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2部   科学技術人材
第8章  需給における課題
3  環境と処遇
(2)  処遇


科学技術者の配置が,能力と職務の組合せによつてなされるように,処遇についても職務に対する報酬と,職務そのものの組織内における位置あるいは身分との両面がある。報酬については,いわゆる職務給と年功序列給,あるいは身分給という考え方があり,さらに職務給については職務の責任と困難度から評価する場合と職務に対する人材の需給バランスが影響を与える場合とがある。また,最近では科学技術者のもつ能力に対して決められる職能給という考え方がなされている。

処遇の問題は,このような様々の因子が介入する上に,終身雇用,年功序列制度などの成立には,国全体あるいは各産業などの社会的および歴史的な背景が大きな影響を与えている。そして最近の科学技術者の活動態様の変化に対して,処遇を含めた人事制度がそれに即応しがたく,その結果,科学技術者の需給の面にも種々の影響を与えている。

わが国における人事制度は終身雇用制に大きく依存しているため,需給関係の変化による影響を最も強く受けるのは,新規卒業者の初任給である。一般に最近は若年労働力の不足を反映して一般の給与水準以上に初任給が上昇する傾向にあり,大学卒業者についてもこの傾向が及んでいる。また科学技術者についての初任給は需給関係がひつぱくしていることもあつて,事務関係のそれに比較してさらに4%程度(日経連調査)高くなつており,これにともなつて職務給が給与体系のうちで考慮される傾向にある。

大学院修了者については,従来その需要についての認識が低く,昭和32年当時においては4年制大学卒業者に比しその初任給は14%程度高い(日経連調査)にすぎなかつたが,最近の科学技術の高度化とともに,大学院修了者に対する認識はとみに高まり,昭和39年修了者の初任給は,4年制大学卒業者のそれに比して約20%高く(日経連調査)なつている。また大学院在学者に対して,企業から奨学金を交付して,吸引をはかるところも増加しているといわれている。

第8-15表 各国国民所得1人当りの額と研究者の給与との比較

しかしながら,初任給とその後の給与との比較をした場合, 第8-15表 にみられるように,外国に比べて,わが国の初任給はまだかなり低い。これは国情の相違にもよるが,科学技術者の創造的能力が比較的若年の間に発揮される点からみても,若年層の処遇についてはなお検討の余地があると考えられる。

採用後の処遇については,科学技術者の昇進の経路が,専門領域の能力の増加によるものと管理的能力の付加によるものとに大別される。ただし前者においても職務として管理者の地位につくことが多いわけであるが,この点を考慮に入れて,企業において科学技術者が,どの程度管理者となつているかをみると 1) ,高等教育卒業者のうちの管理職員(課長以上)の割合は,技術系で21%,事務系では24%となつており,このような意味での事務職員との処遇上の差異はあまりないといえよう。

さらに最近は,企業のトップマネジメントへの進出状況については,前記と同様の調査では,全役員中の事務系の比率は58%,技術系は42%で,とくに資本金100億円以上の企業では,この比率が54:46と技術系出身の比率がいくらか高くなつている。

科学技術者の密度が高く,かつ科学技術者の高度の知識と創造的能力をとくに必要とする研究所においてスタッフ組織が顕著となつてきている。これは研究室長,部長,所長などの管理職と併行して,副研究員,研究員,主任研究員などの名称によるスタッフ組織をおくものであつて,アメリカでは科学顧問(Scientiflc adviser)などの呼称がなされている。

わが国については,昭和38年度においてこのような制度を採用している企業は約20%(資本金100億円以上では39%)で,近い将来に採用を予定しているところが15%(同上20%)となつている。国立研究機関においても特別研究員制度が採用されており,今後の研究組織では高級研究者の密度の高い,しかも柔軟な組織の運営が一層重要となつてきており,前述した大研究室制度の採用等とあわせてスタッフ組織等の一層の活用がなされるべきであると考えられる。ただわが国では,このような専門職,スタッフ制度等に対し社会全般の認識の不足していることが問題点としてあげられよう。

これに関連して,研究補助職の処遇が最近大きな問題となつてきている。

研究の実施に際しては,種々の機器の製作,運転,保全等に熟練した技術者を必要とする。またさらに施設,設備の大規模化と精密化にともない,一層高度の技術者をも必要とするようになつており,技術サービス部門が独立するところもでてきている。しかしこういつた技術者,技能者の評価が必ずしも従来適切でないために,優秀な人材が得られず,ひいてはこれが研究の実施に障害となつている。生産部門をもつ企業においては,研究部門と生産部門との間で人事交流を行なうなどの措置が講じられているが,大学,国立研究機関等においてはこのような対策が困難な実情にある。


注)1)科学技術庁「企業における科学技術者の配置と職務に関する調査」(昭和38年)

研究活動については,さらに基礎研究,応用研究,開発といつた研究の性格に応じて,研究目標の設定や研究の実施をする場合にそれぞれに適した管理方法があり,研究者の能力が効果的に発揮されるためには,研究施設の充実等のほか,上記のような研究者の処遇,組織管理が適切になされる必要がある。しかしながら,これらの研究活動が,産業,行政,゛教育等の諸活動との密接な関連において実施されているため,研究に従事する人材の処遇,環境等が研究活動の重要性にもかかわらず,ややもすれば,その全体的な組織体系の中で適切さを欠いていることが指摘されている。

このことは,専門領域あるいは活動形態の特殊な科学技術者についても共通することである。したがつて科学技術者が有効に活用されるためには,科学技術の進展に応じて, 一層きめの細かい処遇方法を考慮することが必要である。この場合,国全体の立場からみて,産業,国の機関,大学等のいずれかに,科学技術者が偏在することなく,わが国科学技術の進展の効率を全般的にあげうるよう,科学技術者の資格,能力に応じて,適切な交流の行なわれうる処遇,環境の整備されることが一層重要である。


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