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第2章  研究活動
2  研究活動をとりまく諸要因
(2)  研究課題の選定


研究活動を論ずる場合に,研究課題の選定に関する問題を見逃がすことはできない。研究の成否,研究投資効果の大小は,課題選定の時期において半ば決定されたといつて過言ではないであろう。そこで研究課題がどの部門で発生し,どのような経過で選定され,研究実行に移されていくか種々の調査結果をもとにして,その現状と問題点を述べることとする。

まず, 第2-7表 において,研究プロジエクトの発生源をみると,「特に多く発生する」部門としては,やはり研究部門が群を抜いており,以下トップマネージメント,営業部門とつづいており,「発生する」と回答した部門を加えてみた場合,研究部門は当然として,トップマネージメント,営業部門,製造部門等全社的にプロジエクトの発生がみられる。

第2-7表 研究プロジエクト発生源

これは,国鉄の鉄道技術研究所が行なつた調査にも「研究者と研究管理者の提起した場合が大半を占め,トップマネージメント,生産部門が提起した場合もかなりあることがわかる」と表現されている。

このように各部門から発生した研究プロジエクトの実行は,どのようにして決定されるかを,各研究段階別に,これまで行なつた各種の調査からみてみよう。

まず,その選定方法について, 第2-30図 によつてみれば,各段階を通じて圧倒的に協議方式が多くなつているが,回答数と回答企業数をみてもわかるように,それぞれの方法は,重複して使用されている。また,研究段階別にみれば,基礎研究から応用研究,開発研究と段階が進むにつれて,協議方式,定量的評価方式が増加し,特定個人の判断は減少している。このことは,研究段階の進行に伴い,研究費の増加,リスクの増大,経営方針との適合性等が大きな問題となつてくるので,選定が慎重に行なわれることを示しているものとみられる。また,定量的評価方式の増加は,研究が具体的になるにつれて研究に要する費用,人員,期間,設備等が明確化すると同時に,研究完成後の効果が算定しやすくなること,多額の資金と人員を要する開発研究の実施に踏み切るには協議方式はもちろんのこと,何らかの定量的な裏付けが要求されること等がその理由と考えられる。とはいえ,特定個人の判断によるとしているものが各研究段階とも相当数見受けられるが,これら各研究段階における特定個人を同列にみることはむずかしく,基礎研究にあつては研究者または研究管理者をさし,開発研究においては技術担当重役か最高責任者である社長をさしているものであろうと推察される。このことは,研究テーマや研究方針の決定はどこで行なうべきかを調査した 第2-31図 の結果とも一致している。もつとも,この調査は,研究者および研究管理者の考えを調査したものであり,研究部門の側からの意見として解釈しなけれはならない。そこで,研究プロジエクトの実質的な決定主体はどこであるかを別の調査によつてみると, 第2-32図 のごとき結果であり,ここにも研究段階の進行に伴ない,研究ブロジエクトの決定が全社的見地に立つて行なわれるようになることが明確に現われている。

第2-30図 研究プロジエクト選択法

次に,このような研究プロジエクトの決定にあたつて,重要な位置を占める審議機関の協議には,いかなる部門が参加しているかを研究段階別にみると, 第2-33図 のごとく,研究段階のいかんを問わず,研究部門はほとんど全部参加しており,研究段階の進展につれ,研究以外の他部門の参加が増加している。

第2-31図 研究テーマの選定に対する研究部門の意見

第2-32図 研究プロジエクト決定主体

第2ー33図 研究プロジエクト選定協議参加状況

なお,基礎研究部門においてトップマネージメントの参加が意外に多い。これらの結果について考察すると,基礎研究においては,研究所に主体性があり,他部門はあまり干渉することなく,研究所に比較的自由が与えられているが,トップマネージメントの参加が比較的多いのは,企業主体の志向を反映させる必要性からだと考えられる。また,応用研究になると他部門の参加は急速に増大し,特に製造,営業等の部門の増加が著こしいことから,応用研究には企業目的,成果の利用等について具体的検討が加えられるものであることがわかる。さらに開発研究になると,この傾向は一層顕著となつている。これは,プロジエクト選定基準についての調査結果を 第2-34図 によつてみれば明白である。しかしながら,応用研究の段階では,まだ研究所の主体性がいくぶん強いと考えられる。このようなことは,前述の国鉄調査による結果をみても,「目的基礎研究,工学的応用研究においては,研究組織単位の長が実質的決定権をもつ場合が最も多く,生産部門が関与することはほとんどないこと,研究管理者もかなり決定を行なうと同時に,研究者自身の実質的決定の度合は,目的基礎研究の場合には管理者と肩をならべていること,一方,開発的実用化研究では,決定の様相はかなり変化し,研究開発部門で決定することが多くなり,生産部門が決定することもあるが,この場合でも,研究組織単位の長は,この決定にかなり関与していることが認められ,総じて目的基礎研究と工学的応用研究については,研究所が主導性をもち,開発的実用化研究においては全社的開発部門の主導性が強くなるとしてよいであろう」とされている。

第2-34図 研究段階別研究プロジエクト選定の基準

最後に,研究プロジエクト決定の協議にあたつて,その選定の基準として何が最も重視されるかを 第2-34図 の調査結果に基づいてながめてみよう。基礎研究においては,まず,その研究結果の発展性に着目し,次にそのプロジエクトの着想に新規性があるか,さらにその研究の純技術的成功の確率はどうであるか,それを実施する適当な研究者がいるかどうか。また,その研究が企業の経営方針に合致しているかといつた順序で検討を加えるのが一般的な傾向となつている。さらに,研究段階が進み,応用研究の段階となると,検討基準は極めて具体化し,まず第1に,当該プロジエクトが企業の経営方針に適合しているかが論議され,次に,そのプロジエクトが企業化された場合の期待収益がどの程度であるが,さらに,成功の確率は技術的にみてどうか,研究結果の発展性はあるか,また研究の商業的な成功の確率はどうかといつた順序で検討が加えられる。これが開発研究の段階となると,問題は一層具体化し,まず第1に,研究が成功し,それを企業化した場合の期待収益がどの程度かに考慮がはらわれ,次に,研究の商業的な成功の確率はどうであろうか,さらに,企業の経営方針への適合性いかん,他の同種企業の動向はどうか,その開発に要する期間はどの位かかるか,といつた項目が重視されてくる。

このように基礎研究から応用,開発へと研究段階が進展するにつれて,研究プロジエクトの選定は,研究部門はもちろんのこと,トップマネージメント,製造,営業等の諸部門を加えた全社的な審議機関によつて,より具体的な検討が加えられることとなる。プロジエクト選定が企業の将来を左右する要因の一つとも考えられるものである以上,選定にあたつては慎重な審議が必要となることは当然と考えられる。このようなプロジエクト選定は,研究活動の事前評価に関するものであるから,後述するように極めて困難な問題があり,この困難性は, 第2-35図 にも゛選定を行うための良い尺度がみつからない"として現われているし,また,尺度以前の問題として,選定のための事前調査が十分に行なえない"との回答が非常に多い。このことは,一比較的研究開発に熱心な大企業を対象とした国鉄の調査結果においても,「事前調査はほとんどの企業がやつているといえるが,目的基礎研究,工学的応用研究では研究者が事前調査を担当するのが50%をこえ,また開発的実用化研究でも研究者がかなり調査を担当していることは意外に思われる」としており,研究プロジエクト選定の事前調査が十分でないことがうかがえる。研究プロジエクトの選定にあたつて,各企業とも特定の審議機関等によつて相当具体的な問題に及んで熱心に協議がなされているとはいえ,審議機関のメンバーである各部門の専門家がその分野からの意見を述べるにとどまり,そのプロジエクトに対する十分な事前調査が行なわれておらず,また,客観的にうなづける評価の尺度といつたものは確立されていないと考えられる。

第2-35図研究プロジエクト選定上の問題点(有効回答社数151社)

以上述べてきたように,各企業においても研究課題選定の重要性を十分に認識し,企業活動に適合した課題の選定に努力していることがうかがわれるが,前述の問題点のうち,たとえば事前調査等比較的とりくみ易い点から解決していくなど,今後より一層の努力が望まれる。


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