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1部  研究活動と研究投資
第6章  諸外国の動向
1  アメリカ
(3)  産業界の研究活動


アメリカの研究実施主体は産業界である。近年の研究費の著増は私企業における研究開発規模の著しい拡大を示すものである。 第6-4表 のとおり,産業界が実施した研究開発は,1953年の36億ドル(1兆290億円)から'63年の“127億ドル(4兆5.720億円)へと250%の増加を示す。すでに述べたように政府の研究開発支出は逐年増大して行くが,この大部分が産業界へ流れており,上記期間でみれば増加額91億ドル(3兆2,760億円)の65%,59億ドル(2兆1,240億円)がこれにあたる。このように,増大の大部分は政府の委託または補助金によるものであり,国防研究,宇宙および原子力の研究,その他公共福祉研究のプロジェクトであるが, 第6-1表 からわかるように国防省支出が圧倒的で,これに航空宇宙局と原子力委員会の支出を加えたものが,そのほとんどを占めることになる。

企業は利益の追求,競争力強化のために,技術革新すなわち新製品・新工程の開発に自からも巨額の投資を行なつていることはいうまでもない。研究開発は国家の繁栄,経済成長の促進に不可欠の具であり,政府の主導力にまつところは大きいが,国防への集中については近年しだいに問題とされつつある。

第6-4表 産業界研究用開発費の推移,1953-'63年 連邦政府,会社負担別

もともとアメリカは研究を経済との関連でとらえ“研究投資”の考え方を最も早く打出した国であつて,研究を投資であるとする見方は第一次大戦後の大恐慌を経て,国家資源委員会報告「研究-国家資源」(1938年)にすでに現われている。この後まもなく第二次大戦の勃発で経済は回復し,研究は戦時動員体制の下に組み入れられたが,平時経済への移行とともに,ふたたび強調されるに至つている。技術革新のための基礎研究促進を主張した大統領科学研究審議会報告「科学と公共政策」(1947年)は,研究の平和利用への公衆の意志,完全雇用の達成を目標とする経済政策を反映するものであつたといえよう。しかし,朝鮮戦争の勃発とともに,国防,威信関係研究がふたたび増大し,事実として産業界研究活動の抜きがたいパターンとなつている。しかも国防,威信の要請を柱とする政府の研究開発委託が,航空機,電子工業,精密機械,材料等広汎な産業分野における先端的技術を開発していること,そのために必要な巨額の費用の調達と大規模な研究組織の整備を,政府がリスクを一手に引受けることで可能としていることが,産業技術を非常に強力に推進している事実は認めなければならないであろう。

産業界における研究費分布の動向は,こうしたパターンの形成を明瞭に反映している。1963箱の全産業界研究開発費は,'53年の3.5倍に増大しているが,このうち政府支出分は'59年以降最大の伸びを示し,73億ドル(2兆6,280億円)に達しており,'53年の5倍以上の規模に拡大されている。

会社負担,政府支出別に研究費構成をみると,'53年には会社員担61%,政府支出39%であつたのが,'56年のそれぞれ50%を境として以降'63年では会社負担42%,政府支出58%と全く逆転している。 第6-6表 は'63年について業種別に負担構成を示したものである。政府資金はおおむね全産業に流入しているが,うち航空機・ミサイル産業と,電気機器・通信産業が最大であつて,この両者で政府支出分の81%を占めている。

この両者が同時にまた研究開発規模の最も大きい産業となつていることは当然で,全産業研究開発費127億ドル(4兆5,720億円)の58%(73億ドル,2兆6,280億円)を占めている。'56年以降の研究開発費増大を 第6-5表 によつてみると,絶対額では航空機・ミサイル産業が27億ドル増と圧倒的であり,次いで電気機器・通信産業が9億6,700万ドル増,化学・関連製品産業が6億1,200万ドル,機械産業4億3,400万ドルその他となる。

相対比では化学工業中の“その他の薬品”が最大で163%増,理科学器械,航空機,ミサイル,一次金属,食品関係,土・石・ガラス製品が100%以上,最低は金属加工の40%増となる。航空機・ミサイル,電気・通信の二産業を除いては,会社負担分が研究開発費に占める比率は政府支出よりもいずれも上まわるが,なお相当の政府資金が投下されており,'63年では自動車その他輸送用機器2億9,000万ドル(1,044億円),化学・関連製品2億6,400万ドル(950億4,000万円),機械2億6,400万ドル,理科学器械2億3,200万ドル(835億2,000万円)等となつている。

また大企業への研究開発費の集中が極めて高く,'56年では従業員5,000人以上の会社が79.5%であつたが,'60年では86%となつている。なかでも航空機・ミサイル産業が最大で,'56年96.7%,'60年97%となり,その他鉄鋼業,自動車その他輸送機器産業においても同様に高い集中度を示している。

第6-5表 主要業種別研究開発費の推移,1956〜'63年

第6-6表 主要製造業の研究開発費,資金源別,

技術革新のために研究はいよいよ組織的となり大規模化するから,研究能力の高い大企業に集中化が行なわれるのは当然であるが,政府の研究委託が効率や確実性から当然大企業へ行なわれるものが大部分であることからみて,政府支出の増大は,このような傾向を一層助長して行くものとみられる。

なお産業技術の源泉としての基礎研究については, 第6-7表 の示すように'63年で5億ドル(1,800億円)であり,'53年の1億5,000ドル(540億円)の約3.5倍となつている。全研究開発費中に占める比率は約4%であるが業種によつてこの比率はかなりまちまちである。化学・関連製品産業と石油精製産業ではそれぞれ研究開発費の10%以上をほぼ恒常的に基礎研究にあてているとみられる。化学・関連製品は絶対額でも1億4,100万ドル(507億6,000万円)で,'57年の72%増である。これに次ぐものは電機・通信で9,400方ドル(338億4,000万円),'57年の77%増,その他ゴム製品,石油精製,“その他の電気機器”産業において低下傾向がみられるほかは,各産業とも増えている。

第6-7表 産業界における基礎研究費の推移, 1957〜 '63年


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