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2部   科学技術人材
第9章  諸外国の動向
2  イギリス


第二次大戦以降多くの植民地を手放したイギリスは,官民とも活発な研究活動を行なつて,優秀な技術こそ今後の繁栄のために欠くことができないものであり,世界に優位を占めることのできる唯一の道であるとの自覚から科学技術者の養成に積極的な姿勢を示している。

すなわち,1944年,パーシー委員会をはじめとして,教育あるいは科学技術関係の人的能力に関するいくつかの公式委員会が政府により組織された。これら委員会の勧告や報告にもとづき義務教育年限の延長等画期的な教育制度の改革を意図する法律が議会を通過し,さらに1957年からは,5カ年計画で総額1億ポンドを投じてテクニカルカレッジの増強につとめ,これを中心にして科学技術人材の育成に努めてきた。

また,1962年2月,大学の拡充に関して「ロビンス報告」が政府に提出された。

同報告に示された主な勧告事項は,1)高等教育機関学生数の増大。2)大学を6校増設し,このうち1校は,理工科の教育,研究を受け持つ大学とする。3)理工科の教育,研究に重点をおく理工科大学を5校設置する。5校のうち1校は,新設校とし,他は,大学以外の高等教育機関より選ぶ。4)工科高等教育機関としての高等工学カレッジ(College of Advanced Technology)を,将来学位授与権限を持つ工科大学(Technological University)に昇格させる。5)教員養成カレッジの充実。6)高等教育専任の国務大臣および省の設置等である。

政府もこの方針に従つて努力することを約束し,1964年には「教育・科学省」が設置され,高等教育と科学研究を所管する部局が設置された。

このような政府による積極的推進策を柱として,イギリスは,西欧諸国の中でも最も科学技術者養成に積極的な国の一つとなつた。

イギリスの科学技術者養成の特長は,この国特有の教育制度に支えられて,非常に柔軟性に富んでいることであると思われる。

その養成方法をみると,義務教育を了えただけで産業界に入る者,中等教育を了えて産業界に入る者,大学を出て産業界に入る者等三種のコースに大別できるが,前二者については企業見習生として契約を結び,働きながらさらに継続して教育を行なわしめる,いわゆるサンドイッチシステムを採用し,他国ではあまり見られない独特の方式に成功している。この制度の根源は,中世紀のクラフト・ギルド制度と考えられ,これが時代の変遷とともに改良されて今日に至つたわけであり,長い経験の上に合理的に発達したものとみることができよう。この制度に関する産学両面からの協力は理想的に行なわれている。

企業の側からすれば この制度の遂行にはかなりの経済的負担を負うわけであるが,次代を担う人材の養成は,今の世代の義務であるとする社会通念からも,積極的にこれを推進している。

このように,イギリスでは総合大学の拡充よりもテクニカルカレッジの増設を図り,このカレッジによつて,サンドイッチコースを通じ教育の機会が与えられる各階級の人材に,最近の科学技術教育を施し,産業界における新技術の推進する人材を養成しようとするものである。こうした体制の基盤には実地体験者に高等教育を施すのが最も効果的であるという考え方があるが,この考え方は西欧諸国全般にみられるものであつて,技術者が高度の科学を学び,これを技術に応用するのが有効性において最も確実であると考えられている。

このサンドイッチシステムには,

(1)  1カ年工場訓練,3カ年テクニカルカレッジで学習,1カ年工場訓練
(2)  6カ月交替で工場実習とテクニカルカレッジの学習を5カ年間繰り返して行なう。
(3)  毎週1日ずつ学習する。

等がある。

このテクニカルカレッジ重点拡充政策とともに,先のロビンス報告にみられるように,大学の拡充も積極的に行なわれており,1962年以降,すべての大学生が入学と同時に自動的に公費による奨学金を貰うようになり,教育の機会均等化をめざしているが,同時にいたずらに学生数を増して,質を低下させるよりは,10年の義務教育,13年のグラマースクールを卒業して産業界に入る者の中から,広く人材を求め,本当に素質のある者だけに働きながら大学と同等の教育を与えることが,最も効果的な教育方法であるとする説も強い。

これらの傾向は,教育機関が養成した人材の活用よりは,現在確保している優秀な人材に,教育機関を利用してさらに高度の教育を与え,企業発展の推進役にしようとする,産業界の人材養成に対する確固たる信念を物語つている。それだけに,産業界が教育の場において負担する経費は相当な額にのぼるものと予想される。

技術者の職場における職階は,クラフトマン(craftman),テクニシャン(technician),エンジニア(engineer)となつており,勉学によつてこの段階を進むことが可能であり,能力評価による人材登用制度が実行されている。

高等教育以外で科学技術教育を学ぶ者には二つの国家検定試験があり,これによつて国家証明書または国家修了書が授与されるが,1961年における有資格科学技術者は全労働人口の0.6%にすぎない。この有資格科学者の2分の1は教職に,有資格技術者の4分の3は民間産業に従事している。しかし,一般に,技術者(engineer)の社会的地位は,科学者(scientist)より低いとする考えが強く,この点の改善が必要であるとされている。

次に,科学技術者の民間産業における分布状況をみると,少数の産業に集中する傾向にあり,これらの集中産業としては,化学,機械,電気,航空機等があげられる。政府機関としては,中央においては国防関係に,地方においてはそのほとんどが土木関係に従事している。

産業界において,これら科学技術者が従事している業務は,研究に45%,,生産に48%とこの二つのタイプに大きく分けることができる。

また,これからの研究開発には科学者と技術者のチームワークが重要視ざれているため,この面における養成が現在問題となりつつあり,管理者の任務としては,科学技術者に創造的な才能をうえつけることであると考えられるようになつた。そのためには本人の適性の発見が必要であり,この点からしてもサンドイツチシステムは,企業にとつては最も理想的な人材の発見および養成の方法であると考えられている。

科学技術者の需要は,1956年以降毎年高い率で増加している。民間産業への雇用は,科学者よりも技術者の方が多く,そのほとんどは製造業関係とサービス業に就職している。とくに近年は工業部門への比率が高まりつつある。

全雇用者(経済部門)に対する科学技術者の割合は1万人あたり1956年65人,′59年76人,′62年83人と,他の先進諸国に比べ高いとはいえないが,その伸びは非常に高い。1970年には 第9-5表 のように132人になることが予想されているが,この時点においては供給が需要を上廻るのではないかとみられている。

一方,供給の方をみると,同年令層人口に対する高等教育機関在学者の比率は,1963年で4.4%とけつして高い方ではないが,在学生の中で理科系の占める比率は,43%とかなり高い数値となつている。しかも,1970年まで毎年平均60%の率で増加して行くことが計画されており,1970年には理科系学生は48%を占めるものと予想されている。この率は,フランスの49%とともに非常に高い値で,教育の面における理科系教育への努力がうかがわれる。

第9-5表 雇用者1万人当りの科学技術者

第9-2図 イギリス学校系統図 (1964年現在)


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