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  序説

現代の社会は,産業はもちろん文化も,経済も,はたまた人類の福祉も科学技術の先導によつて向上し発展していくものであり,科学技術の振興なくしては,その繁栄を期することが困難な時代となつてきた。

科学技術発展の基盤となるものは,もとよりその研究活動であり,科学技術と経済,社会との関係が緊密となるにしたがつて,研究活動の範囲,規模は拡大し,多人数の科学技術者による組織的活動と多額の研究費とが要請されてくる。また,研究活動を推進するものは,政府の施策であり,民間企業の意欲であり,さらには科学技術者の能力と努力であることはいうまでもない。しかもこれらが有効適切にその効果を発揮するためには,現状の把握,すなわち技術水準,研究水準に対する正しい認識を持つことが必要となる。これらの認識にたつて,わが国の研究活動を展望し,長期的かつ基本的な計画を樹立し,これに基づき強力な施策を講ずることが,今後の科学技術の発展のために,ひいては国の繁栄に資するために必要なこととなるであろう。

このような観点からわが国全体の研究費をみると,昭和39年度には3,818億円に達し,10年間で約7倍に増加している。しかしながらわが国全体の研究費は,その額においても,また国民所得との比率においても,アメリカ,ソ連にはもちろんイギリス,フランス,ドイツよりも下まわるものとなつている。現在これらの諸外国が,科学技術振興に一層の力を注いでいること,わが国の科学技術がその歴史的蓄積において少なからぬ格差があること,加えて,第2次大戦中における諸外国との科学技術交流の隔絶による遅れがあること等の事情をあわせて考慮すれば,この数字は,決して満足すべき段階に尾るとはいいえないであろう。また,わが国の研究費は,従来からその70%を民間の負担にゆだねてきいるが欧米諸国では民間負担は40%前後であつて,わが国とは逆の傾向にある。近年の研究活動が,その規模の拡大によつて,多額の経費を必要とすること,また国家的,社会的要請に基づく研究が増加していることなどから国の役割がますます重要の度を加えつつあり,研究費の拡充については,今後検討すべき問題であろう。

昭和40年度の国の科学技術振興関係費は,総額1,206億円で前年度に比較して,119億円の増加を示し,昭和41年度は1,431億円で225億円の増加となつている。この予算(国立試験研究機関経費,国立大学の研究費等がその大半を占めるが,原子力関係127億円,宇宙関係45億円,がん関係23億円等が含まれている。)は,昭和31年度以降10年間で約5倍に増大し,一般会計予算総額に対する割合も2.5%から3.3形に高まつている。これらは,過去における国の努力を端的に物語つているといえようが,これを欧米諸国の科学技術関係予算と比較した場合,なお格段に見劣りがするといえよう。すなわち,総額では前述のいずれの国にも及ばず,また,科学技術関係予算が国家予算に占める割合をみても,アメリカの15形をはじめとして,イギリス6.3%,フランス9.2%,ドイツ3.5%といずれもわが国より上まわつた数値を示している。諸外国の予算には,国防関係の研究費が含まれているとはいえ,国防研究のなかには,基礎科学研究や,試作研究などが含まれており,これが全般の水準向上に貢献していることは見逃がせない。

一方,わが国の民間の研究費は,昭和34〜36年に急増をみせた後は,年間10%前後の増加傾向で推移しており,昭和39年度も同様の傾向を示し,民間研究費は総額2,439億円となつている。ここ数年増加傾向が低いとはいえ,総額では,過去10年間で約8倍に増加しており,その倍率は,国の科学技術関係予算のそれより上まわるものとなつている。民間の研究投資が大きく伸びたことは,国の税制上の措置その他の助成措置が,これにあずかつていることもあるが,民間企業の積極的な努力の積み重ねによるものである。今後,一層の激化が予想される国際競争にわが国産業が打ち勝つていくためには,企業自らがその研究開発になお一層の努力をはらうことが肝要であり,効率的な研究投資に心がけることが望まれるとともに,国においても産業技術の開発のための適切な施策が必要となろう。

このような研究投資の動向は,科学技術水準の向上に対する努力を示すものといえるが,この努力の成果はいろいろな面に現われてきており,技術貿易の面にも現われてきている。ここで,わが国の技術貿易をながめてみると,昭和40年度における技術導入は,958件であつて,38年度をピークにして2年連続して減少の傾向を示している。このことは,経済活動の変動に伴う一時的な現象であるのか,企業における自主技術開発の推進によるものであるのかは,今後の動向をみなければ判断しがたい。一方,技術貿易収支の面から技術輸出をみると,40年度の差引支払額は,1億5千万ドルと,39年度より1千万ドル増加しているが,支払に対する受取りの比率は7.8%で前年度より2.6%高く,年々増加する傾向を示している。技術輸出の増加は,その技術の内容によるとはいえ,技術向上の一面を示すものでもあり,また,日本経済の発展に貢献するところも少なくなく,今後一層の伸長が期待される。

わが国の科学技術が飛躍的に発展したかげには,前述の技術導入の影響があつたことも事実であろうが,導入技術を消化しこれを発展させた科学技術者の能力は高く評価されるべきものであろう。

科学技術者の充実については,従来からいわれてきたところであり,昭和35年科学技術会議が将来を展望して指摘した科学技術者の養成確保の主旨に基づいて,高等教育機関の入学定員の増加,工業高等専門学校の設立等の諸施策を図つたことにより,科学技術者の量的不足は漸次解消の方向にあるといえる。しかし,最近の科学技術分野の多様化,研究対象の高度化等に対応して,科学技術者の質の向上が強く叫ばれ,また,専門分野別,教育段階別に,長期的計画的な配慮のもとに社会の要請に応じた人材養成を行なうことの必要性が認識されつつあることは,今後の人材の質・量両面における養成・確保のために考慮しなければならない一面である。

国内の動きに並行して,国際的な活動も年々活発の度を加え,「黒潮国際共同調査」,「国際水文学10年計画」等への参加,「南極地域観測」の再開や,日米科学委員会等の科学技術協力なども活発に行なわれている。一方,開発途上国に対しては,留学生や研修生の受入れ,あるいは指導技術者などの派遣により,これら諸国の科学技術の発展に協力している。科学技術の調和ある発展のためには,国際的な技術の交流,知識の交換は不可欠なものと考えられるが,わが国で開催される国際会議が年々増加していることや,本年11月にはOECDによつて日本の科学技術政策に対するコンフロンテーションが,欧米諸国の期待のもとに行なわれる現状にあることは,わが国の科学技術が世界の注目を浴びてきていることを示すものといえよう。

一方,科学技術情報量は,近年飛躍的に増加しているが,これら数多く発表される各分野の情報を速く,広く,正確に把握・整理しそれを活用することは,科学技術水準の向上を図るにあたつて忘れてはならないことである。わが国の科学技術に関する情報体制は年々整備されつつあるが,諸外国のそれと比較して,不備な面も少なくなく,今後一層の充実を期待しなければならない。

わが国の技術は,ようやく国際的水準に近づいたといわれ,また科学技術の研究の面でも,多くのすぐれた業績を指摘することができる。昨年12月の朝永博士のノーベル物理学賞受賞は,その一つの頂点を示したものといえよう。しかしながら,わが国においては,一般に総合的研究,境界領域の研究,あるいは理論と実際とが相互に影響しあいながら進むことが重要な研究などが遅れていることが指摘されている。このことは,わが国の研究は,各段階,各分野の調和のとれた姿での発展が必ずしも十分なものでないことを示すものであろうし,また,研究の蓄積が不十分であることを物語るものであろう。

昭和40年12月,科学技術会議は,長期的な基本計画の策定を大きな柱とする科学技術基本法を制定すべきことを答申するとともに,本年8月には,科学技術振興の総合的基本方策に関する意見を具申している。この意見書においては,国の役割の重要性を指摘すると同時に,今後,高度化,多様化されていく研究活動に対処していくための研究活動の拡充整備を中心にした諸方策を打ち出すとともに,近い将来における研究投資の目標を対国民所得比2.5%程度にすることが適当であると述べている。

今後,わが国が研究活動の多様化,高度化に対処して,科学技術振興を図つていくためには,十分な現状の認識と,将来への適確な展望のうえにたつて,効率的な研究投資の拡充と,総合的な研究活動の推進に努めていくことが肝要である。


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