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2部   科学技術人材
第9章  諸外国の動向
1  アメリカ


1957年,ソ連のスプートニク打上げにより,宇宙,開発の分野で同国におくれをとつたことは,アメリカの科学技術の水準と,それを支える科学技術者の必要性,およびその不足について痛切な警告を発することとなつた。

また,第二次大戦後に起つた技術革新の波は,経済の発展を加速度的に促がし,高度の専門知識をもつた科学技術者の不足を一層深刻なものにすると同時に,科学技術の進歩と経済発展との密接な関係を人々にあらためて認識させた。

これを契機として,科学技術者の養成が,国全体の大きな問題とし,て取り上げられるようになり,1958年には,「国防教育法」が連邦議会で制定された。

これは,科学技術教育の量的・質的な拡大を図り,日進月歩の科学技術の進歩に,教育を対処せしめようとするものであつた。

第二次大戦後は,軍需産業の民需産業への切り換え等にともない,一時的には科学技術者に対する需要が減少することが予想された。しかし,科学技術者の需要は,逆に増大の一途を辿り,国全体における科学技術者数は,1954年85万人,′60年118万5,000人,′63年136万人となり,また相対的な数値でも,民間労働者1万人に対し,科学技術者数は,1954年1,320人,′60年1,680人,′63年1,865人と増加している。

このような情勢のなかで,ケネディ大統領は,1961年に科学技術者の利用と啓発のための必要事項の調査を命じ,科学技術人材利用委員会がその任にあたつた。この調査は,その不足数量のみならず,その効果的利用について,質の問題も検討した。そして人材養成に関して政府,大学,企業の協力が促進されることとなつた。なお,この三者に属する科学技術者数は1960年には,政府関係17万100人(7%),大学12万5,100人( 11%),企業86万2,000人(82%)であり,科学技術者に対する需要は,数の上では企業がそのほとんどであることを示している。

このような科学技術者に対する強い需要は,宇宙開発等政府の行なう研究開発の急速な増大が大きな原因であると考えられる。これにともない,科学技術者の雇用の面にも,従来とは異なり,国の政策の動向が大きな影響を与えるようになつた。

このことは,連邦政府が科学技術者の養成に関してもその役割を増大させる結果となつた。

すなわち政府が大規模な計画を開始する場合,例えば,ミサイルの開発,宇宙開発等の計画を実施する場合は,その規模が大きいだけに,民間企業をはじめ国内の科学技術者の需要に及ぼす影響は極めて大きく,政府の細心の事前需給調査が必要になつてくる。政府は,これらの分野における研究の推進と,科学技術者の利用の面では主導的な役割を果たすこととなつた。

またこのような大規模の研究が国家の手で行なわれる機会が増加するにつれて,資金を供給するとともに,人材の長期的供給計画,重点的配分,プロジェクトリーダーの配置等,政府が人材対策を進めて行く必要が強くなつてきた。

さらに政府が直接科学技術者を雇用して研究機関等に配置し,上述のような大規模研究を実施するとともに,国民に対するサービスとして,これら人材の助けを借りるような機会が,近年非常に増大している。

連邦政府に雇用されている科学技術者数は,1962年において全体で14万4,122人である。これを所属別にみると,国防関係に全体の40%が従事し,農務省の18%,内務省の8%等がこれに続いている。部門別にこれをみると,エンジニアリング関係が6万7,500人とずば抜けて高い数値を示している。

とくに高い率で雇用しているところには,国防省,航空宇宙局(NASA),連邦航空局(Federal Aviations Agency)等がある。

次に年次別の推移をみると, 第9-1表 のように1958年,には総数で12万1,088人であつたのが′62年には,14万4,122人となり,4年間で19.0%の増となつている。その増加率をみると1958〜′59年の1.5%から1961〜′62年の7.3%へと年々その率は高くなつている。部門別にその推移をみると,4年間で,絶対数ではエンジニアリングが1万0378人の増と最高位にあり,この部門の需要の増大を示している。また増加率については,物理系科学(Physical Science)の46.3%がめだつている。この中でも航空宇宙関係は2,406人から6,587人へと173.8%の増加となつている。その他に増加率の高い部門をみると,オペレーションズ・リサーチ(以下ORという。)の117.9%がある。

第9-1表連邦政府雇用科学技術者数推移


第9-2表 政府雇用の科学技術者のうち研究開発の従業者


次に,この科学技術者の中で,研究開発関係に従事している者は,1962年で5万0843人と全体の35.3%を占めている。部門別にみて,とくに高い率を示しているのは,物理学の92.2%,航空・宇宙科学の79.0%があり,逆に研究開発にほとんど従事していない部門には,地理学および製図関係の4,2%,工学関係の5.7%,土木関係7.6%がある。

第9-3表 政府雇用,研究開発従事科学技術者数年次別推移


科学技術者中,研究開発に従事する者の率を政府機関別にみると,国防省の48%,航空宇宙局(NASA)の17%が他の機関に比べて高い率となつている。

年次別にみると1958〜′62年で21.6%の増加となり,科学技術者全体の伸びよりはやや高い率を示している。部門別では航空宇宙科学の182.4%,ORの255.4%がとくにめだつている。

次に民間の科学技術者の状況についてみると,研究開発に対する政府の支出や,政府による製品購入等が大きい影響を与えている。

すなわち,科学技術者の従事している産業をみると,航空機,ミサイル,通信,電気産業等限られた範囲に集中する傾向にあるが,これらの産業における研究開発は,政府との契約研究による支出に大きく依存している。これは研究開発における民間企業への政府出資金67億ドルのうち,54億ドルをこれらの産業で受け取つていることからも容易に想像される。

企業においても,この莫大な研究開発費と,多数の科学技術者を有効に活用し,人材の創造的能力を充分に発揮させるために,研究管理の重要性が近年クローズアップされてきた。

さらに,つねに最新の高度の専門知識をもち,激しい技術の進歩に対処しうるように,科学技術者の再訓練等,能力再開発の重要性,また,一企業内における科学技術者の未活用を防ぐ問題等,研究開発の進展,規模の拡大等につれて,解決すべき問題も多く起つてきた。

次に企業に雇用されている科学技術者数をみると,全科学技術者の82%とその大半を占めることはすでに述べたとおりであり,これら人材の活用がアメリカの科学技術活動の動向を大きく左右するといえよう。その職種は,科学技術者85万1,600人のうち,技術者は68万4,600人と80.4%を占め,続いて物理系科学者15.9%,生物系科学者3.1%,その他0.6%の構成となつている(1962年)。

産業別に科学技術者の雇用状況をみると,電気通信産業の12万3,200人(14.5%),航空機,輸送機器産業の11万0,400人(13.0%),化学合成産業の9万5,500人(11.2%),機械産業の6万9,200人(8.1%)等が製造業関係ではめだつており,これら以外にはサービス関係の8万6,500人(10.2%)が雇用先として大きいものである。 1)

全従業員の中に占める科学技術者の割合をみると,最も高い率を示しているのは,防衛産業の18.3%(16.9%)で,これに続いて科学機器の17.7%(14.8%),医療,製薬16.9%(16.3%),航空機12.4%(12.1%)等がある。 2)

産業界の科学技術者のうち研究開発に従事するものは,1964年1月現在,製造業関係の企業において34万8,700人が研究開発のために雇用されている。′57年の数値は22万9,000人であるから,この間に52%の増員となつている。すなわち航空機,ミサイル産業は毎年著しい伸びを示し,1964年には10万5,900人と全産業の30%を占めるに至つた。それ以外の産業では電気,通信産業の7万5,700人,22%が高い数値を示している。


注 1)数値はいずれも1962年。


2)  1962年の数値,(  )内は1962年。

これらの研究開発従事者をそれぞれの産業に属する科学技術者と対比すると,1962年には,全体で35.7%,30万3,800人が研究開発に従事している。

産業別(製造業)で高い率を示しているものには,電子計算機63.7%,航空機60,2%,通信機59.7%,科学機器57.2%,軍需50.1%等がある。

職種別の従事者をみると 第9-4表 のとおり物理学者が高い率を占めている。

第9-4表 研究開発に従事する科学技術者(産業)

次に大学は,科学技術者の雇用者であると同時に,供給者である両面の性格をもつているが,供給面については,他に代替できないものであるだけに,高等教育の拡充に関しては,1963年末に成立した「大学援助法」等によつて,政府も,その拡充に積極的に乗り出している。大学,大学院に対する人材養成機関としての期待が,近年諸分野において急速に高まつており,高等教育機関の人間能力開発に対する役割は,ますます増加している。

アメリカにおいては,教育の機会が拡大されており,義務教育終了者の90%が中等教育を継続し,中等教育卒業者の約60%が大学に進学している。

すなわち,高等教育機関約2,000,在学生420万人は同年令層の約39%の規模であり(1962年),これは1950年に比べて約1.8倍の増であるが,さらに1970年までには,学生数を700万人に増加させる計画をもつている。

このうち,理科系は,卒業者数で,全体の28%を占めているが,1952年,′59年の30%からみれば,構成比の上からはあまり伸びを示していない。しかも,イギリス41%,フランス42%,西ドイツ42%,ソ連51%(1959年,ソ連は,1960年)と比較しても低位にあり,したがつて今後の経済発展に対処し得る人材の確保が困難ではないかという意見が強まり,科学技術者の供給の増加が大学に課せられた大きな問題となつた。

また,質の問題も盛んに議論を呼びつつある。この問題に関しては,科学コース強化の第一歩として,教師との密接な協力があげられており,新しいカリキュラムの開発,これに即応する教師の再教育等,科学の進歩に遅れをとらない機会を与える必要性が熱心に検討されるようになつた。

産学協同に関しては,従来以上にその必要性が叫ばれており,産業界,政府の関係者も知識の進歩を支える最も大きな手段の一つとして非常な期待をよせている。雇用者側においてもその教育を助ける義務を受け入れており,科学技術人材の能力近代化のために協力の推進が図られている。

しかし,この分野に対する投資はまだ充分であるとはいえず,受け入れ側の大学の方の準備もまだ不充分なようである。産学協同機関として著名なものには,マサチューセッツ工科大学に設置された「高等技術研究センター(MIT Center for Advanced Engineering Study)」がある。また,科学技術者の能力近代化のためには,政府,産業界,大学の三者合同のプログラムを必要とし,その中で大学が教育に関してのリーダシップをとるべきであるといへ考えもなされている。

大学に属する科学技術者を部門別にみた場合,エンジニアリング2万7,300人(16%),  物理系科学,4万9,100人(28%),生物系科学6万3,200人(36%),社会科学2万6,900人(15%),心理学9,200人(5%)計17万5,600人 1) となる。

これら科学技術者の所属機関をみると,一般に,全大学数の1割にも満たない総合大学(University)への集中傾向が強く,64%がこれに属している。1963年に発表されたケネデイの教育教書においても,博士号の4分の3は12州の少数の大学から出ているにすぎないことが指摘されており,地方大学の拡充が強く要望されている。

科学技術人材の需給に状況をみると,OECDの調査では,1962年4月現在において,人材の不足は部門によつて差がある。すなわち技術者については,通信,エレクトロニクス,航空関係においてかなりの需要が見込まれ,とくに高級技術者の需要が今後の増大するものと予想される。しかし,長期的にみた場合は,毎年の新規供給によつて需給のバランスが平均的にとられて行くとみられている。

第9-1図 アメリカの学校系統図

物理系科学者については,指導的な役割を果たす博士レベルの高度な専門知識を持つ科学者が不足しており,なかでも国防関係および医学関係の分野においての不足がめだつが,これら以外の分野では,新規卒業者によつてほぼ満たされると予想される。生物系の科学者は需要に対して充分の供給が見込まれている。


注 1)1961年NSF報告


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