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第2章  研究活動
2  研究活動をとりまく諸要因
(3)  研究評価


研究活動の効果的推進を考慮するにあたつて,最も重要ではあるが,極めて困難な問題としてあげられるものに研究評価がある。このような研究評価は,その評価時点によつて,事前評価,中間評価,事後評価の三つに大別されよう。すなわち,事前評価は,研究を開始する前に行なわれるものであつて,その研究プロジエクトが果たして研究される価値のあるものであるか否かを判定し,中間評価は,研究の途中において,その研究プロジェクトを継続する価値があるかないか,またその実行方策は妥当なものであるか否かを検討し,事後評価は,その研究プロジエクト有意義であつたか,その実行にあたつて効率的に運営されたか,またその成果がどのように利用され,貢献して行くか等について検討を行なうものである。もちろん,これらのうち,事後評価についてみれば,研究の成果がどのように利用され貢献していくかに重点目的があると考えられるが,ここでは,研究活動の効率化といつた意味から取り上げることとする。

これらの諸段階の評価について共通する問題点として,定量的客観的評価法の不備と評価者の個人差の問題がある。もし,このような不備の除かれた評価法が確立されたならば,研究の効率化は計りしれないであろう。わが国においても,近年この問題について活発に論議されるようになりつつあり,企業においても,種々の試行錯誤から,このような各段階の評価のある部分は,かなりシステマテイックになりつつある。

これらの評価の諸段階のうち,この意味で最も進歩しているのは事前評価の問題であろう。すなわち,利潤追求を目的とする企業において,価値の小さな研究に巨額な研究費や不足している人材を注ぐこと,また逆に価値の大きな研究プロジエクトを見落したりすることは最も警戒すべきことであり,この意味からいつて,事前評価すなわち研究プロジエクト選定が進歩することは当然のことと考えられる。事前評価の問題は,いいかえれば研究プロジエクトの選定の問題であるが,事前評価の現状については本節第2項の研究課題の選定で述べたとおり,わが国企業においても定量的評価法が取り入れられているなど相当の努力が傾けられているといえよう。

次に,中間評価について考えると,この評価の結果いかんによつてはプロジエクトの中止を伴うものであることから,中間評価は,極めて重要な意味を有している。同時に,プロジエクトの中止は,研究者に対しては研究を制限するものとして,その研究意欲を阻害するおそれのあることを考慮すれば,中間評価に関して,研究者および経営者の双方が納得するような定量的客観的評価法の確立が望まれる。このような中間評価がいかなる頻度で行なわれているかをみると,もちろん研究所内の段階では,日常の研究者と研究管理者との接触や月例報告会等の機会を通じて常時行なわれていると考えられるが,全社的な意味では,すでに示した 第2-4表 研究計画の再検討の頻度調査結果にみられるように,大半の企業において,半年〜1年の期間で行なわれていると考えられる。

この場合,評価の重点となる項目としては,研究自体の市場的価値と技術的価値,その費用および期間,実施方策の巧拙等があげられる。そこで,すでに示した 第2-28図 の見方を変えて,中間評価において何が重視されたかをみると,やはり研究の進展状況が変更理由の第1としてあげられており,前述のごとく実施にあたつての費用,期間,方策等が評価検討の重点となつていることがうかがわれる。また,これにつづく需要動向の変化および新技術・新製品の出現は,前述の市場的価値,技術的価値の評価に通ずるものとして,相当重要な検討の対象となつているものと考えられる。

もちろん,本調査が研究計画変更の理由について質問しているものであることは考慮しなければならないが,同時に調査された研究プロジエクトの選定,すなわち事前評価における定量的評価法の採用状況が,基礎研究において2.6%,応用研究において9.1%,開発研究において31.4%であつたことから推察して,企業における中間評価の現状は,前述のような諸事項を重点とした協議方式によつているものと考えられ,定量的な評価方式の採用は,極めて少ないと考えられる。したがつて,進行中の研究プロジエクトの評価にあたつて,現状の段階では,当該プロジエクトのみならず,全研究プロジエクトを比較秤量し,かつこれらをとりまく技術的市場的条件についての不断の調査研究の結果をもとにした適確な評価が必要であり,前述の問題をあわせて,研究担当トップマネージメントの果敢なる勇気と決断力に待たざるをえないと考えられる。

最後に,事後評価について考察すると,これには大きく分けて二つの目的が考えられる。一つは,経済的な見地すなわち成果の利用を目的として行なわれるものであつて,その結果は,研究成果の企業化規模の判定や他分野への応用等に利用される。また,他の一つは成果が出るまでの経緯を細かく分析評価することによつて,研究担当者の能力判定の尺度となると同時に,研究実行方策(テーマの分担策,テーマの分割策,研究補助者や機械器具の能率的使用策等)の反省と今後の研究への生かし方を検討する尺度となる。このような観点に立てば,事後評価は,事前評価および中間評価と比較し,その重要性において劣るものとはいえない。第1の経済的見地にたつた事後評価に関する最近の動向としては,経営者が研究活動に対し積極的な方策を打ち出すことを可能とするための客観的定量的資料を作成することが重要となつてきたことに伴い,各企業の研究管理部門において研究投資効果測定の定量的な方法が検討されるようになりつつある。しかしながら,このような定量的評価も,国鉄の調査によればこれを行なつているところは42社中10社と極めて少なく,行なつているところについても試行錯誤の段階で固まつた評価法は見あたらないとしている。「わが国における研究開発投資の効果測定」 注) に関する調査報告によれば,事後評価を行なうにあたつて事前に解決さるべき問題として,プロジエクト制度が確立されていないこと,人件費等の投入資金の把握が困難であること,産出効果の把握にあたつてセールス,広告宣伝等の効果の識別が困難であること,また,経理処理が研究活動に合せて行なわれていないこと等の問題があげられている。したがつて,前述のごとき事後評価の重要性にかんがみ,今後その定量的評価法を発展させていくためには,これら基礎的資料の整備が重要であると考えられる。

以上のごとく研究評価は,プロジエクトの選定,研究計画の立案,人員の配置,予算の作成等研究投資の効果向上のため極めて重要な意義を持つていると考えられる。しかしながら,研究活動自体が未知の分野への挑戦であり,結果の有意性,発展性は予測できないという性格を有していることから,研究を採点し順位をつけることは到底不可能であるとの意見も多い。しかし,個々の研究が計画され,逐行され発表される各段階において,実際に研究が評価されている事実をみれば,これらに対する評価がシステマティックにとりあげられる余地が十分にあるとも考えられる。したがいて,限られた資金と人材を有効に活用し,研究投資の効果をあげていくためには効果的な研究評価方式の早急な確立が望まれる。


注)科学技術庁計画局昭和36・37年度委託調査


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