ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
  各論
§19  医療および公衆衛生
V  環境衛生
1.  し尿処理

環境衛生上,し尿処理の問題はきわめて重要である。特にふん便の衛生上の危険度はきわめて高い。ふん便中の生菌の数は1g中に数百から数千万におよぶといわれている。したがつて,たとえば,赤痢の保菌者ば現在国民の0.6%といわれているから,約54万人のふん便は赤痢の感染源となりうるわけであるし,また寄生虫卵保有者の数も最近減少したとはいえ,いまし尿1cc中の蛔虫卵数30個としても,全国都市から農村に還元されるし尿量年間約550トン中には天文学的な虫卵がふくまれることになる。このほかポリオ,伝染性肝炎などのウイルスもし尿中に含まれている。さらに,し尿を直接河川中に放流するようなことをすれば,河川水をいちじるしく汚濁して,上水源としての利用,魚貝の保存,水田かんがい用水としての利用を不可能にする。このように,し尿は強力な汚染汚濁源となるから,水質の汚濁を防止し,産業を保護し,人間の生活環境を正常に保つために,その有効適切な処理が不可欠である。ところで,その処理方法については,これを大都市,中小都市,郡部農村という地域的観点にたつてながめた場合には,その産業,地形,立地条件等によつて,画一的に律することに困難がある。

環境衛生の立場からすれば,今後の都市におけるし尿処理方法は,当然水洗便所を普及して,下水道処理を行なうべきであつて,汲取便所-し尿消化処理の組合せは,できるだけ早期に解消しなくてはならないといえる。

しかし,下水道管きよの普及率が市街地人口の約10%にすぎず,しかも下水道処理施設の設備状況は,下水道管きよ完成地区でさえも地区人口の50%にしか達していない現状からも推測できるように,その建設には膨大な資金を必要とし,現在の財政状態では,その設置が困難な都市が多い。しかし,一方では近年における化学肥料の普及による肥料向けに転用されるし尿の減少と都市人口の増加によるし尿量の激増に対処するためには,し尿の合理的処分が焦眉の急となつている。したがつて,下水道完成までの間,それ以外の何等かの適正な処理方法を確定することも必要である。

現在,大都市で行なわれている嫌気性処理法はすぐれた処理法ではあるが,処理期間が長く,建設費が高価なため,消化期間を従来の半分位に短縮するいわゆる高率消化法の研究がさかんに行なわれている。しかし,実際のプラントにおいては,建設,操作両面に,なお問題がのこされている。

さらに,財政的基盤の弱い中小都市では,消化法のような大処理場を建設することは,財政的にも土地獲得の上からも困難なために,消化槽にくらべて短時日に処理ができ,容積設備の縮小が可能な方法を強く要望している。これに応じて,化学処理とくに薬品沈澱法,酸化処理,電解処理等が案出された。

これらの急速処理法の基調になつているものは,従来の嫌気性消化法と異なり,まずし尿を自然沈澱や物理的,化学的方法によつて急速に凝集沈降させて,これを沈澱と上澄液に分つたうえ両者を別々に処理しようとするものである。化学処理はその建設費が消化法にくらべ1/3〜1/4ときわめてひくいという利点があるが,その反面,その運営には相当の技術ど細心の注意とを必要とし,また,経費の育いことが欠点である。酸化処理や電解処理あるいは遠心分離はいずれもすぐれた方法ではあるが,これらの方法だけで,し尿処理のすべてが完全に行なわれるかという点については論議があり,何れも現段階においては一連のし尿処理工程の一部として応用されるべきものである。すなわち,し尿処理技術における今後の問題は,これらの新しい方法や,従来の嫌気性消化法,生物学的酸化法(散布瀘床法,活性活泥法など),高速堆肥化法などの種々の方法を改善しつつ,これらの組合せによつて,一連の効率的な急速処理法をつくりあげていくことであろう。さらにし尿収集法の改善,肥料として使用されるし尿の安全化,処理生成物の資源的活用についての研究の継続が必要である。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ