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第2章  研究活動
1  わが国の研究水準
(2)  技術水準との関連からみた研究水準


技術水準を,経済的な面からとらえるための尺度としては,労働生産性,資本集約度,労働装備率など多くの指標が考えられ,おのおのが巨視的な技術水準の一端を示すものとされる。しかし,ここでは技術水準そのものについて論ずるわけではないので,その概要を把握するため,わが国の輸出構造と,生産函数により示される技術進歩率の面から技術水準を概観し,その上で技術導入の影響を考察することとする。

1 製品輸出に対する技術水準の向上の影響は,二つの面に現われてくるといわれる。第1は,製品コストの低下であり,第2は,産業構造の変化すなわち貿易成長率の高い産業の比重の増大(現在では,重化学工業化がこれにあたる。)である。産業構造の変化は,また,経済全体としての生産要素の効率を高め,技術進歩をもたらす要因となるが,国内に技術水準の低い産業があれば,国全体としての生産要素の効率的な利用が制約され,結果として,個々の産業部門におけるコスト低下,すなわち国際競争力増大に支障を招くこととなる。したがつて,輸出は,個々の産業の技術水準のみならず,かなりの程度,国全体としての技術水準にも影響されるわけである。このような観点から,わが国の輸出をみると,その増大は近年著しいものがあり,輸出構造の重化学工業化もまた,かなりの進展をみせていることがわかる( 第2-7図 )。しかし,先進諸国に比較して,本格的重化学工業品である重機械類の輸出は著しく低水準にあり,輸出構造全体としても低開発地域依存度が高い。また,製品別にみると,資本集約的製品は開発途上国に,労働集約的製品は先進国に傾斜していることが明らかである( 第2-8図(a) )。北米向け輸出の構造をドイツと比較すれば,その格差は一層明瞭になる( 第2-8図(b) )。すなわち,わが国の北米向け輸出中の資本集約的製品のうち,ドイツと同等の比重をもつものは,鉄鋼,肥料などの中間財だけであり,比重の大部分は,労働集約的製品にかかつている。 このようにみてくると,わが国の技術水準,特に重化学工業の技術水準は,急速に向上しつつあるとはいうものの,先進諸国に対する本格的直接輸出を可能とするには,なお今後の努力にまたねばならないといえよう。
2 次に,輸出よりもさらに直接に技術水準と結びついた尺度としての技術進歩率の面から,わが国の技術水準をみることにする。 最近の試算(日本経済調査協議会:わが国産業の国際競争力,昭和41年。この報告中の技術進歩率は,実質粗附加価値の増加率から,労働増加率および資本増加率を差し引いたものである。)によれば,わが国製造業各部門の,昭和27年〜36年の10年間の年間技術進歩率は,第2-9図のとおりである。各部門の平均的な年間技術進歩率は約6%で,この値は,アメリカの1950年〜56年における同種の計測値の約2%と比較して,極めて大きなものである。このことは,昭和27〜36年におけるわが国の工業生産の急速な回復に伴い新技術の吸収によつて技術水準が著しい上昇を遂げたことを示すものと思われる。また,この図から,各部門それぞれの技術進歩率にはかなりの差があることがわかる。これらは,アメリカにおける対応部門の技術進歩率との対比において,おおよそ三つのグループに分けることができよう。

第2-7図 わが国の輸出額の推移

第2-8図(a) わが国の輸出構造昭和38年

第2-8図 貿易構造の日独比較(対北米)(昭和40年)


第1のグループは,わが国の進歩率が大きく,アメリカにおける進歩率との差も大きいもので,化学,機械,輸送用機械,石油・石炭製品,紙・パルプおよび木材・家具工業がこれに属する。第2は,進歩率自体はあまり大きくないが,アメリカにおける進歩率との差が大きいもので,ゴム,金属工業,繊維,衣服および皮革工業がこれに属し,第3は,進歩率も,アメリカにおける進歩率との差も小さいもので,食品,出版・印刷,窯業・土石工業がこれに属する。アメリカにおける技術進歩には,国際水準に対する遅れを取り戻すという要素はほとんどなく,そのすべては,新しい技術を自身の研究によつて開発した結果とみなすことができよう。(アメリカの技術導入費は,自己の研究費の0.5%に過ぎない。)したがつて,わが国における一つの産業の技術進歩率がアメリカにおけるそれよりも大きな値を示す場合には,計測期間の初期において,その産業の技術水準の米国との格差が大きく,技術の導入,摂取によつて,急速な進歩を遂げ,または遂げつつあるものと考えられる。わが国における技術進歩率が大きな産業のうち,第1のグループに属するものは,ほとんどが重化学工業であり,わが国における技術水準の出発点における遅れと,その後の急速な向上ぶりとをよく示している。

第2-9図 産業別技術進歩率

また,このグループの技術進歩率が,アメリカ,日本ともに大きいことは,このグループに属する業種における技術革新が急速であつたことを示すものであろう。第2のグループは,アメリカとの技術進歩率の差はかなり大きく,したがつて,技術水準の差もかなりあつかと,みられるが,技術革新的要素が少なく(アメリカにお.いて,このグループの準歩率が最小),その結果わが国における技術進歩率もあまり大きくなりものである。第3のグループは,アメリカとほぼ等しい技術進歩率を示しその面からは,技術水準の差があまりないとみられる産業群である。(ただし,技術進歩率の小さいことだけから,このように結論ずることは危険であつて,外国製品の影響をあまり受けなかつたこと等により,水準格差の解消が遅れているために,技術進歩率の小さい産業のあることも考慮しなければならない。前述の 第2-2図 と比較すれば,印刷・出版部門がこれに該当することが知られよう。)

経年的にみると,わが国においては,これら各グループの産業とも,技術進歩率は近年になるほど減少する傾向がみられ,技術水準の格差は次第に解消の方向に向つていることを示している。

このような観察は,昭和36年までの資料に基づくものであるが,さきに最近の輸出について述べたわが国の技術のいくつかの特色(輸出の急速な増大とその重化学工業化の進展およびこの部門における先進国との格差の未解消)とよく一致しておりこのような技術進歩率からみたおよその傾向は,今日でもあまり変化していないものと考えられる。

次に上に述べたようなわが国の技術水準を背景にして,これを生んだわが国における研究と技術導入とについて検討しよう。

本来,技術水準は,それまでに蓄積された研究の成果であり,したがつて,研究水準と平行して向上するはずであるが,わが国の場合には,現在の技術水準の達成にあたつて導入技術の果たした役割が極めて大きいといわれておやり,このことは,技術進歩率にいてのアメリカとの格差からもうかがわれるところである。したがつて,わが国においては,技術水準から,ただちに研究水準を類推することはできない。しかし,導入技術といえども,これを摂取・消化する能力がなければ,技術水準の向上に十分寄与できないことは明らかであり,その意味では,わが用がなしとげた急速な技術の向上は,企業におけるある程度の研究水準の存在を示すものであろう。

それでは,わが国における技術導入は,売上高あるいは研究活動などからみて,企業にどのような影響を与えているであろうか。

通商産業省の調査(技術動向ならびに技術投資に関する調査昭和38年,技術交流等に関する調査昭和41年)によれば,昭和37年〜39年において技術導入を行なつた企業は,全体の55%であり,特に,化繊(92%),通信・電子(81%),石油・石炭製品(80%),電気機械(75%),精密機械(75%),化学製品(69%)など,一般に研究活動が活発であると考えられる産業部門(においては,大半の企業において技術導入行われている。これらの企業における研究開発の方針,製品売上高中の技術関連部分の状況などは, 第2-2表 のとおりである。研究開発方針としては,主として技術導入に頼ろうとする企業は少なく,昭和36年においても自社開発への意欲はかなり活発であつた。しかし,売上高については,昭和39年においても,技術導入を行なつた企業においては,そのかなりの部分が導入技術に関連したものとなつている。

また,研究活動においても,産業によつては,導入に関連した部分が極めて大きな割合を占めている。 第2-10図 は,昭和39年における研究費中,導入技術に関連して使用された部分の比率を示したものであるが, 繊維,化学繊維,化学製品,ゴム,通信・電子技術などにおける値は,極めて大きい。これらの産業部門では,導入を行なつている企業の割合が大きいため,導入を行なわない企業を含めた部門全体としての研究費でみても,導入関連部分は,30〜50%という高い値を示しており,研究活動の半ば近くは,導入技術の消化,改良に費やされているわけである。とくに繊維,化学製品,化学繊維,ゴム,窯業,鉄鋼においては,昭和36年の新製品開発に使用された研究費中の技術導入関連部分の比率 (全研究費中の比率は,当然これより小さくなると考えられる。)と比較 してみても,前記の39年における全研究費中の導入関連部分の比率は, これを上まわつている。( 第2-10図 参照)

第2-2表 企業の開発方針と売上高中の技術導入関連部分

第2-10図 研究費中の導入関連部分(昭39年,36年)

このような傾向は,近年における導入技術の質の変化に対応するものと考えられる。

導入技術に関連した研究費の成果を,導入技術の改良率によつてみたものが 第2-11図 である。

これは,技術消化率(その後の研究により改良された導入技術の件数の,全導入件数に対する比率)と,「導入関連研究費/研究費」とを産業別にプロットしたものであるが,これでみると,各産業は,大別して3群に分けられる。すなわち,その領域に全体の平均値を含み,平均的な傾向を示すと考えられる中央群と,両軸寄りに偏位した2群とである。このうち,縦軸寄りの群(導入関連研究に力を注ぐわりに,消化率の小さいもの)には,ゴム,繊維,石油,石炭製品が,横軸寄りの群には,自動車,電気機械,通信・電子,鉄鋼,一般機械などが属している。

これらの群の特性を調べるために,「総研究費/総売上高」と,「導入関連研究費/総研究費」との関係を示したのが 第2-12図 で,前図の縦軸寄りの群は,本図における縦軸よりの群(売上高に比べ,て研究費が少ないもの)と一致し,前図の横軸寄りの群に属するものは,本図では横軸寄りに位置することが知られる。消化率の大小は,導入技術の質によることはもちろんであるので,その点を考慮する必要はあるが,一般的には,今述べたような傾向は,導入技術の消化に対しても,研究費の対売上高比の高い,すなわち研究に意欲的であり,国内技術の蓄積もある企業が有利であることを示すものといえよう。

第2-11図 技術消費率と導入関連研究費/研究費の関連 

このような導入技術の消化率の値は,各産業ともかなり高く,特に化繊,ゴム,自動車,電気機械,通信・電子などは,70%以上の導入技術が改良されており,活発な研究活動を示している。このような研究は,むろん自社開発能カの増大にもつながり,研究水準の向上に役立つていることは疑いないが,研究活動の半ばをこの種の研究が占めるような状態は,しばしば指摘されるように,本来の意味で開発力の源泉となるべき独創性ある研究が育ちにくい傾向をつくる恐れがある。事実,わが国における自社開発力の不足は,技術貿易に端的に示されており,わが国の技術輸出は,まだ極めて少ない。これについては,第5章に述べることとし,ここでは,その収支が,米国はもとより,同じく輸入超過となつている西欧諸国とも大きなへだたりがあり,特に,輸出技術の内容において,先進国向けが著しく少ないことを指摘するにとどめる。

第2-12図 導入関連研究費/研究費と研究費/売上高の関連


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