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第2章  研究活動
2  研究活動をとりまく諸要因
(1)  研究計画


研究活動において,長期的な研究計画に基づいてこれを実行することの重要性は,ひろく一般に認められるところであり,昭和41年8月に提出された科学技術会議の意見書にも研究推進のための長期的計画の必要性が指摘されている。この,ような長期研究計画の重要性は,利潤の追求を目的とする民間企業にあつては,一層その比重を増すものといえよう。すなわち従来のように先進諸外国の技術を消化吸収し,これに追いつくことが目標であつた状態から,さらに,目標とその達成のペースを自分でみいだす必要に迫られている現状において,長期間の見通しを基礎とした目標と緊密な関連をもつた研究計画の樹立は,研究資金や研究者の効果的配分,陳腐化した技術・商品の新技術・新製品への適切な交代,有能な研究職員における研究意欲向上等,研究能率の向上を図るために極めて重要であろう。

もちろん,このような効果を生み出すためには,市場や関連業界・関連技術等企業をとりまく諸般の条件,また研究開発部門の研究能力や投資可能資金等企業に内在する諸条件についての調査検討を行なつたのちに,周到な研究計画が作成されなければならない。

このように重要な意味を持つ研究計画は,わが国の企業において,どのように考えられ,実施されているのか,゛企業経営面からみた研究管理状況調査″(昭和40年調査) 注) の結果からみてみよう。

この調査においては,研究計画を予算,人員,プロジエクト,設備およびこれらを包含する研究総合計画に分け,その計画期間と再検討の頻度,研究総合計画立案の参画者,立案の問題点,計画変更の原因,長期経営計画と研究計画との関連等について調査した。

まず,研究計画の期間とその再検討の頻度を 第2-3表 および 第2-4表 によつてみると,第1に,計画期間が1〜0.5年と短期の計画が圧倒的に多く,次が5年計画,3年計画といつた順になつている。第2に,計画の各項目別では,1〜0.5年計画とするものに次いでプロジエクト画では2年計画,総合計画では5年,設備については5年,人員では5年の計画期間のものが比較的多い。第3に,計画の再検討は,半期毎が大半であり,残りもほぼ1年とするもので占めている。

以上の3点について考察すると,本調査の対象としているような大企業においても,一般的に長期計画といえる5年以上の計画をもつている比率が20%程度にとどまつていることから,研究活動を計画的に遂行している企業はまだ少ないといえる。このような結果からみて,現状においては,このアンケート調査が期待したような,個々の大中小プロジエクトを包括した全社的な意味での長期的な総合計画はたてられていないというのが大勢であつたが本調査の補足の意味で行なつた数カ所の訪問調査によれば,ある程度の大きさの個々の研究プロジエクトについての長期的研究開発計画は,その予算,人員,設備,プロジエクトの開発段階についてたてられており,これを考慮すれば,実質的な計画として表面化されてはいないが,全社的なビジヨンといえるものは存在していると考えられる。ただし,その研究プロジエクトについての長期的研究開発計画を企業全体からみたとき,果たして企業の志向に一致し,また,他の研究プロジエクトと調和のとれたものであるかは疑問である。


注) 本調査は資本金10億円以上の研究を行なつてい)る会社530社を対象としているが,そのうち集計に使用した有効回答数は290社あまりであるので,結果の有意性について十分とはいえないが,大略の傾向はつかみえたものと考えられる。

次に1ないし0.5年に次いで5年,3年の研究計画が多いことは,一般的に,長期の計画を立案する際に目安とされる3年あるいは5年という期間がそのまま研究計画にも現われたものと考えられるが,そのうちプロジエクト計画の場合は2年,3年,5年の順に多く,研究開発の性格に基づく長期的な研究の実行,または完成の見通しの困難性を示している。また,再検討の期間が半年および1年に集中していることについては,企業の決算が通常半年で行なわれていること,計画自体が半年ないし1年の短期的なものが多いことなどから当然予想されるところであろう。しかし,半年に1回の見直しを行なうとするものの割合が最も多い点に関しては,調査の結果では,余程の情勢の変化が生じないかぎり,チエツクの程度であるとしているところが多く,実質的な再検討は,むしろ,1年を単位として行なわれていると考えることが実状に即していると思われる。

第2-3表 研究計画期間

第2-4表 研究計画再検討の頻度

また,企業規模との関連においては, 第2-3表 を資本金規模別にみると,大規模企業になるほど長期計画を有している比率が高まつていることから,企業規模が大きくなるほど研究開発に対する認識の高いことが推測される。

次に,このような研究計画の立案に際して,企業のどの部分の人が参画しどの部門が主導的な立場をとつでいるかを 第2-26図 , 第2-27図 によつてみよう。

研究総合計画の立案に際し,研究管理者の参画が98.6%を示しているが,ゼネラルスタッフ部門(本調査においては,本社において会社全体に関する企画調査およびこれに類する仕事を行なつている部門,たとえば企画部,調査部,,社長室等をいう。)が比較的少なかつた。しかし,本計画の立案に際し,人事,経理部門を除く,ほぼ全社的な立場において論議がされていることが明らかとなつた。また,このような参画者のなかで主力となつているのは,やはり研究管理者であり,一当然のことながら,営業販売,製造,経理,人事等の各部門において主力となることは極めてまれである。これを資本金別にみると,企業規模が小さいほど研究者が主力となる比率が高く,規模が大きくなるほどトップマネージメントが主力となる比率が高くなり,中規模の企業においてゼネラルスタッフ部門の主力比率が高いという結果になつた。

この調査結果から,企業における研究計画の立案に際しては,トップマネージメントの主催のもとに,人事,経理部門を除く全社的な立場で論議され,その主力は,当面の責任者である研究管理者があたり,営業,製造等の部門は意見を述べても主力となることはなく補助的な立場であり,また,研究実行の立場から研究者も大いに参画していくるといつたシステムが一般的な形として考えられる。

このような構成メンバーによつて,研究計画が検討される場合,いかなる点があい路になるであろうか。これを 第2-5表 によつてみると,全体でば研究者の不足″企業間の競争が激しい""科学技術の進歩が激しい"の3項が大きな比重を占めるが,企業規模別にみた場合,研究者不足は小規模企業に目立ち,科学技術の進歩の激しさは大規模層に自立つている。また,予算の不足,研究経験の不足等は小規模企業に目立ち,経済界の変動,企業間競争の激しさ等を問題にしているのは大規模企業に多い。

第2-26図 研究計画立案参画状況

第2-27図 研究計画立案の主導部門状況

これらの点を検討してみると,小規模企業においては,企業の内部的条件が問題としてあげられ,大規模企業においては,主として外部的条件に問題点を見出している。これは,小規模企業においては研究開発の内部的条件が整つておらず,これらが解決されてのち,はじめて外部的条件に目が向けられるのではないかとも考えられるし,また逆に,経営が多角化している大企業に比較し,専門会社として,他企業の技術動向等の外部的条件に対しては,関連する範囲が比較的せまく,判断しやすい立場にあることが現われているとも考えられる。

第2-5表 研究計画立案上の問題点

研究計画の変更については,回答企業の約60%が変更したことがあるとしており,変更理由としては, 第2-28図 に示されるとおりである。このように約60%の企業が,半年あるいは1年の再検討にもかかわらず,計画期間内に,新計画に切りかえねばならなかつた。しかもその変更理由の第1として,研究の進展状況があげられていることから推測すると,研究計画が実際の研究活動と密着していないのではないかとの疑問を生ずる。もつとも,第2,第3番目の理由としてあげられた需要動向の変化と新技術・新製品の出現といつた事態からは,最近のような技術革新の時代における企業の技術開発競争の激しさがうかがわれ,研究計画の変更もまた当然であるとも考えられる。

研究計画は,企業目的とその志向を同じくし,企業の長期的な見通しをもとにして立案されるべきものであろう。そこで,企業の長期経営計画と研究計画との関連についてみてみよう。

まず,長期経営計画の有無に関しては,回答企業の91.7%が持つていると答えており,その期間については, 第2-29図 に示されるとおり,5年計画が半数を占め,また,これを企業規模別にみた場合には,企業規模の拡大につれ,計画は長期化している。この長期経営計画に研究計画がどのような形で織り込まれているかを 第2-6表 によつてみると,研究の方向として織り込まれているものが63%を占め,以下,予算,人員,設備,研究,プロジエクトの順となつている。また,これを規模別にみれば,大規模企業ほど,織り込まれる計画には,具体的なものが含まれる傾向が強い。このことは,大規模企業ほど企業経営において研究開発が重視されているともいえるし,また,大規模企業ほど研究計画が経営計画に織り込まれる率が高まる傾向がみられることから,企業規模の拡大につれ,研究活動が企業主体の志向と遊離することを防ぐ意味で,研究活動を長期経営計画に織り込むとか,何らかの方法をもつてコントロールする必要が生じてくるとも考えられる。

第2-28図 研究計画変更理由

第2-6表 長期経営計画に織込まれた研究計画の内容

また,長期経営計画の立案にあたつて,研究部門の人が参画しているか"また参画している場合,だれが参画しているかとの質問に対しては,約23%の企業において研究部門の参画者なしに長期経営計画が立案されており,経営計画と研究計画とを特に関連させていない企業が約11%あることと比較して,実際に研究活動に関与している人の参画なしに,研究計画を織り込んだ長期経営計画が立案される場合がかなりあることが明らかとなつている。また,研究部門が参画する場合には,研究所長など研究部門の長がほとんどで,89%を占めており,これ以外の研究管理者が参画することは少ない。

第2-29図 長期経営計画の期間

以上の諸結果から考察すると長期経営計画に織り込まれている研究計画は,その具体性において若干かけるところがあると考えられる。このことは,同一調査において,経営計画が長期のものが多かつたにもかかわらず,研究計画の期間が極めて短期のものが多かつたことまた,織りこまれた内容に研究の方向が多く,研究プロジエクトが少なかつたことさらに,研究部門の人が参画していない場合がかなりあることなどから推察しうる。

以上わが国企業における研究計画の現状について,最近行なわれた調査に基づいて述べてきたが,この調査からみられるように,企業においては研究計画立案のため種種努力を重ねているが,これはまだ十分とはいいがたい。研究開発に占める研究計画の重要性から考えて,企業をとりまく諸般の条件を考慮した,全社的立場からの調和のとれた研究計画の立案について,なお一層の力を尽くすことが望まれているといえる。


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