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  各論
§19  医療および公衆衛生
I  社会保障ならびに経済政策における医療および公衆衛生の役割

社会保障政策と経済政策とは,ともに貧困からの解放という目標を追求する道程において,福祉国家がとるべき2大政策であるが,医療および公衆衛生の分野における科学技術の振興は,この両政策の目的達成の上に重要な役割を演ずるものである。社会保障と経済のいずれの政策に優先する地位を与えるべきかという問題については,従来から種々の論議がなされている。しかし,医療および公衆衛生の分野における科学技術を振興することによつて達成される国民の健康の維持ということ自体は,社会保障制度にあつてはもちろんのこと,経済計画においても重大な意義をもつものである。一例をあげてみよう。貧困への転落防止ということは,社会保障政策の重大な目標の一つであるが,疾病は貧困を招くもつとも大きな原因の一つである。疾病はその人に対して肉体的な苦痛を与えるのみならず経済的にも個人の収入を減少ないし途絶えさせ,さらには多額の医療費の負担などによつて個人の経済生活そのものを根底から脅やかすことになる。このように疾病は貧困への道であり,貧困はまた疾病を招く。両者の悪循環は経済計画達成の障害となる。たとえば,生活保護法による保護開始原因の約5.5割は世帯主および世帯員の疾病によるものであり,反対にその廃止原因については傷病の治癒をその理画とするものが約3割を占めている。また厚生行政基礎調査によると,所得が少ないほど有病率が高いことも明らかにされている。

以上のべたような貧困への転落防止という間接的な効果だけでなく,医療,公衆衛生の発達は,長期的な生産力の発展,経済の成長に対しても,物質投資にもまさるとも劣らない積極的な効果をもつている。最近,「経済計画は物を中心とした計画から人を中心とする計画へ移行することがこれからの課題である」といわれているが,これを具体的に考えた場合,経済活動に参加する可能性との関連において,いわば「人の資質をたかめる」ことが重要な問題となつてくる。そして「人の資質をたかめる」ためには,健康の保持,快適な活動心理の昂揚,あるいは能力の向上が要求され,そのためには相当の投資が必要である。これが「人間投資」とよばれるものであり,その内容には教育などもふくまれるが,医療および公衆衛生はその重要な要素の一つとしてかぞえられている。このように,わが国の経済発展について,人間の資質をいかにたかめるべきかを中心として考えるとき,国民の健康の保持は決して非生産的な消費でなく,なお社会に還元されるべき生産能力効果をもつものであることがわかる。


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