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1部  研究活動と研究投資
第2章  総合分野における研究
4  エレクトロニクス
(2)  電子計算機の現状


今日,電子計算機の研究は世界的にみて, 1) 速く,容量を大きく,形を小さくする方向の研究,および 2) 計算機に非数値的な方面,すなわち図形認識,学習,機械翻訳といつた種類のことを行なわせる研究,の二つの方向に向かつている。

第一の高速・大容量という超高速電子計算機の研究開発と,第二のオートマン(自動機械)的研究とは相互媒介性がある。人間の頭脳の働きの一部を代行し得るような高速・大容量の計算機は第二の種類の研究を可能にする。また第二の種類の研究は,人間の頭脳の機構,機能に関して計算機との対比の研究を必要とし,人間の思考・認識作用を計算機に行なわせるために,生物工学の研究が生まれ,そしてこの分野の研究がふたたび計算機の研究にフィード・バックされている。また図形認識,学習,機械翻訳等の第二の方向の研究は,現在ディジタル型に重点がおかれているが,アナログの要素を導入しないと,現在の行き詰りは打開できないのではないかという考えも出ている。

ここで,最近の電子計算機に関する研究について,いくつかの話題を拾つてみよう。

前述のように,現在電子計算機は高速化,大容量化,部品の小型化という方向へ進んでいるが,電子計算機には部品の数の,多いことが必要条件である。

このことは人間の脳細胞の数を考えてみればわかる。素子の数が多くなれば,計算機は必然的に大きくなり,したがつて部品の小型化が必要になる。

小型化ということは,小さいほうが便利であるということの他に,本質的に,沢山の回路部品が速い応答で連絡し合うためには小型でないと困るということがある。このように高速化,大容量化,部品の小型化は密接に関連し合つている。

まず演算制御回路の高速化の点について述べると,初期のリレー式計算機の演算速度は,ミリセカンド(10-3 秒)の程度であつたが,真空管によりそれはマイクロセカンド(10-6秒)程度になり,やがてトランジスタの進歩(遮断周波数の上昇,信頼性の上昇等)により,現在ではナノセカンド(nanosec10-9 秒)が問題にされるようになつてきた。実にリレー時代にくらべて100万倍のスピード・アップである。このような計算機用の速いスイッチ素子として登場してきたのは, メサ型, プレーナー型,エピタクシヤル型などのトランジスタである。

今日の電子計算機の高速化は,半導体エレクトロニクス,とくにトランジスタの周波数特性の向上と,安定性,信頼性の向上に負うところが大である。

メサ型は固体拡散法によりベースをうすく,かつ均一にしたもので,遮断周波数1.000MCのものも出ており,さらに比抵抗の小さな単結晶を土台にしてその上に高抵抗の層を気相成長させるエピタクシアル成長法は出力特性をよくし,またオン・オフ切換の応答の早さを1桁早くした。プレーナ型は,安定性と信頼性が高いという点で,従来のトランジスタにくらべてきわめてすぐれている。

プレーナ型トランジスタでエピタクシアル成長法を用いた,シリコンエピタクシヤルプレーナ・トランジスタは,現在高信頼度,高速スイッチ素子として大型高速電子計算機に使われており,遮断周波数,,数千MC,信号伝播速度10 nanosec以下のものが実現している。またプレーナ型は表面が酸化膜でおおわれ,しかも平担なことから,後述する固体回路にも適している。

その他,スイッチ素子としては,ツェナー・ダイオード,可変容量ダイオード,トンネル・ダイオード等も利用されている。

以上のようにトランジスタの遮断周波数が高くなり,遮断周波数ぎりぎりのところで使える技術が発達してきたことから,再び回路の研究が盛んになつてきている。リレー時代には機械的動作部分の速度は限界があり,その他に速度をさげる要素としては回路設計しか余地がなかつた。しかし,トランジスタの進歩により,速度上昇は部品の改良に求められるようになつた。それが現在トランジスタの遮断周波数ぎりぎりで使えるまで技術が発達したため,ふたたび回路研究が注目されはじめた。

またこのような計算機内部のスピードアップに対し,入力,出力といつた周辺機器はなんらかの意味で機械的であり,ミリセカンド程度の速度であるため,周辺をエレクトロニクス化するなどして,その速度をあげることが問題になつている。

次に最近,超小型化として注目されているものに固体回路がある。

現在のものは,従来の電子回路の素子と1:1の対応がみられるが,将来は1:1の対応がなく,その回路と同じ性質を有する物質の物理的性質を利用して,その回路と同じ機能を果すものが実現される可能性がある。固体回路は超小型回路の本命とされており,小型,軽量,高信頼度という特長があり,アメリカでは軍用,宇宙電子用から一般商業用,工業用電子計算機の分野にいよいよ本格的に進出しはじめている。価格はまだ高いが,量産化が進めば,コストダウンして現在の電子部品より安くなるという見通しも出ている。ある見積りでは1970年頃以降そうなるとみている。ただ量産のため基本回路にどういうものを選ぶかが問題になつている。

超小型回路は,従来の電子回路に比べて,つなぎ目も少ないので信頼度が高く,速度も早く,その上量産で低価格になれば,電子計算機等の工業用はもとより,民生用電子機器にも使用されるようになるであろうとみられており,電子部品工業全体に大きな影響を及ぼすことが予想される。

そのほか,高速になると,回路における誘導性が無視できなくなり,それを除去するため立体回路も考えられているが,立体回路を使つた計算機はまだ出現していない。

このように,近年の半導体素子の飛躍的発展と回路技術の進歩により,演算制御装置の性能は著しく向上し,演算速度は10nano sec程度のものもでている。これに対し,現在内部記憶装置のサイクル時間が,読み出し,書き込みの場合で,1μsec程度で,さらに容量の増大とともに,サイクル時間は長くなるので,電子計算機の演算速度は記憶装置によつて制約されているといわれている。一方,処理能力を増大したり,多重プログラミングを取り扱うことが多くなつたこと等から,内部記憶装置の大容量化が要求されており,現在10 6 ビット(32,000語)程度は常識的になつている。そのため電子計算機全体の価格の中で記憶装置の価格の占める割合が大きくなり,この部分をできるだけ安価にすることが望まれる。したがつて,記憶装置の研究開発の方向も,高速化,大容量化,低廉化に向けられている。

現在,記憶装置としては,磁気テープ,磁気ドラム,ディスク・ファイルメモリー,磁気コアなどが使われているが,最も多く使用されているのはフエライト・コアである。また,数年前から,高速大容量,低廉化の可能性をもつものとして,磁性薄膜記憶装置の研究が盛んになつてきた。

磁性薄膜記憶装置は,記憶素子としてパ-マロイなどのうすい磁性体の層を用いるもので消費電力が少く,温度特性もよく,スイッチ時間が1 /10100 になる。また現在の技術で最大100ビット/mm2 程度の密度にすることができるので,スイッチ速度が早いこととあいまつて大容量で高速動作ができる。また最近の蒸着,プリント技術の進歩により大量生産も可能であり,したがつて低価格になる。このような長所があるが,他方出力電圧が小さく,高度の回路技術を必要とし,再現性,一様性が課題になつている。

以上のほか,記憶素子としては,フエライト,磁心で高速化をねらうバイアックスとか,トランスフラクサー,超電導メモリー,トンネル・ダイオード等種々のものが研究されている。

以上計算機自体の問題,いわゆるハードウエアに関していくつかの話題を述べたが,次にプログラミングに関する問題,いわゆるソフトウエアの問題がある。

ソフトウエアの開発には,かなり高度の数学的素養をもつ技術者と莫大な費用がかかり,電子計算機開発におけるその比重は,ますます増大している。例えば,IBMでは,1970年代の原価構成で, ソフトウエアの費用をハードウエアの約二倍と想定している。ソフトウエアの一つの方向はシステム・プログラムである。

ここでは,コンパイラのことについてふれておく。機械語と異なる言語によつて書かれたプログラムを,機械語のプログラムに翻訳するプログラムをふつうコンパイラといつている。現在コンパイラ言語として有名なのはIBMの開発したFORTRAN,ALGOL,アメリカ国防省が主体となつて開発したCOBOLである。

FORTRAN,ALGOLは主に科学計算用,COBOLは事務処理のためのプログラム言語である。現在のところ,機械語が機械ごとに異なるので,そのコンパイラをつくるのが大変な仕事になつている。

そののほか最近は適用問題ごとに,問題指向型のプログラムが開発されている。消費材需用予測と管理技術の組合せであるIMPACT,シミュレーション用のDYNAMOなどはこれである。


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