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第2章  研究活動
1  わが国の研究水準
(3)  成果発表数からみた研究水準


最初にも述べたように,研究の成果は,必ずしも発表される(または,発表できる形として得られる)とは限らない。企業における技術研究の成果は,企業の利益のために公表されない場合もあり,また,ノウハウのような,発表しにくい形で得られることも多い。さらに,研究が失敗して,発表すべき成果のあがらない場合にも,その失敗は研究水準に対する寄与としては非常に有効なこともあろう。また,成果発表数は,研究分野の広さや研究者数などとも関連が強く,この点についても考慮を払わねばならない。成果発表数を研究水準の尺度とする場合には,常にこのような限界を念頭におく必要がある。

成果の発表数として利用できるものは,特許および研究論文である。特許については,現在,審査に要する期間が非常に長く,登録数が時間的に研究状況と一致しないこと,諸外国には,無審査主義の国もかなりあることなどから,出願件数によつて分析を行なうこととする。

1 わが国における特許の出願数は,第5章にも述べるように,近年著しい増加を示している。実用新案を含めた出願数(諸外国においては,特許と実用新案との区別のない場合が多いので,国際比較上は,このような数値が使用される。)では,総数,国内からの出願数とも,昭和33年以降ドイツを抜いて世界の1位を占めている。特許のみについて,ドイツ(実用新案を含めていない。)と比較してみても,国内からの出願数において,昭和36年以後ドイツを凌駕し,その増加率もはるかに大きい( 第2-13図 )。出願数の増加率は,各国ともドイツ程度であるので,数量的な面では,わが国の研究成果の水準は,非常に高いといえよう。しかし,わが国から外国への出願は, 第2-14図 に示すように,年々増加し,国内への出願に対する比率もかなり急速に上昇しているとはいうものの,ドイツと比較した場合,絶対数,対国内出願比率とも極端に低い。このことは,特許に対する国内市場の広さの問題も関係するが,わが国の特許,ひいてはその母体となる技術的研究の質的な面について,考慮すべき点があるように思われる。 これらの特許出願数を,産業分野別に示したのが 第2-15図 である。これによれば,出願の約70%は技術進歩の大きい化学,機械,電気の諸分野に属し,そのうちでは,化学分野による占有率が増大してきたことが知られる。この傾向は,国外からの出願を除き,わが国における研究活動のみによる出願数でみても,ほとんど変わらない。外国からの出願数も,昭和40年において,その80%が前記3産業分野に属しており,その集中度は,国内からの出願よりも著しい。わが国の特許出願において,国外からのものの比率が先進諸国よりもかなり低いことはよく知られているが,上記3分野,特に化学の分野におけるそれは,昭和38年に38弾を示し,全分野の平均(25%)を大きく上まわり,同年におけるドイツの比率(41%)に近づいている。国外からの出願は,被出願国における市場性と同時に,技術の消化能力をも考慮して行なわれるものと考えられるから,わが国におけるこれら諸部門の技術水準は,国際的にもかなりの評価を受けているものといえよう。

第2-13図 特許・実用新案出願数の変化(日本・ドイツ)

第2-14図 内国人による特許出願数の対比,対内比

第2-15図部門別特許出願数の推移

特許出願数を研究成果水準の尺度とする場合,研究分野によつて,成果が特許の形になり易いものと,そうでないものとがあれば,それに対する考慮が必要であろう。その意味からここで,研究費からみて,わが国における技術研究の主体占める企業部門からの特許出願状況と,これと関連した研究の特色に触れておこう。 日本機械工業連合会の調査によれば,昭和32年〜36年(において,研究を行なつている 企業の63〜68%が特許の出願を行なつており,企業からの出願数の増加は,,わが国全体出願件数の伸びを上まわつている。( 第2-16図 )。業種別には,国内出願件数では,電気,機械,化学,輸送機械,鉄鋼など,技術進歩が大きく,研究費の多い業種が上位を占め,外国特許出願件数では,これらに加えて,食品(調味料を中心とするもの),繊維のような国際的に技術水準が高い業種からの出願が多い( 第2-17図 )。さらに,産業別に,研究者1人当たりの研究費と特許出願数との関連を調べて見ると,両者の間には,あまり相関が認められない( 第2-18図 )。同図において,原点と平均値とを結ぶ直線で,各業種を2群に分けてみると,直線の上側すなわち,研究費に比較して特許出願の少ない側に,化学等のいわゆる装置産業が,下側すなわち研究費のわりに特許が出願されやすい側に,機械,電気などがはいり,業種によつて,研究成果が特許の形で現われやすいものと,そうでないものとがあるように思われる。これは,特許を研究水準の一つの尺度とする場合,全産業分野について画一的な取扱いをすることが不適当で,あることを示すものといえよう。
第2-16図 企業における特許出願数

第2-17図 産業別特許出願数(昭和36年)

第2-18図 研究者1人当たり研究費と出願数の関係(昭和36年)

2 次に,研究成果水準を示す尺度として,より科学的な色彩が強いと思われる研究文献(論文および特許公告)数ついて考察する。

不幸にして,この方面の資料は,情報関係についての最近の関心の高まりにもかかわらず,非常に少ない。ここでは,比較的資料がととのい,海外における論文数中にも,最大の占有率を示している化学の分野を中心に記述し,そのほか,物理学について簡単に触れることとする。

第2-19図 国外文献抄録数の分野別割合

日本科学技術情報センターの抄録数に基づいて,昭和35年〜40年における海外の理工学関係文献(論文および特許)数の学問分野別の占有率を示すと, 第2-19図 のとおりである。各分野の占有率,すなわち研究成果の相対的な量的水準は,原子力関係の増加,土木,建築関係の減少が目立つ程度で,あまり大きな変化はなく,化学,機械,電気関係のものが全体の70%近くを占め,そのうちでも化学が最大の占有率(35)前後)を示していることがわかる。わが国の場合には,この種の数値はほとんどないが,現在利用できる推計(科学技術庁計画局による。)によれば,最近の年間研究論文発表数(一次文献)は,理工学系統約2万1000,農学系約4,000,医学系約1万4,000といわれている,昭和39年の日本化学総覧に集録された化学関係文献数(必ずしも39年に発表されたもののみに限らない)は,約2万9,000に達しているので,種々の条件を考慮に入れても,わが国の研究文献数中の化学関係の占有率は,海外よりも高く,研究成果の量的水準も相対的に高いのではないかと思われる。

一方,アメリカ科学アカデミーの調査(ウエストハイマー報告1965年)によれは,世界各国における化学系文献(研究論文ちよび特許公告)数の国別占有率は 第2-20図 のとおりである。(ケミカル・アブストラクトに収録されたもの)。図から明らかなとおり,大戦の前後にかけて,ドイツの占有率の激減と1951年〜60年のソ連の急増とが目立つているが,わが国も,大戦を一つの転機として,急激な増加を示したことがわかる。ただし,占有率自体は7〜9%に過ぎない。(なお,この値は,後に示す物理学に関する同種の調査とほぼ等しい。)また,文献の絶対数の変化は,第2-21図のとおりで,戦後の技術革新の波に乗つた化学研究の活発さを示している。

第2-20図 化学系文献(論文・特許)数の国別割合

同図において,わが国の文献数は,アメリカを100とした場合,29に過ぎない(1960年)が,化学関係産業における両国の使用研究費を比較すると,アメリカの5,950億円に対し,わが国は476億円(すなわち,100:8)であり,1文献当たりにしてみればわが国の場合,使用研究費はアメリカの1/3以下であることになる。(むろん,論文・特許は,産業界ばかりでなく,政府研究機関大学からも,発展されるので,文献数に対比する研究費は,これらにおける使用研究費も含めたものでなければならない。また,文献数についても,さきの調査における収録範囲が国によつて異なるおそれがあるが,これらの要因を補正すれば,上記の,文献当たり研究費の差は,さらに大きくなると考えられる。)

第2-21図 化学系文献(論文・特許)数の推移

量的な考察を離れて,研究文献の質を論ずる場合には,その尺度の一つとして,それが海外の研究者によつて引用される割合を用いることが考えられる。すなわち,程度の高い研究ほど他の研究者によつて注目される点に着目しようとするものである。前記のアメリカ科学アカデミーの調査によれば,アメリカの研究が他国の研究文献中に引用される割合は, 第2-22図 のとおりで,日,英,独,ソ各国における引用中,自国文献以外のものの40-50%は,アメリカの文献である。これは,さきに述べた世界の全文献中のアメリカの占有率(27%)よりはるかに大きな値であり,同調査の見解によれば,アメリカの研究の質の高さを示すものとされている。

第2-22図 引用文献の国内・国外の割合(1960年)

それでは,わが国の研究の外国における引用状況はどうであろうか。 第2-23図 は,日本およびアメリカにおける代表的な化学系総合誌について,文献の引用状況の経年変化を調査した結果である。右下端の図に示されるように,日本人(による研究のアメリカ化学会誌における被引用率は,1〜25%である。さきの 第2-22図 あるいは本図の邦文誌について示されるように,ある国の研究文献における自国文献の引用率は30〜40弾と考かられるから,残りの70〜60%のうちの占有率で考えれば,わが国文献の被引用率は1.5〜3.3%程度であり,1960年において,世界の全文献中アメリカを除いた部分についてのわが国の占有率(計算によれば約11%)に比べると,はるかに小さな値である。このことは,わが国の文献が外国研究者の目に触れる機会が欧米諸国に比し極めて少ないことが大きな原因ではあるが,研究の平均的な質において,なお反省すべき点のあることも示すものと思われる。しかし,近年被引用率がかなりの増加を示しはじめていることは,わが国の研究の質的向上に対して,明るい見通しを与えるものである。 第2-23図 について,その他に注目すべき点は,引用文献数の近年における急激な増加,特にアメリカにおけるそれがわが国を上まわるものであること(最近の情報量の増大と情報処理機構の発達の結果と思われる。),一論文当たりの頁数の増大にみられる研究規模の増大(特にアメリカにおいて顕著である。),一論文当たりの研究者数のアメリカへの接近傾向などである。

また,引用文献の調査に際しては,国による研究パターンの相違に注意しなければならない。すなわち,対象国において研究の盛んな分野が自国におけるそれと一致していれば,当然引用文献が多くなりやすく,くい違つていれば,引用されにくいこととなる。この意味から,化学をさらに細分化した分野について,世界の傾向とわが国のそれとの差異を示したのが, 第2-24図 である。この図は,各分野における報文数の全分野の報文数に対する比率を,諸外国の総計とわが国について比較したもので,わが国の研究パターンには,世界的な傾向とかなりなくい違いがあることが明らかであろう。さきに述べたわが国の研究の被引用率に対しては,この点からみれば,より高い評価を与えることができよう。

この図はまた,化学系について,わが国において相対的に研究のさかんな分野を示すものである。

第2-23図 化学関係論文における研究者数,頁数,引用文献数, 日本人による研究の引用率の変化

第2-24図 研究文献数の分野別分布,化学系(1965年)

第2-25図 研究論文数の分野分布,物理系(1961年)

研究論文の比率の高い分野には,生化学,薬学,薬理学,農水産学,冶金・金属,樹脂・ゴム・可塑物,有機工業などがあり,世界における平均的な比率よりもわがさ国におけるそれが大きい分野,すなわち世界における平均的な状態よりもわが国の研究がより活発な状態にある分野には,前記の薬学・薬理学,樹脂・ゴム可塑物,有機工業のほか,電気化学工業,無機工業などがあり,逆に著しく占有率の低い分野には,有機化学,物理化学,鉱物・地球化学,香料・化粧品,無機化学などがある。同様の比較を,物理学諸分野について行なつたのが,第2-25図である。物理においては,化学ほど著しいパターンの乖離はないが,なおかなりの差異がみられる。わが国において占有率の高い分野は,固体,核物理,固体の磁気的性質,固体の電気的性質,素粒子であり,世界的な占有率よりもわが国におけるそれが著しく高いのは,固体,固体の磁気的性質固体の電気的性質,素粒子などである。逆に相対的に研究が不活発なものとしては,電磁気,地球物理,天文学,光学,音響,物理化学,生物物理,一般物理,材料・技術などがあげられる。ただし,これらのパターンは,わが国で発行された雑誌に掲載された論文によつて作られたものであり,分野別によつては,外国誌への投稿が相当数に達するものも当然考えられるので,上記の結論については,この点についての注意を必要とする。


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