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2部   科学技術人材
第8章  需給における課題
4  才能の開発
(1)  教育の高度化と多様化


科学技術の進展は新らしい知識の増大という側面からみることができるが,世界的な科学技術活動の拡大にともない,科学技術に関する情報の量は急速な増加の傾向をみせている。

ユネスコ編「最近における科学研究の動向」においても,「科学の雑誌および定期刊行物の数は,19世紀の始めには約100であつたのに,20世紀に入つて10,000以上となり,1960年にはほぼ100,000となつている。そして,こ割合で増加すれば,今世紀の終わりには100万近く,になるはずである。世界中の研究者の数は多分200万人近くになるであろう。」と述べている。

もちろん,研究者や情報の数的増加が,そのまま新しい知識の増加に等しいわけではないが,新しい知識を探究し,これを利用するためには,何らかの方法によつて,増加する情報を処理することが必要となつてくる。従来は情報源と情報の量がそれほどは多くなかつたこともあつて,これらを専門化,分化することによつてかなり個人的な枠内で処理することが可能であつたが,最近は情報処理をいかにするかが重要な問題となつている。

このことは,科学技術者の養成についても直接的な影響を与えている。科学技術者の教育を専門領域別の観点からみた場合,大きな方向のひとつは専門分化の方向であり,さらに専門領域の深化にともなう修学年限の延伸である。研究者としては,最近は大学院の博士コース修了が望まれてきている。

また増大する新しい情報を処理し,自らも新知識を探究する必要から,高等教育における研究の比重は一層増大してきている。加えて,大学院,ポウストドクトラルコースの充実の問題があり,今後の大学の編成が,研究活動の方向によつて大きく影響を受けることが考えられる。

さらに最近は,科学技術の進歩が激しいだけに,折角注入された新しい知識も,速やかに陳腐化する可能性を生じている。これは教育機関内においても教課の内容についていえることであり,また教育機関から養成されてでてくる科学技術者の知識についてもいえることである。しかも新制大学の制度についていえば,旧制が3年であつたのと比較して専門教育の期間は2年半ないし3年とむしろ短縮されているため,修業年限または教育内容について種々の論議がなされている。

これらの解決策の一つとして,研究所あるいは産業界と教育機関との人材交流あるいは情報交流の円滑化が提唱されており,また一方では,例えば工学部系統においては専門分化と逆に,数学,物理学,化学,生物学などの基礎学科を中心としたカリキュラムにより編成した新しい学部の設立が提案されている。

この背景としては,科学技術の専門分化と同時に総合化の傾向がでてきているので,幅のある確かな基礎学力を身につけた科学技術者が必要になつてきたことがあげられる。さらには科学技術者として最も重要な創造性が,専門分化した知識の付与のみによつては得られないということがある。

戦後の学制改革は,人材養成の層を厚くし,生活水準の向上,奨学制度の充実によつて,教育の機会均等の度を強め,従来ならばかくれてしまうべき人材を開発するために大きな業績をあげてきた。しかしまたこのことが同時に教育制度の画一化を助長し,全体の水準向上と同時に平準化をもたらしたことも指摘されている。

前節までにも述べたように,科学技術の進展にともなつて,科学技術者の職域は拡大し,その職務も極めて多岐にわたつており,なかには例えば,科学技術活動における総合プロジェクトのチームリーダーあるいは高度の創造性を発揮する科学技術者などの新しい型の科学技術者の需要が増大してきている。

したがつて,教育水準の向上と平準化のあとにさらに要求されてくるのは,多様化と一層の高度化であろう。また,最近は新しい形態の大学も検討されており,例えば従来の伝統を誇る西ドイツにおいても,講座による教育研究体制への固執が,境界領域等新しい科学技術の発展に即応しえなくなつたとして,新しい学部編成による大学の新設を計画している。

また西欧諸国においてみられるように,大学間,あるいは大学と産業界等の間の人事交流を活発化することや,学生がそれぞれの個性や学問領域の特性に応じて,大学間あるいは大学と研究所間を移籍して教育を受ける機会を増すことなどが考えられる。

このためには,教育研究機関がそれぞれ特色をもつとともに,全体的に多様性に富み,あるいは創造的才能を高度に伸ばし,あるいは広い識見を付与するなど一層多様な科学技術者の育成が可能となることが望まれる。


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