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  序説

現代は技術革新の時代であるといわれるように,科学技術の進歩と,社会・経済発展との関係は,これまでに類を見ないほど緊密となり,また通信技術,航空機などの長足な進歩発達により,人間の活動範囲は大幅に広がり,科学技術の分野においても各国間の交流,相互の影響力は一層強まつてきた。さらに人間の探求心とそれに結びつく科学技術の進歩は,たとえば人間の宇宙遊泳に示されたように,各種領域においてめざましい成果をもたらしている。

先進諸国においてはこのような情勢のもとに,各国とも科学技術の振興に,鋭意,力をそそぎ,具体的な施策の充実に努めている。

これら諸国が教育機関の充実拡張,研究奨励金の支給,研究者の研究条件の改善などを通じ,科学技術人材の養成と確保をはかつていることも特長的な点である。

イギリスにおいては,行政機構改革を建議したトレンド報告(1963年)を基に,昭和40年3月(1965年),産業界における技術革新を促進するため,技術省を新設した。技術省は,産業と関連のある国立研究機関を所管してみずから研究を行なうとともに,民間との契約研究を大幅にふやし,新技術の開発に努めることを主眼としている。同時に教育科学省等関係機関の再編成を行ない,基礎研究と高等教育に対する行政の一元化をはかつた。また,高等教育の大幅な拡大と改革を具申したロビンス報告(1963年)では,総合大学に見合う科学技術教育・研究を行なういくつかの工科大学の設立や,科学技術人材養成の強化などを建議している。

西ドイツにおいては,研究費の国民総生産に対する比率を,現在(1963年)の1.9%から1970年までに3%に伸ばすこと,そのためには国および民間の研究費を今後の5年間に倍増させること,さらに,科学技術人材養成のために大学の新・増設を行なうことなどを計画している。

研究費は,各国とも増加の傾向にあり,とくにアメリカとソ連は他の諸国とは,かけはなれた多額の研究投資を行なつている。また研究費に占める政府支出割合の大きいことと,研究推進上に果たす政府役割の増大していることは,先進諸国に共通に見られる現象である。

科学技術の研究対象は近時極めて広範囲となり,細分化された対象についての研究とともに,各領域にわたる総合的研究が行なわれ,そのための設備や研究規模は一層拡大する傾向にある。したがつて,これからの研究には従来にもまして多額の資金と多くの研究者を必要とし,これらの研究を長期的展望に立つて有効に進めて行くには,総合的研究計画の存在がもつとも必要とされている。

すでにイギリスにおいては,科学技術長期計画として,科学技術研究庁(現在は大部分技術省に合併)および大学補助金委員会(現在は教育科学省に合併)の5ヵ年計画があり,とくに科学技術研究庁は昭和35年(1960年)から,新しく「ころがし5カ年予算」方式を採用して,研究予算の拡大と効率化をはかつてきた。フランスにおいては,第4次経済社会発展計画(1962〜65年)の中に科学技術研究諮問委員会(科学技術研究閣僚会議の諮問機関)を中心として作られた科学技術研究計画が含まれ,そこでは研究の一般的目標,資金供給の問題等の具体的施策が述べられている。ついで第5次計画(1966〜70年)も決定され,それによれば,研究費の国民総生産に対する比率1.75%(1963年現在)を,1970年には2.5%までに上げることを見込んでいる。イタリアは科学研究会議が昭和38年(1963年)に研究3ヵ年計画を作り,政府の研究費を3年間に倍増することをめざしている。オランダは応用科学研究中央機構が,昭和38年(1963年)に研究5ヵ年計画を作り,研究施設の拡充等に努力しており,西ドイツでは一般科学振興,原子力,宇宙などについての長期計画がたてられている。一方,国連教育科学文化機関(UNES-CO),国際学術連合会議(ICSU),各種地域協力組織(OECDなど)等の国際機関が,広い視野から原子力・宇宙・地球・海洋・人類などについての共通的または多地域にわたるテーマをとりあげ,関係各国は協力してその研究にあたつている。

さらに開発途上の諸国においても,近時ユネスコ主催の会議(1964年3月の東南アジアを中心としたキャンベラ会議,同年7月のアフリカ地域に対するラゴス会議)などが開かれ,科学技術政策,研究体制,人材養成機関の整備等が検討されている。

わが国の科学技術振興に対する努力は,このような動きの中でなされてきたが,研究費についてみれば,国全体の総額は,昭和36年度2,452億円,37年度2,812億円,38年度には3,211億円に達した。

しかしこれらの対前年度増加率は33%,15%,14%と鈍化の傾向を示している。また昭和38年度研究費の国民所得に対する比率は1.8%で,前年度とほぼ等しい値を維持している。

このうち政府の研究費(科学技術関係予算)は,昭和38年度906億円,39年度1,087億円,40年度1,276億円と逐年増加している。

しかしこれらの対前年度増加率は,21%,20%,17%と伸びなやみの傾向を示している。政府は,これら科学技術関係予算をもつて,国立研究機関,国立大学等の研究活動を行ない,特殊法人研究機関(日本原子力研究所,理化学研究所等)への出資や補助,さらに補助金・委託費等により,公・私立研究機関,研究組合,企業,公・私立大学等の研究活動を援助し,科学技術の振興をはかつている。

これに対し民間企業の研究費は,昭和36年度1,638億円,37年度1,794億円,39年度2,073億円であるが,その対前年度増加率は,昭和36年度の32%を頂点に37年度9%,38年度16%と変動を示した。また,最近の経済不況により,民間企業の研究費支出は,その絶対額は下がらないにしても,増加率は減退のきざしがうかがわれる。しかし,研究を一層発展させるために必要な研究投資は,今後とも継続的に行なわれることが望ましい。

わが国の研究開発は,原子力,宇宙,エレクトロニクス,材料など世界的に研究の活発な分野をはじめ,各分野において一層の努力が払われており,さらに原子力発電における高速増殖炉の研究,エネルギー直接転換をめざすMHD発電の研究などの先端的研究も進められている。政府は,これらの研究をみずから推進しまたは援助しており,とくに国立大学,国立研究機関等にあつては基礎研究に力を注いでいる。さらに,社会・経済の発展にともない,大気汚染・水質汚濁・騒音などの公害防止に関する研究,国土保全等自然災害防止についての研究,ガン・成人病対策,農薬等の毒性防止対策,身体・精神障害者対策など国民の保健衛生・福祉に関する研究,交通安全・住宅など都市問題についての研究等を,政府として一層強力に進める必要が生じている。

このようなわが国科学技術研究活動の現状において,同時に大きな問題とされるものに,科学技術人材の養成およびその需給対策がある。人材養成は短時日ではならず,しかも人材こそ科学技術活動の源泉であることを思えば,長期的観点に立つた人材養成計画の樹立と,それに基づく人材需給対策を講ずることが極めて肝要である。

現在(昭和40年)科学技術者(高等教育卒またはそれと同程度のもの)はおよそ95万人,研究者は約12万人と推定されているが,科学技術人材に対する需要は,社会・経済の発展にともない近時急速に増加し,これに対する供給は不足しがちであつた。したがつて供給を増加させるために,近年高等教育理科系部門の定員増等が行なわれ,理科系高等教育卒業者数は,昭和35年の3万5千余人から,昭和38年には4万6千余人に増加し,また企業内の技能者教育等も盛んになつた。

こうした人材需給における量の対策とともに,最近はとくに質の問題が提起されている。それは,科学技術分野の多様化,研究対象の高度化,研究開発規模の拡大化等に対応し,それらの必要とする質的に充実した人材を養成しようとするためであり,その対策として教育方法と教科内容の検討,才能の再開発と人材活用の適正化,環境と処遇の向上などがとりあげられている。

前述のように先進諸国はそれぞれ長期的研究計画に基づいて,研究目標,国の役割り等の明確化,研究体制,研究施設等の整備拡充を行なつているが,わが国においても,発展する社会・経済の動きに対応して科学技術の進歩をはかるには,新たな長期的観点に立つて,国としての研究開発の方向・体制などを明らかにする必要が要請されている。このような情勢に基づき,昭和39年度から科学技術会議は,昭和35年および37年に答申された第1号および第3号答申(1号:10年後を目標とする科学技術振興の総合的基本方策について,3号:国立試験研究機関を刷新充実するための方策について)の見直しを行なつている。さらに科学技術が,わが国の経済発展と国民生活向上の基盤として,その果たす役割の極めて重要なことから,これを画期的に振興するためには,国としての統一的指針が必要であり,同会議はこのような見地から,科学技術振興についての国の責務を明らかにし,かつその目標を示すための科学技術基本法を検討している。同法の制定により,一層整備された環境のもとに,研究が活発に行なわれ,その成果がわが国科学技術水準の向上に大きく貢献することが期待されている。


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