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第1章  政府の施策
2  国の研究活動
(2)  国立試験研究機関の研究


1 沿革

国立試験研究機関については,必ずしも画一的な定義はされていないが,一般的には,試験,検査,検定だけを行なつている機関を除き,各省庁に設置され,専ら試験研究を行なつている機関をいう。現在このような国立試験研究機関とみなされるものは,約90機関であるが,一部の人文・社会科学関係の機関を除き,大部分は自然科学関係の機関であり,その数は,80機関ほどにのぼつている。また,現在科学技術振興費の対象になつている79の機関(人文・社会科学関係を含む。)について,設立年代ごとに分けてみると, 第1-10表 に示すとおりであるが,その3分の2近くが昭和20年以後に設立されたものである。

設立以来歴史の長いものとしては,文部省国立科学博物館が明治5年に,厚生省国立衛生試験所は明治7年にそれぞれ設立されているが,一般には,農林省,通商産業省関係の研究機関に比較的歴史の長いものが多い。これらの研究機関は,それぞれ時代の要請に基づいて設けられ,各時代の基幹的な産業の育成,食糧の増産,疾病の克服などの面において,国家的立場から先導的試験研究を遂行するとともに,海外から受け入れた科学技術の消化に努めてきた。最近,世界における驚異的な科学技術の進歩とこれの社会の広範な部面への波及によつて,試験研究に対する国の比重は年とともに高まつているが,民間産業の発展,社会の近代化などに伴い他面国の試験研究に対する要請の内容も,従来とは大幅に変化しつつある。

今日試験研究において国が責任を負うべき主要な分野としては,(1)新しい科学技術の基盤となる基礎研究を行なうこと,また,原子力,宇宙などの新しい総合分野においては,基礎から応用実用化にいたる一貫した研究を行なうこと,(2)公共の福祉に寄与する公衆衛生,災害防止等に関する研究を行なうこと,(3)産業の基礎となる核心的または共通的な技術の試験研究を行なうこと,とくに農林水産業および中小企業などの低生産性部門の生産性の向上に資する研究を行なうこと,(4)産業の基盤あるいは国民生活の向上に資する大気,地理,地質,海洋等に関する調査研究を行なうこと,(5)人類の共通の目標に対する探求と開発に寄与するため,研究に関する国際協力を推進すること,などがあげられている。

以上のような分野について行なわれている国立試験研究機関の活動をみる場合 の参考として, 第1-11表 に国立試験研究機関経費の省庁別一覧表を掲げる(なお,それぞれの省庁に属する試験研究機関の一覧表は,巻末の付表に示すとおりである。)。

第1-10表 国立試験研究機関設立の年代別推移

第1-11表 昭和40 ・ 41年度省庁別試験研究機関経費

次に,これら試験研究機関の予算について,農林省関係は農学部門,厚生省関係に科学技術庁の放射線医学総合研究所と労働省の労働衛生研究所の予算を加えたものは医学部門,経済企画庁経済研究所,法務省法務総合研究所,文部省国立教育研究所などの人文・社会科学関係の機関経費は「その他」とし,それ以外のものを一応理工学部門としてまとめたものが 第1-12表 である。

ここに示されているとおり,理工学部門で研究費全体の約60%を占めているが,この部門は,通商産業省工業技術院所属の13研究所や科学技術庁所属5研究所,防衛庁技術研究本部所属の5研究所その他各省の研究所によつてそれぞれ研究が進められている。農学部門は,いうまでもなく農林省農林水産技術会議が中心となつて,農林省所属29機関によつて研究が進められている。医学部門での研究は厚生省所属8機関および科学技術庁放射線医学総合研究所等によつて推進されている。

第1-12表 昭和40・41年度理工・農・医別試験研究機関経費  (単位 百万円)

2 昭和40年度の施策

国立試験研究機関の整備強化のためにとられた主な施策について,昭和40年度を中心にその概要を述べる。

科学技術庁においては,航空宇宙技術研究所に,ロケットおよびV/STOL(垂直短距離離着陸機)関係の施設の整備が進められるとともに,将来の研究施設の拡張のため,宮城県角田市に用地を確保し支所を設置することとなつた。金属材料技術研究所では,39年度に引き続きクリープ等の試験設備および施設を整備し,材料試験部を新設してクリープデータシートの作成に着手した。

さらに,最近の原子力・宇宙・電子技術等の発展に不可欠の材料の品質性能の向上および新材料の創製を図るための新研究所について,設立の準備が進められ,昭和41年4月に無機材質研究所として発足した。

国立防災科学技術センターでは,波浪等観測塔の建設,雪害実験研究所の完成など共同研究施設の整備が図られた。

通商産業省においては,昭和39年度に設置された九州工業技術試験所に昭和40年度において第1部および第2部を新設し,特に施設設備の整備を図つた。また,将来の産業技術および経済への大きな波及効果を生ずる画期的な先導技術であつて,長期にわたり,多額の研究開発費を必要とし,かつリスクが大きく,多くの技術分野の総合化と多数の研究者の協力を必要とするため,民間においては,とうていこれを行なうことができない大型工業技術について,国が長期研究開発計画を策定し,その計画に基づいて全額国庫負担により,国立試験研究機関・大学・民間の研究者を動員してこれを実施することとし,昭和41年度は,電磁流体(MHD)発電,超高性能電子計算機,火力発電所排ガスの脱硫の三つの大型プロジェクトについて,研究開発に着手した。

運輸省では,昭和40年度に船舶技術研究所に調査室を新設し,研究管理の強化をはかるとともに,各地に分散していた施設の三鷹地区への集中を行なうほか,電子航法評価試験用航空機の購入等大型研究施設の整備を行なつた。

農林省では,昭和39年度に新設された植物ウイルス研究所に40年度において研究第1部を新設したほか,その他の試験研究機関において畜産,園芸,機械化等の部門の研究室を新設した。また,厚生省は,昭和40年度に国立精神衛生研究所に社会復帰部,国立予防衛生研究所に麻疹ウイルス部を新設した。なお労働省労働衛生研究所においても,実験部門の強化充実を図るため,実験室等の増築が行なわれた。

3 研究の内容

科学技術庁関係では,航空宇宙技術研究所において,ジェットエンジンに関する研究,STOL機に関する研究,VTOL機のフライングテストベッドに関する研究のほかロケットに関する研究などが特別研究として推進されており,金属材料技術研究所においては,超電導マグネット材料に関する研究やロケットおよびジェットエンジンの材料の性能向上,耐熱性材料の溶接,超高圧による金属材料の性能向上に関する研究が特別研究として実施されている。また,宇宙開発推進本部では,昭和45年度に実用実験衛星打上げを目途として,人工衛星とこれを打ち上げるロケットの開発研究を中心とし,あわせて気象等実用化ロケットの開発を推進するほか,種子島における射場施設設備等の充実にあたつている。さらに国立防災科学技術センターにおいては,防災に関する特別研究として洪水防御のためのプロセスモデルの研究および災害統計の分析研究等を引き続き実施中である。

防衛庁技術研究本部は,自衛隊で使用する航空機,誘導武器,火器,車両,艦艇,音響および電波器材などの装備品についての研究開発を担当している。開発は主として本部の技術開発官,研究は第1から第5までの5研究所において実施されているが,最近は飛行艇,対戦車誘導弾,戦車,ガスタービン,各種ソーナ,および各種レーダなどの研究開発において成果が得られており,そのほか,潤滑油の超音波せん断に関する研究,波浪利用発電機の研究,航空機の疲労強度の研究,ジェット・フラップの研究などにおいても成果が得られている。警察庁の科学警察研究所においては,科学捜査に関する研究および各種鑑定,非行少年問題ならびに交通問題に関する研究を行なつており,最近は,アルコール飲料の運転機能に及ぼす影響,新しいシステムの信号機の開発,油類の微量分析法に関する研究などに成果がみられており,特に電話の声の録音テープの分析等による個人識別に関する研究に明るい見通しが得られた。北海道開発庁土木試験所では,北海道の地域的特殊性に起因する開発事業実施上の技術的諸問題の総合的な解明にあたつているが,最近は,港湾構造物に関する研究,橋粱の耐久性および強度に関する研究,寒地舗装に関する研究,泥炭地の土質工学的研究,かんがい用ダム築造材料に関する研究などの面に成果が得られている。大蔵省関係では,醸造試験所において,酒類等の分析,鑑定および酒類の製造,貯蔵などの研究を行なつており,これらの研究成果の普及を図り,酒類の品質の向上と技術の近代化に貢献しているほか,印刷局研究所においては,従来の研究に昭和40年度から新たに紙幣用紙のPVA加溶液の品質改良に関する研究,切手用紙のコーティングに関する研究が追加された。文部省関係では,緯度観測所において,極運動観測データの自動処理,極運動の精密決定,アストロラーブによる極運動観測,極運動と地球潮汐との関係等の極運動関係の研究や,超長波標準電波による各種の観測・研究などが進められている。統計数理研究所においては,各種統計の基礎理論の研究などが行なわれているが,最近は,自然現象や社会事象の数量化に関する研究,各種交通機関の安全性を確保するための周波数応答函数の統計的研究,日本人の国民性に関する研究などの面で業績が収められている。国立遺伝学研究所においては,遺伝子の作用,細胞質雄性不捻,放射線遺伝学とその応用などについて研究が進められ,国立科学博物館においては新たに極地部を設置し,南極地域で収集した資料の整理,保管および研究にあたることとなつた。

通商産業省においては,工業技術院が中心となり,計量研究所以下13の付属研究所によつて研究活動が営まれている。工業技術院で実施されている研究は大別して経常研究と特別研究に分けられるが,特別研究には,1)所管行政に密着する問題で推進が要望されている研究,2)各研究所の所管研究分野の研究課題のうち,特に国として解決し,推進を要望されている研究,3)産業構造の高度化または産業の国際競争力の強化を図るために必要な重要研究などが含まれており,この特別研究のうち,特に重点的に推進すべき研究として,工業技術院長が指定するものを指定研究としている。工業技術院では,これらの研究の推進にあたつて,科学技術会議の答申の趣旨に沿い,工業技術協議会等の意見を徴して,検討調整のうえ特別研究については3年ないし5年の長期計画をたて,解決すべき問題点を明らかにして研究計画を設定している。昭和40年度の研究計画の設定にあたつてはエネルギー技術,電子技術,生産加工技術,新材料開発技術,分析技術,地下深部探査技術等の先導的技術分野の開拓に重点が置かれるとともに,社会開発の一環としての産業公害および保安対策技術の研究分野の開発と消費者行政につながる研究分野の開拓などに重点が置かれた。このようにして選ばれた昭和40年度の特別研究課題4項目のうち,特に指定研究として推進されたものは 第1-13表 に掲げる17項目である。

第1-13表 昭和40年度工業技術院指定研究課題

運輸省では,船舶技術研究所,港湾技術研究所および気象研究所において,昭和40年度に,高経済性船舶,海難の防止,原子力船の開発,電子航法技術の開発,港湾建設技術の近代化,集中豪雨雪等による災害の防除および公害の防止などの研究が推進された。最近では肥大船型の系統的模型試験,ガスタービンに関する研究,漂砂に関する研究,プレパックド・コンクリートの研究,北陸豪雪の研究および大気汚染の研究などの面で成果が得られている。また運輸省では,研究機関における研究と,行政要請との関連に緊密性をもたせるとともに,積極的に研究成果の活用を図ることを目的とし,昭和41年研究管理規則を制定し,その運用にあたつている。郵政省電波研究所では,あらゆる電磁波の伝わり方の観測と研究,宇宙通信の研究,超高層大気および宇宙空間の研究,標準電波の発信および原子周波数標準,通信方式および情報の符号化研究などが推進された。労働省産業安全研究所では,産業各分野における安全工学的研究および安全保護具についての研究を進める一方,各種作業と機械設備,装置等に関する人間工学的研究を進めた。建設省関係では,土木研究所において,土木技術に関する基礎的研究および工事に直結した調査,試験研究が行なわれているが,このほか,特別研究として道路の冬期交通確保,地震時における可撓性構造物等の研究が実施され,建築研究所では昭和40年度の特別研究として,臨海部市街地および建築物の防災,異常軟弱地盤の震害対策,住宅門,題の総合的研究などを実施するとともに,一般研究においては,都市計画,建築材料,建築構造,施工および生産技術,防火および設計計画整備等に関する研究を続行した。また,国土地理院では,前年度に引き続き,測地基準点測量,国土基本図等基本図作成,地理調査などが実施された。消防庁消防研究所では,消火技術センターの完成に伴い,空中からの消火法,化学火災の対策,地下室・無窓建物火災対策等について特別研究を実施するとともに,火災,消火等に関する一般研究を継続実施した。

農林水産業関係の研究は,農業技術研究所等19の農林本省試験研究機関および林野庁林業試験場ならびに水産庁水産研究所(8海区)およぴ真珠研究所の合計29機関がそれぞれ分担実施しているほか,水産庁の漁船研究室が試験研究の実施にあたつている。農林水産技術会議は,これらの機関の行なう試験研究の基本的な計画を企画立案し,他方研究と行政面との連絡調整を行なうとともに,試験研究の総合調整にあたつている。農林水産業の生産性の向上,生産の選択的拡大,農林水産業の構造改善などを図るためには,その基礎となる技術の開発および流通改善等のための利用加工技術の開発が重要であり,昭和40年度においては,試験研究費の増額ならびに研究機構および研究施設の整備拡充を行ない,基礎研究の強化を図るとともに,特に機械化,畜産,園芸,利用加工,育林,養殖,原子力利用等の分野に重点を置いて,試験研究の強化と効率化に努めた。昭和40年度の主な特別研究課題について,行政対策関係特別研究と新技術開発特別研究に大別して示したものが 第1-14表 である。なお,試験研究の最近の成果からその二,三を例示するならば,中大型機械化,豚の高精度選抜方法,にわとりのロイコチドゾーン病の予防法,穀物・果樹およびそ菜の新品種の育成,非水銀系新防除薬剤の開発,凍結乾燥食品の改良などがあげられる。

第1-14表 農林水産関係の重点特別研究課題例

医学関係の研究は,厚生省所属の8機関と科学技術庁放射線医学総合研究所および労働省労働衛生研究所などにおいて進められている。このほか,厚生省関係では,国立がんセンターや国立病院などにおいても研究が行なわれている。放射線医学総合研究所では,放射線による人体の障害の予防,診断,治療に関する研究や放射線の医学的利用に関する研究を行なつているが,特にプルトニウムによる内部被ぱくに関する研究等の特別研究の強化を図つた。一方,厚生省が行なつている研究は,公衆衛生・疫学等の研究,精神障害,産業精神衛生の研究,国民栄養の改善の研究,各種伝染病の予防,各種抗生物質の研究,らいの予防および治療,病院の経営管理,医薬品の検定,食品の検査,人口問題の統計的・理論的研究など多方面にわたつている。また,国立がんセンターは,がんその他悪性新生物の診断・治療・研究にあたつており,労働衛生研究所では,工場・事業場における労働衛生に関する調査研究が行なわれている。昭和40年度における労働衛生研究所の主要な研究課題は,けい肺病,各種中毒,職業がん,有害労働環境,精神的ストレス評価などである。このほか医学方面において最近成果が期待されている研究としては,出生力に影響を及ぼす社会心理学的要因とその動向,人工妊娠中絶の障害,騒音等の人体に及ぼす影響,慢性一酸化炭素中毒,栄養強化剤,食中毒,種々の予防ワクチンの改良・開発,農薬の衛生学的研究などがある。


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