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2部   科学技術人材
第9章  諸外国の動向
4  西ドイツ


科学技術人材の養成については,教育は各州の任務であるという歴史的背景もあり,従来はイギリスやソ連ほど国家が積極的にこの問題を推進して行くという傾向はあまりみられなかつた。

しかし,戦後連邦と各州政府との協定によつて設立された科学会議が,1960年に「大学の増設についての勧告」を行ない,3つの総合大学(現在数18),1つの工科大学(現在数8),7つの医科大学の新設および大学教授の大幅増員の必要性を認め,この計画に沿つて拡充が積極的に行なわれている。

一方,産業界においても,近年科学技術者の企業内訓練の必要性を痛感するようになり, 一部の大企業においては,科学技術者,とくに幹部要員の養成が組織的に実施されつつある。また,鉄鋼業界のように,科学技術者の教育訓練を共同で行なつている例もある。

まず,国家の人材養成制度をみると,その教育体制に非常に特色がある。

すなわち,地方分権主義が確立され,各州において,それぞれ独自に教育行政機関をもつているだけに,西ドイツ全体の教育制度は非常に複雑である。

しかし,どの州においても,大学の権威は絶対的なものがあり,産業界の方も高級科学技術者の養成機関である工科大学には全般的な信頼を持ち続けている。それだけに,産業界の教育界に対する協力も密接で,有力企業は大学の実習生に自主的に門戸を開放し,また,教育界も産業界の要望に積極的に応えるよう努力している。

教育制度を工業教育の面からみれば,8年の義務教育のうち,最初の4カ年の終了の後,入学試験を受け9年制のギムナジウムに入る。この課程を終了の後,国家試験(Abitur)に合格した者は大学で指定した工場で半年間実習し,工科大学の5〜6年の教育を受けたものが最高の技術者であると考えられている 。

また,国民学校8年を了え,4年の職業学校をへて2.5 〜3年の工業専門学校を出た者がテクニシアンとして産業界に入る。次に,国民学校を出た者またはさらに3カ年の職業学校を了えた者,その上の2カ年の夜間専門学校を出た者が工員として産業界に入る形となつている。

西ドイツにおいても,産業界の繁栄は技術者の不足をもたらした。その解決策として,大学の増設を推進していることは前に述べたとおりであるが,最近は技術者の不足から,工業専門学校の卒業者の中より優秀なものを選び,これを高級技術者に育成する場合がふえてきた。また,この成績が良いので,今度は工業高専の増設を希望する声が産業界に高まつてきている。

工業教育の面で実習を重視することは他の諸国と同じであるが,ドイツにおいても工科大学では6カ月間指定された工場において実習することが入学の資格要件となつている。

これは,入学後の講義の理解のために絶対必要なものであると考えられている。また,在学中にも6カ月程度の専門実習が課せられており,大学はこの実習を他の教科以上に重要視している。

一方,産業界もこの実習の意義を理解しており,実習生の受け入れや,高級技術者の派遣,経済的な面における援助等,積極的にこれを支援している。これは,長期的にみれば,企業にも大きな利益をもたらすものであると考えられている。

次に成人に対する再教育については,大学は学則によつて成人教育が行なえぬことになつているが,アーヘン工科大学においては,外部組織としての「技術の家」を設立し,ここで各種の再教育コースを開設している。1961年には延1,000回にわたる各種の講習会が行なわれた。また,同大学には別組織として「技術アカデミー」があるが,この経営には産業界があたり,講義には同大学の教授があたつている。1961年には267のコースが開催され,延7,300人の受講生があつた。

一般に,このような再教育組織が各地城に拡大されることを希望する声が高まりつつあり,1957年首都ボンにおいてドイツ商工会議所,ドイツ経団連,その他多数の経済団体の協力の下に設立された「科学ど経済懇談会」(Gesprachkreis Wissenchaft und Wirtschaft)でもこの計画の拡大について大学側と検討を行なつている。

大学は産業界と接触を保つように心掛けていて,工科系教授の資格要件の一つとして,大学卒業後一定期間,企業等における実務経験が必要とされ,産業界と無縁な教授は考えられない。

また,民間企業においてしかるべき地位にあつた者については,教授の資格試験が免除されることになつていて,技術教育における実務体系の重視がうかがわれる。それだけに,産業界における大学教授への信頼は絶対のものであり,またその社会的地位も高い。

大学の組織については,発展し流動化する科学技術に対処するためにも,大学の学科は細分することなく,総合的な形においておくべきだとする声が強く,例えばベルリン工科大学は,従来のHochschuleをUniversitatとしたが,これは哲学等のカリキュラムを加え,スペシャリストではなくて管理者となるべき人材を養成することを目的としている。このことは,ソ連における学科の職業的,産業別分化と対照的な方向を示しているが,西欧諸国は大体総合化の方向に向つてているようである。

産業界における科学技術者の養成をみると,この国の特色として産業経営の主悩者に科学技術者が多く,技術中心の経営があつたからこそ,世界をリードする産業技術が確立されたという考えが強く,このため科学技術者の養成には非常に熱心であり,先に述べた「科学と経済懇談会」においても産学協同に関する種々の勧告や,工科大学における教育内容の批判等活発な動きを示している。

工科大学における教育の内容についての改善案として当懇談会の示した内容は,概ね次のようなものである。すなわち,学生を科学的で緻密なものの考え方・方法に習熟せしめ,また,専門知識を有効にかつ正しく生活に応用するために,人文科学の講議を含ましめること。さらに,

(1)専門的な各分科を廃止して,総合教育をすべきである。
(2)基礎科学の履修時間の増加。
(3)卒業試験と論文の重視。
(4)卒業試験を10学期に行ない,詰め込み主義を廃止する。
(5)社会科学と人文科学に充分な時間を割くようにする。
(6)実習期間の延長。

等である。

次に科学技術人材の雇用状況をみると,1959年には総雇用の1.3%を占め,他の先進諸国に比べて高い数値を示している。

人材の過不足についてみると,1936年以降の国際的孤立,第二次大戦による施設の破壊,東西分裂等,人材の供給にマイナスとなるような大きい要因が,他国に比べて多かつた。一方需要の方は,戦後,破壊の中から奇跡的な復興・成長をなしとげただけに,経済規模の拡大にともなう一般的な労働力不足はかなり深刻であり,それにともない科学技術人材の不足は今後増大して行くものと思われる。

なかでも化学者,物理学者,土木建築関係技術者はその不足が慢性的であり,将来も需要の減少は考えられない。生物学者は全体的に需給がほぼつり合つており,将来とくに過剰となることはないものとみられている。

現在,西ドイツにおいて,科学技術者に関して問題になつているものに,研究者の海外流出がある。

そのほとんどが,アメリカへの流出であるが,これに対しては,教授・助教授クラスの定員増等,研究者の処遇と環境を改善することでその阻止を図つている。

第9-4図 ドイツの学校系統図


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