備は,前にも述べたように研究実行上極めて根本的な欠陥と考えられ,これの確立なしに研究能率の向上は望めず,またこれらの不備は,研究者の研究意欲を阻害する要因となろう。

研究者の志向を企業の志向に適合させ,研究投資の効果をあげることが極めて重要な課題となりつつある今日,研究開発の方針や研究計画の不備は,解決されるべき重要な問題であろう。研究費および人材の問題についていえば研究投資の項に述べるように,民間の1人当たり研究費は比較的多いことから考えて,企業においては,その研究費は比較的充足されていると考えられ,むしろ問題は,研究活動の規模が拡大した結果,研究推進の中心となるべき中堅研究員が不足していることにあるとみられる。

ここで問題をもとにもどし,上記のとおり,研究者の考えている研究機関の欠陥は,種々あるとみられるが,このような情勢のもとに,なおかつ研究者の研究能力,研究意欲を向上させるにはいかなる方策がとられるべきであろうか。以下,研究者および研究管理者を対象として行なつたアンケート調査の結果に基づいて考察してみよう。

第2-8表 機関別研究所の 重要な欠陥


第2-9表 研究能力およぴ研 究業績の評価(その1)


まず,研究能力の向上方策としては 第2-36図 に示されるごとく,研究者に自由研究の時間と余裕を与えることおよび研究テーマ仕事を能力育成を考えて計画的に与えることの二つが比較的多くあげられていることは,能力向上の方策として,研究者の個々の能力を適確に把握し,研究テーマや仕事を計画的に与えることによつて,仕事を通じて,すなわちある程度の義務感を刺戟剤として研究者の能力を訓練し,向上させる方法と,研究者に自由研究の時間と余裕を与えることによつて研究者が自ら能力を向上させるのを待つという方法があることを示している。

研究者の能力の向上方策としては,ごく一般的な向上策に留意すると同時に,研究者個々の潜在する能力を引き出し,向上させるために個々の研究者を対象としたきめの細かい教育指導を行なうことが必要であろう。

第2-36図研究能力向上のための方策

次に,研究意欲の向上策としては, 第2-37図 に示されるごとく,研究者の研究意欲にあつた研究を行なわせるようにすることと,経営トップが研究に関心を持つことの二者で62%を占めている。要するに,研究者の興味と研究テーマが一致したとき,研究意欲は十分に発揮されるし,また,上に立つものが研究者の行なつていることに関心を持ち,これに理解を示すならば,研究意欲は向上するであろう。

したがつて,その研究テーマに適合する志向を持つた研究者をいかにして選出するか,またそのような適当な研究者がいない場合研究テーマ自体を研究者向きにいかに分割するか,経営トップが研究に対して熱意と関心を持つようにするにはいかにすべきか,また経営トップの志向を研究者にどのように周知させるか等が,研究意欲を向上させるために,研究管理者として留意すべき問題点であると考えられる。

第2-10表 研究能力および研究業績の評価(その2)

以上,二つの調査結果を考慮した場合,研究テーマを研究意欲にあわせて与えるにしても,また能力育成を考えて与えるにしても研究者の能力なり意欲なりを研究管理者として充分把握しておくことが重要である。この研究者の能力評価の問題については, 第2-9表 および 第2-10表 に示されるように,研究管理者および研究者の両者とも極めて困難な問題としており,その理由としては,客観的評価基準の困難性をあげている。この困難性とは,すなわち何をもつて研究業績とするか,評価に適する研究業績があつたとしてもそれを学問的レベルで評価すべきかその生み出された利益で評価すべきか,この場合そのどちらをとつたにしても,その判定の方法はどうするか,他の研究員の援助やヒントはどう考慮するか,その研究員がいかなる研究段階を担当していたか,研究テーマを与えたときの条件はどうであつたか等々である。そこでこの問題について,゛研究成果と研究環境因子の関連性についての調査"から,企業の研究管理者の意見調査の結果を引用すると,「研究員の能力,適性を把握評価し,その結果をテーマの与え方,職務配置の適正化,研究員の処遇等に反映させることは,研究員の能力,意欲の向上に極.めて重要である。しかしながら,その統一的な評価法を見出すことは非常に困難であり,その理由としては,業績評価の客観的手掛りが不明確で,基礎研究,応用研究等研究の段階,研究分野またはテーマによつても異なり,また,将来有意義となる研究を現在の業績のみから評価することに困難な面がある。さらに,一般の考課制度によつて個々の研究員の持ち味といつた特性を把握することは困難である。したがつて,このような統一的評価より,研究員個別にその特徴を評価して,適性発見および育成指導を目的とした評価が望ましいとしている。

第2-37図 研究意欲向上策

このように能力評価は極めて困難な問題と考えられるがこれは,評価の場合に評価者の主観がはいり,評価に公平さを欠く場合が生ずるのではないか,また,その場合,他の研究員の意欲を阻害することになるのではないかとの危惧の念が大きく現われているとも考えられる。そこで, 第2-9表 にもみられるように,2〜3年の観察によつて研究能力の有無はわかるとしている者が相当数いること,また一般的にいつて,人間が対人評価することの真ぴよう性は,その評定尺度適用の諸注意を正しくまもれは相当高いものであると考えられることなどから,前述の調査においては,研究管理者による研究者の一対比較による評価注)と当該一対研究者の具体的にとらえうる研究業績との関連を検討し,客観的評価の手掛りを得ようとした。

この検討において,客観的指標としては,特許の取得および申請数,社外論文発表数,社内報告数,早退遅刻等の勤務状況の四つをとつた。このうち,早退遅刻の勤務状況については,まつたく客観的指標になりえなかつたので,他の三つについてその検討結果を要約すると,これ53者のうち,最も客観的指標となりうるものとしては社外論文発表数であり,特許はあまり問題にならず,一般的には,社内報告を半年ないし,1年の短期における目安とし,社外論文数を1年〜3年程度の期間にとり,この両者をあわせて考慮する方法がよいとしている。しかしながら,同時に調査した研究業績評価の手掛りに何を重視するか゛との間に対しては定量的に把握できる指標(所内報告の数,所外発表の数,特許取得数,テーマ発案数,実験回数,予算消費量)をあげた者が研究者で約10%,研究管理者で約7%おり,残りは定量的に把握できない指標(研究報告の質,結果の利益,プロジエクト進行への寄与度,研究中の熱心さ)をあげていることからみて,前述の客観的指標は,能力業績評価の全体からみて極めて,比重の小さい事柄であることが推察される。

以上述べてきたごとく研究者の能力評価は困難とはいえ,研究管理者としては,日常の研究者との接触から得られる種々の情報をもとにし,各研究者個々の能力特性を適確に把握し,前述のごとき諸方策を講ずることが研究者の能力,意欲を向上させることであり,これがとりもなおさず研究効率の向上につながるものと考えられる。

注)同程度の学歴経験を有する2人(1対)の研究者を比較して種々の尺度について優劣をみていく評価方法

次に,異つた観点から,すなわち能力が発揮される条件,これを阻害する条件を 第2-11表 , 第2-12表 のアンケート調査結果をもとにしてながめることとする。

まず, 第2-11表 によつて,能力発揮を阻害する要因をみると,研究者,研究管理者ともに4項目に集中している。これを要約すれば,"優秀な研究指導者のもとにおいて,研究者の能力に適応した魅力のある研究テーマを与えることが研究能力を十分に発揮させる要因であるとえいる。このうち,テーマの与え方については,能力・意欲の向上策の調査結果と一致し,その重要性が再確認され,また優秀な研究指導者が不足していることは,研究環境の欠陥のところで触れたような中堅研究員の不足の裏付けとなつている。

第2-11表 能力阻害条件

第2-12表 能力発揮条件

次に, 第2-12表 によつて能力発揮の条件をみると,能力にあつたテーマを与え,個々の研究者間の人間関係をも考慮した良い研究チームを編成することが最も重要であることは,ほぼ意見が一致しているが,研究者個人の考え方を重じて自由に研究させることについては意見が分かれている。しかしながら,この意見の相違も,人間関係の良い研究チームにおいて優秀なりーダーを含めて十分な討論を行なうことによつて,解決される問題と考えられる。

以上の結果から,能力を業績として発揮させ,研究効率を向上して行くには,予算,設備,情報活動等の外的環境の整備充実はもちろん重要としても,それ以前の問題として,前述のごときテーマの与え方,チーム編成,対人関係,優秀な研究リーダー等の内的・心理的環境の整備充実に意を注ぐことが重要であると考えられる。

以上のごとく,ここでは研究効率向上のための内的・心理的方策について述べてきたが,一方において,これらの諸方策をより有効に働かせる外的環境もまたおろそかにできない。そこで,以下外的環境として研究予算,情報活動,研究機関の位置等について,これまで行なわれた種々の調査結果に基づき,その現状を探ることとする。

まず,研究予算について,最近の調査結果に基づき,研究予算大わくの決定規準に関する最近の動向をみると, 第2-38図 のとおりである。すなわち,研究予算大わくの決定にあたつて最も重視している項目だけに丸印をつけることとしたのに対して,平均回答数が1社当たり2件であることから,研究費といえども大わく決定にあたつては,各社とも他の一般的な予算と大差がなく,さまざまのデータをもとにして決定していると考えられる。しかしながら,そのうちでも,゛過去の実績"および゛積上げ方式゛の2項目が比較的重視され,これらは資本金が大きくなるにしたがい比率が高まつている。また,売上げ"と゛利益"では,両者ともほぼ同数であり,どちらが重視されるともいえないが,これを過去と将来のどちらに目安をおくかでは,両者とも将来に目安をおいている。これらのことから,研究予算大わくの決定にあたつての一般的な傾向を推察すると,まず過去の研究支出の実績を念頭において個々の研究プロジエクトに要する費用の積上げを行ない,この結果に対して自社の将来の姿(売上げおよび利益等)を考慮しつつ,査定していくといつた型式が考えられる。

次に,情報活動についてみると,第2-8表,第2-12表の調査結果に示されるとおり,研究者としては,現状に対してその不備が感じられていないようにみられる。これは,第6章に取り上げるとおり,情報活動の重要性とわが国におけるその現状から考察すれば,情報活動が十分に整備され,その活用が図られているというよりも,むしろ,一般的にいつて,わが国の研究者が研究活動に必要な情報について研究者自身の手で探索し,集積し,分析するのが当然であるとの習慣がそのままあらわれていると考えられる。また,一方, 第2-8表 , 第2-12表 の調査の性格から考えて,研究活動の効果的な運営にあたつて,情報活動以前に解決されるべき重要課題が山積している結果とも考えられる。そこで,外的環境における情報活動の位置および情報活動そのものについての調査が行なわれていないので,情報活動の一環とみられる研究プロジエクト選定のための事前調査担当部門"の調査結果から企業の情報活動の状況をうかがうこととする。 第2-39図 をみれば明らかなように,基礎研究の段階においては事前調査はほとんど研究者自身にまかせられていたものが,研究段階の進展につれ,次第に全社的な調査が行なわれるようになつている。しかしながら,比較的大規模な企業においても,研究関係の調査を専門に担当する組織は確立されてはいないと考えられる。また,開発研究にいたつても,なお研究者自身が調査を行なつている現状から考慮して,技術的な情報の調査は,研究者自身の手で行なわれているものと考えられる。

第2-38図 研究予算の大わく決定基準

最後に研究部門の企業内部における位置を前後2回の調査の結果によりみてみよう。

企業の研究開発に対する投下資金を企業発展を図るための有効な投資とするため,企業内の研究開発組織は最近急速に整備されてきている。そこで,その実状を 第2-40図 によつてみればこの2年間に研究部門が゛トップに所属"する比率がかなり増加しているとともに,技術部に所属する比率がかなり減少している。このことは研究の企業における重要性の増大から,企業目的にそつた研究計画の立案および計画の円滑な実施のために,研究部門が組織上一つに集約され,トップに直属していることが望まとしいとの考えから,従来技術部の内部に包含されていた研究部門が,研究部門としてトップに所属していく傾向を示しているものと考えられ,このことは,企業体内部の研究開発部門に対する意識の向上の度合を示すものと考えられ,また, 第2-40図 を資本金規模別に分類した第2-13表でみれば明らかなように,大規模企業ほどこのような傾向が顕著なことから,企業体が大規模化するにつれて研究部門が,企業体の志向と遊離していく傾向を防ごうとする意欲の現われとも考えられる。ここでさらに, 第2-13表 の40年調査の項を見ると,約40社についての重複回答が見受けられる。すなわち,これは,トップに所属すると同時に技術部あるいは工場または製造部に所属する研究部門もまた存在していることを意味している。

第2-39図 研究プロジエクト選定の ための事前調査担当部門

第2-40図 企業における研究機関の位置

これらのことからみて,当初技術部や製造部あるいは工場等に付属した試験所または研究室として発足した研究機関が,企業規模の拡大や技術競争の激化,さらには,これに伴う研究資金や研究人材等研究規模の拡大等から研究開発が全社的立場で論議されるようになり,研究開発部の設置あるいはトップマネージメントを含む研究開発会議の設置などというような企業経営との密着性が必要となつてくるという発展過程をとる一方,現場に密着した課題の解決を行なう試験研究の場の必要が生じてくる現われと考えられる。

第2-13表 資本金規模別


以上,研究活動をとりまく諸要因として主として民間企業を中心として実際の研究を行なううえでの内的,外的環境について述べて来たが,今後の科学技術が従来より一層総合化の傾向を高め,多く7の分野において,調和のとれた姿で発展することへの相互依存がますます強くなつてきている現在,この基礎となる研究活動が効果的に行なわれるための研究環境の重要性はみのがすことのできないものであろう。

したがつて,研究者の創意と工夫が常に生かされる豊かな研究環境の育成とその充実に対する関係者の不断の努力が要請され,また,これを促進するための十分な配慮が望まれる。


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