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第2章  研究活動
1  わが国の研究水準
(1)  研究水準の概観


わが国における研究水準の調査は,まだその緒についたばかりの現状であるが,一つの見方として,最近の調査に基づいて,企業,学協会などにおける考え方をまとめてみた結果は次のようなものである。

1 科学技術庁の調査(科学技術振興に関する基礎調査昭和41年)によれば,5〜10年後を目標として開発を進めている研究の現在の段階について,各企業が海外における研究段階と比較した結果は, 第2-1表 の,とおりである。

いずれの段階にあるか不明と回答したものを除く1,109件の技術目標についてみると,現在,海外と同じ段階にあるものは600件(54%),海外より進んだ段階にあるもの67件(6%),海外より遅れているもの442件(40%)である。同様の比較を業種別に行なつたものが 第2-1図 であつて,化学,鉄鋼業において,海外より進んだ段階にある5研究があげられてきていないことが注目される。なお, 第2-1図 の最下段は,業界団体についての同種の調査結果であつて,個々の企業についての調査とほぼ同様の結果が示されている。

第2-1表 企業における技術目標の研究段階比較

このような比較は,一般に海外における最先端の研究に対して行なわれたものと考えられるから,全体として,海外と同段階以上のものが60%を占めているという結果は,研究段階に関してみるかぎり,わが国の企業において考えられている研究水準はかなり高いものといえよう。

しかし,一般的な研究水準の考え方としては,さらに同一段階にある研究についての質の比較,技術目標についての大きさ,重要性の相異などについて考慮しなければならないであろう。

第2-1図 研究段階の海外との比較

この点について,個々の研究の質は,もちろん,一様ではないが,全体的にみれば,後述の研究水準についての学・協会の考え方にもみられるように,同一段階にあると企業が判断した研究の質において,海外よりも劣る場合が多いのではないかと考えられる。また,前記調査中,業界団体からあげられた海外との比較において,わが国が進んでいるものと,非常におくれたものとについて,個別の技術目標の例をみれば,非常におくれたもののうちに,重要なもの,技術革新の主流をなすものが多く存在するように思われる。( 付表 参照 )したがつて,企業において考えられている研究水準は,さきにみた表面的な数値よりも低い水準にあるものと考えるべきであろう。

一方,このような結果を,企業における製品の海外比較に基づく技術水準の判断と比較してみると, 第2-2図 (通商産業省技術動向調査昭和38年)に示されるように,すでに36年において,全製品の21弾が海外よりすぐれ,47%が海外と同等,21%が近く同等になると考えられており,研究水準についての考え方との間に,かなりの差があることが知られる。

第2-2図 企業における技術水準の認識(昭和36年)


2 しかし,製品に限定せず,一般に技術水準としてとりあげるならば,企業の判断は,より研究水準そのものの判断に接近してくるものと考えられる。

通商産業省の調査(技術水準に関する調査昭和41年)によれば,民間企業において゛技術水準″が考えられるとき,その判断基準として意識される要因の比重は, 第2-3図(a) のとおりである。その調査は,主として中小企業を対象にしているが,その結果はかなり一般性をもつものと考えられる。)ここで注目されるのは,製品の質,生産性などの現在の生産活動の質を表わす指標のほかに,技術開発力のように,将来へのポテンシャルを示すものが,判断の尺度としてかなり使用されていることである。この場合,技術開発は,研究水準とほぼ同義と考えられるので,一般に技術水準として意識されているもののうちには,研究水準がかなりの位置を占めているわけである。

また, 同図(b) でみると,企業規模が大きくなるほど,技術水準の尺度として技術開発力が採用される割合が増大することが認められよう。

一般に,研究費の対売上高比率などからみれば,大企業になるほど研究に対する関心は強まると考えられるので,上述のような傾向は,研究を重視し,それに自信のある企業ほど,技術水準と研究水準とに対する考え方に共通性が増大することを示すものと思われる。この観点にたつて,ふたたび 同図(a )における技術開発力の比率の業種間における差異に注目すると,これは,国内各業種における研究水準の考え方,あるいは,少なくとも研究開発を重視する度合の相対的なパターンを示すものといえよう。各業種において,研究費の対売上高比率と技術開発力のシエアとの間にかなりよい相関のみられることは,このことを裏付けるものである ( 同図(c) )。 ただし,ここに明らかになつたこのパターンは,従業員数100〜299人のかなり小規模な企業についてのものであつて,企業規模の変化につれてこのパターンに多少の変化のあることは,十分予想される。

3 さらに,より基礎的な面に近い研究の水準については,どのような見方がされているであろうか。わが国の学・協会のそれぞれが関係する研究課題および所属分野における研究水準についての考え方は,次のとおりである。 第2-4図 は,各学・協会がその属する分野における海外よりすぐれた水準にある研究課題,非常に遅れた水準にある研究課題および未着手の研究課題の割合とそれぞれの将来の見通しについて指摘した結果を示している。これでみると,海外よりもすぐれた水準にある研究もかなりの数に達することが知られる。しかし,全体的な水準についての見地からは,ここでは,両極端の水準にあるものだけが指摘され,同等の段階にあるものは考慮されておらず,また,個々の研究課題の大きさ,重要度も不均一である。したがつて,それぞれの水準にある研究課題の比重は,必ずしも全体的な水準を示すものではないが,おおよそのところ,非常に遅れた課題の方が,進んでいるものよりもかなり多く,理・工・医・農各部門とも,ほぼ同様の傾向にあるといえよう。さらに,注目されるのは,将来の見通しについて,゛悪くなる"とされるものの比率が高いことである。特に,理学・農学においては,その傾向が強く,現在すぐれている研究であつても,将来の見通しのよくないものが多い。

一般に研究課題の将来の発展は,現在の研究水準(少なくともその課題の属する分野の水準,多くの場合は,さらにひろい範囲の分野の水準)に依存するところが大きく,したがつて,将来の見通しの良否は,かなりの程度,現在の研究水準を表わすものと考えられる。

このような見方からすれば,ここに示された研究課題が,全体的にみて,現在遅れているものはさらに遅れる傾向を示し,現在すぐれている課題についても,将来は必ずしも明るくないと考えられていることは,わが国の研究水準について,考えるべき問題の多いことを示すものといえよう。

第2-3図(a)技術水準の判断基準

第2-3図(b)企業規模による技術水準尺度の採用率

第2-3図(c)研究費/売上高と研究開発力意識の関係

第2-4図 研究課題現在の研究水準と将来の見通し

また, 第2-5図 は,同じ学・協会に対し,その属する研究分野そのものの水準についての認識をたずねた結果である。これによれば,現在不満な水準にあると考えられている分野の数は,全部門では約60%を占め,医学を除いては各部門とも同様の状況にあることが知られる。

第2-5図 研究分野の水準

これらの分野の水準比較においても,さきに述べた企業における技術目標の場合と同様に,その内容の不均一性(ここでは,一つの分野のなかにおいても,いろいろの部分によつて,その水準が異なつていること)を考慮する必要があろう(研究題題の間の大きさの差異も問題であろうが,科学的な研究については,そのような考察は困難である)。

第2-6図 1分野当り研究課題数の分野水準別分布

前記調査報告においても,その属する分野が゛望ましい水準にある″と答えた学・協会には,比較的小さなものが多かつたこと,また逆に,物理学のような大きな分野では,その一部にすぐれた水準のもの(たとえば素粒子)があつても,全体としては,"不満足な状態″とされたことなどが指摘されており,実質的に考えた場合,全体の水準をどうみるべきかは困難な問題である。 第2-6図 は,そのための一つの試みとして,各水準にある分野当たりの高水準の研究課題および低水準の研究課題の比率を示したものである。一般的には,高い水準にある研究分野には高水準の研究課題が多く,低水準の分野ではその逆と考えられるが,同図に示されるように,理学および医学部門においては,すべての水準の分野について,低水準(遅れているかまたは未着手)の研究課題が多く存在している。また,全部門についてみても,高水準の研究分野に存在する研究課題は,高水準のものと低水準のものとがあい半ばしている。すなわち"望ましい水準にある″と考えられている分野においても,遅れているか,未着手の研究題題が多く存在しているのであつて,このような点からはわが国の研究分野の水準は,実質的にはさきに述べたような比率によつて示されるよりも,低いとみることが妥当であるという考え方もできよう。


6 これまで述べてきたところから,わが国の研究水準について,いくつかの特色を指摘することができるように思われる。

一般に,企業における研究水準の考え方と,製品からみた技術水準の考え方には,かなりのくい違いが存在する。このことは,一般にいわれているように,わが国の技術に対する導入技術の影響,すなわち,自己開発による以上の生産技術の向上の結果とも考えられ,これについてはさらに後に述べる。

また,企業における研究水準の考え方と,学・協会におけるそれとの間にも差があるように思われる。はつきりした比較はできないが,おおよそのところ,企業におけるよりも,学・協会においては,(いいかえれば,基礎的色彩の強い分野において)その研究水準を低く考えているといえよう。

一方,学・協会によつて提示された個々の研究課題からは,わが国の研究水準について,次のような特色が明らかにされる。

(a)高水準の研究には,比較的範囲の狭い研究あるいは一般的水準に影響されにくい,孤立的な研究が多い。これに反して,総合的研究あるいは境界領域の研究については,その水準が低いか,または将来の見通しがよくない。
(b)純理論的研究あるいは経験的技術的研究には高水準のものが多いが,将来の見通しはよくない。一方,理論と実際とが相互に影響しあいながらすすむことが重要な研究は遅れている。
(c)わが国の伝統的技術によるもの,手工業的なものなど訓練によつて技術を高めていくことができるものには,高水準の研究が多い。これに対し,大規模設備を必要とするものの研究水準は,高くない。 また,同じ研究課題について,やや具体的な観点からは,次のような

特色が指摘されている。

(a)高い水準にあると判断されている研究課題の多くは,次のような分類に入れられる。

1)研究対象が日本固有のものまたは日本に豊富なもの  例)火山,天体観測,日本脳炎,いもち病関係
2)日本国営企業密接な関係にあるもの  例)磁気記録,マイクロ波,鉄道車両,列車運転関係
3)日本の特有産業または伝統的産業と密接な関係をもつもの  例)蚕の遺伝,育種,醗酵徴生物,塩田,水田関係
4)日本の近代的産業(工業)のうち,世界的水準にある産業と密接な関係にあるもの  例)造船,繊維,ビタミンB1 ・C関係

(b)社会開発関係の研究水準は低い。  例)産業廃水処理,大気汚染,下水処理,国土および都市の総合的開発計画,食品添加物,農薬等の安全性と有用性
このような特色は,現在,一般にいわれているところと,よく一致したものといえよう。

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