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  各論
§17  輸送
II  鉄道輸送
1.  鉄道の近代化



(1) 一般的傾向

第2次大戦後は,鉄道は陸上交通の独占的立場から競争的立場へと立場を変えるに至つてサービスの向上,輸送コストの引下げ,生産性の向上等を目的として各国とも一斉にその近代化に着手した。

鉄道の近代化は,電化とディーゼル化が主体であるが,その何れをとるかは,その国のエネルギー資源,国土の地理的条件,国の経済構造等の相異により異つている。

たとえば広大な国土と豊富な石油資源を持ち,大都市,工業地帯が大陸の東西に片寄つている米国の場合にはデイーゼル化が主力であり,水力が豊富で山岳地帯の多いスイスは電化が主であつてすでに100%近く電化され,英国は石炭が豊冨なため,電化の進捗率も低く機関車数でも蒸気機関車が圧倒的に多数を占めている。またオランダはすでに1959年に蒸気動力を完全に電気とデイーゼルに置きかえて,動力の近代化を完了し,高能率の運営を行なつている。

表17-2 各国鉄道の国際比較

わが国の鉄道の近代化の状況を国鉄の旅客列車キロ( 図17-4 )でみると,従来の機関車けん引方式から,電車,デイーゼル動車等の動車分散方式におき代わつてきていることが特色となつている。とくにデイーゼル動車は,流体変速機の実用化により多数の車両を連結して同時に駆動する,いわゆる総括制御が可能となつたため,従来のローカルサービス的な存在から,一躍幹線の輸送力用として登場した。さらに駆動装置,防振防音装置,空気調和装置等の研究開発が進むとともに,優等列車として電化区間,非電化区間の別に関係なく通し運転が可能となつた。欧州大陸ではすでに国際列車(TEE)として使用されている。

図17-3 世界各国鉄道の動力車別列車キロの変化

図17-4 動力車種別旅客列車キロの推移

貨物輸送では,動力近代化による列車のスピードアツプ,生産地から需要地への直通列車の運転等のほか操車場における貨車の滞留時間の短縮,貨車への積卸作業の合理化による時間短縮,自動車との協同輸送体制の確立,そのための輸送用具の使用等が問題点としてとりあげられ,これらについて研究が進められ実用化されつつある。

交通機関の生命である安全性に関しては,従来は運転者の注意力に依存する点が多かつたが,動力が近代化され,より高速度の列車が運転されるようになると,もはや人間の能力では制御不可能になる。この対策として,エレクトロニクス応用の自動列車制御装置が研究され,実用化される段階に到達している。

輸送方式の近代化のほか,軌道構造およびその保守作業の近代化,通信の近代化,事務処理システムの近代化による営業サービスの改善,事務能率の向上等が長期的,計画的に推進されている。その成果の一つの指標として,従業員1人当りの生産性の推移をみると 図17-5 のように逐年向上している。

図17-5 従業員一人当りの生産性の推移

つぎに近代化に関連して特筆すべきは東海道新幹線の着工である。この新幹線は従来の鉄道とは全く切離して建設される関係上,現在の鉄道輸送方式にとらわれることなく,現存する科学技術をあらゆる面に応用して,地上輸送機関としては理想的な,高度に近代化された鉄道が出現することになり,その成果は世界中から注目されている。
(2) 動力の近代化

鉄道近代化の本命は,何といつても動力源の転換すなわちエネルギー効率のより高い電気動力,あるいは内燃動力への転換である。いま機関車の使用率を考慮に入れた場合の動力源の持つエネルギーの利用率-エネルギーの効率-を各種機関車について比較してみると,それぞれ蒸気5〜6%,電気15〜16%(火力発電)または50%以上(水力発電),およびディーゼル20%以上になると考えられる。

このように電化,ディーゼル化は国のエネルギー資源の有効利用という国民経済的見地からも,動力費の節減,車両の使用効率の向上等の企業経営の上からも,無煙旅行,列車のスピードアツプ,列車回数の増加等の利用者に対しても利益をもたらすことができる。国有鉄道の長期計画にしたがえば,昭和50年までに国鉄全線のうち7,500キロが電化され,残りはすべてディーゼル化されて総輸送量の約75%が電気運転,残りの25%がディーゼル運転によつて輸送される予定である。
(a) 電化

国鉄の電化率は,昭和26年の8.5%から,昭和35年には13%に伸展している。

ここで特筆すべきは電車の発達である。

電車は古くから都市交通及び近郊輸送用としてとくに民営鉄道を中心に発達してきたが,国鉄はこの方式を中長距離用に開発し,「こだま」形の特急電車が出現した。

電車は機関車けん引の列車に比べると1)加減速性能にすぐれ,2)分割,併合自在で,輸送量に応じてその車両数を調節でき,3)終着駅での折返しも簡単で,4)使用効率が高い等という利点を有することから,昭和25年湘南電車の完成以来,電化された幹線の旅客列車は漸次これにおきかえられた。その後,軽量小形高速電動機,中空軸平行カルダン駆動方式,空気バネ,デイスクブレーキ等の新技術の研究開発の結果従来より加減速性能,騒音,振動等の乗心地が遥かにすぐれた電車が誕生し,「東海形」「こだま形」の出現となつたものである。この経験から電車による優等列車の運転にも確信をえて,従来の機関車けん引による「つばめ」「はと」などの特急列車も順次「こだま」形の電車におきかえられ,所要時間も7時間半から,6時間半と短縮されたほか,優等列車の大増発が可能となつた。( 表17-3参照 )

つぎに電化方式の画期的なものとして交流電化方式の登場があげられる。商用周波数の交流電化は戦後フランスが先がけて発展させたものであるが,変電所等の設備投資が少なくてすみ経済的であるため,わが国においても昭和28年頃から調査研究が進められ,30年にはわが国独自の交流車両が開発試作され32年には,北陸本線米原一敦賀間が60∽単相20KVにより電化された。その成功はフランスと同様高く評価されてよい。昭和35年度末現在,国鉄電化キロ2,700kmのうち約1割の258kmはこの方式による電化区間である。ここで問題は従来の直流電化区間との接続点であつて,その地点を通して列車が運転される場合,何等かの方法で交流・直流の切換をしなければならない。その方法には1)動力車両取替方式,2)地上切換方式,3)車上切換方式の三通りの方法がある。わが国ではこのいずれの方式も採用しているが,地上切換方式は地方設備が複雑になる上,旅客輸送は電車によつて行なわれる傾向にあるため,交直両用車輛の研究が強力に推進され最近発達したシリコン整流器を車両用に応用して,交直両用機関車および電車が開発された。

表17-3 動力方式別優等列車本数の推移

交流および交直流車軸はバーニヤ制御,1トラック1モーターシステム等日本独自の構想により粘着性能がすぐれ,直流車両に比べて引張特性がすぐれているため,今後電化される区間の大部分と東海道新幹線には交流電化方式が採用されることになつており,交流電化方式の前途は洋々たるものがある。
(b) デイーゼル化

戦後高速デイーゼル機関の発達とともに,燃料経済の面から戦前のガソリン機関に代つてデイーゼル機関を車両用に開発し,さらに昭和26年動力伝達装置として流体変速機を使用してから総括制御が可能となつたため急速に発達した。

わが国ディーゼル動車の特色は,電車と同様にエンジンをすべて床下に取付け床上の面積は運転室をのぞいてすべて旅客,荷物用に用いられることと,すべて同形式のエンジンを使用し,しかも液圧式の動力伝達装置を使用していることである。このことはどの動車とどの動車を組合せても総括制御ができ輸送量に応じて分割併合が自在なことを意味する。

電化に当つて旅客列車が電車におきかえられているのと同様に,この総括制御可能のディーゼル動車は,地域的なローカルサービスから次第に中長距離用列車に使用されている。むしろ電車は電化区間のみにしか運用できない欠点があるが,ディーゼル動車はその点において,電化,非電化区間を問わず,必要なところへ自由に運転でき,しかも自由に分割併合できるので,使用範囲は相当広くなる。昭和31年には従来のエンジン1基搭載形式の外に2基搭載の強力形が出現し,山岳地帯の勾配区間にも使用できるようになつた。一方,台車構造(空気バネ,デイスクブレーキ),防音構造等の研究改良により,乗心地のすぐれた優等列車用の車両が誕生し,各地で都市間,または都市観光地間を結ぶビジネス用観光用のスピードサービスを行なうようになり,35年12月には「こだま」形に相当する特急形気動車「はつかり」形が完成して( 表17-3 ),上野―青森間の所要時間は,10時間半に短縮された。
(3) 車両

動力の近代化の進展とともに,電気車両,デイーゼル車両が急激に増加しているが,いずれも過去の経験,試験研究等の結果を生かして利用者の要求に即した性能をそなえ引張性能,速度性能,安全性,経済性等のよりすぐれたものへと推移してきている。
(a) 電気車両

機関車については,交流電化の進展にともなう交流車両,交直両用車両が試作の域から脱して量産体制に入つた。中でも交直両用車両は世界でも例が少なく,その技術は高く評価されてよい。直流機関車は,主要幹線以外の老朽機関車取替の目的で粘着性能のすぐれたバーニア制御装置のED60,61形が製作されたが,この技術をさらに山陽線貨物用機関車EF60形に応用して,10%勾配で1,200トン牽引可能の特性をそなえた電気機関車が出現した。さらに信越線碓氷峠の特有のアブト式運転をやめ,普通の粘着運転に切替えるため,EF62形,EF63形(補助用)が試作され,37年頃にはそのテストが行なわれることになつている。

電車はすでに私鉄各社において昭和27〜8年頃より数多くの近代的新形車両が相ついで試作実用化され,それぞれ私鉄の体質改善に大きく貢献してきたが,国鉄は,これらの新形電車の基礎的検討を進め,それらの長所をとり入れて昭和31年,従来の電車とは駆動装置を全く異にしたモハ90形(現在モハ101形)通勤用電車を試作した。これは100kW小型高速電車動機を台車に装荷し,平行軸カルダン駆動方式を採用したもので音も靜かで乗心地がよく,しかも発電ブレーキを併用するため減速度が大きく,平均速度も高い。この経験から,これに車体構造,台車構造等を中長距離用に設計替えした東海形電車が誕生した。またさらに防音構造,ユニットクーラー等の新技術をとり入れ,長距離用に設計製作されて誕生したのが「こだま」形電車である。

また,シリコン整流器をはじめ,あらゆる機器を小型軽量化して床下に取付け,車内を広く使用できるように設計された交直両用車も量産体制に入つている。
(b) ディーゼル車両

ディーゼル動車は,従来支線区のひん繁サービス用として設計されていたため,座席は狭く,車体も普通の客車より一回り小さくて貧弱な感じのものであつたが,昭和31年東京一日光間の準急用として,キハ55形が設計されてから,一般客車なみの気動車が出現し,以後一般近郊用のものについてもすべて大形化された。また寒地用として機関予熱器の採用その他特殊設備を施したものも設計され,以上の三つの用途1)一般近郊用,2)準急用,3)寒地用に分けて標準設計が完了し量産化されることとなつた。また電化区間の「こだま」形特急電車と同様のサービスを東北線で行なうため,防音,防振構造をとり入れ,暖冷房を装備した画期的な「はつかり」形気動車が昭和35年完成した。

ディーゼル機関車はディーゼル動車に比べると開発が遅れている。本線用のものは,昭和28年に試作(DD50形)されて以来,改良を重ねて次第に高出力のものが製作されてきているが(DF50形),まだ従来の標準形蒸気機関車に代替しうるものは出現していない。その原因の一つとして,駆動方式に電気式を採用していることがあげられる。すなわち,発電機,電動機等の重量機器を搭載しているために,動輪周出力がえられないので,高出力のディーゼル機関車をうるために1は大馬力用の流体変速機の実用化が鍵となる。現状は昭和35年に1,000IPエンジン及び流体変速機が開発され,36年には,2,OOOIP(2エンジン)DD51形が試作された程度である。また入換用としては,昭和33年標準形のDD13形1号が製作され,以後逐年増加して主として都市周辺の入換に使用されている。
(c) 客貨車

客車は木製客車の鋼体化を昭和31年に完了し安全度を向上させたが,以後は電車,ディーゼル動車の増備により一般客車は新製せず,客車総数は横ばいから減少傾向をたどつている。しかし長距離旅行者用に寝台車の新製,改造工事が進められ,とくに一般大衆向の2等寝台車(旧3等寝台車)は昭和31年度の123両(客車総数の1.1%)から,35年度には291両(2.7%)と倍以上に増加している。また33年には長距離特急用車両として空気バネ,暖冷房付の乗心地のいちじるしく改善されたデラツクス客車(あさかぜ形)が製作された。

貨車は旅客車に比べ近代化が遅れているが,2軸貨車の高速化のための二段バネ吊リリンク装置の普及をはじめ,プレス構造による軽量化と量産可能の貨車,荷役作業の機械化のために側面を全部引戸構造にしたパレット専用貨車,コンテナーとその輸送用貨車,電源開発用その他の大形機械輸送用として150〜240トン積のマンモス貨車,石油類の需要増大にともなう50トン種のマンモスタンク車,屋根を開閉式にして有蓋,無蓋両用に使用できる貨車,貨物輸送量の少ない支線区サービス用のディーゼル貨車等々,新時代の要請に即応した新形式の貨車が試作,量産され実用に供されつつある。
(4) 施設

わが国の鉄道は単線がほとんどを占め,諸外国と比べると複線の占める率は低い( 表17-2 )。輸送需要の増加とともに幹線においては,輸送力の弾力性を失い,局部的にはゆき詰りの現象を呈してきているので,動力の近代化による輸送力の強化とともに,主要幹線においては複線化工事を始め,操車場の新設,拡張,新輸送方式にともな,う近代的設備の建設,改良等の工事が推進されている。

通過トン数が増加し,列車速度が高くなるにしたがい軌道のうける影響は大きくなるため,レールの重量化,長尺化,コンクリート枕木の採用等の新技術をとり入れて軌道構造を強化し,合わせて乗心地の改善をはかつている( 図17-6 )。

また,列車回数が増加するにつれ列車間隔が短縮されて,従来の保線方法では軌道の保守が不可能となるので,道床,線路の交換作業も機械化され,バラストクリーナ,マルチプルタイタンパーを始めとして各種の軌道更新用機械が試作実用化され,その数が増加している。

図17-6 重量別レール敷設キロ及びコンク リート枕木敷設本数の推移

貨物輸送はコンテナー,パレツト等の使用により近代化されつつあるが,これらが真価を発揮するためには駅の荷扱設備の近代化が必要である。そのテストケースとして梅田駅が徹底的に改良され,面目を一新した貨物駅となつたのを手はじめに,逐次主要駅において荷役設備が充実されてきている。

また電気設備についてはSHF,VHFの応用による通信の近代化を始め,シリコン整流器の採用,変電所の無人化,信号の集中制御等の新方式を採用して業務能率の向上に貢献しているが,電子技術の応用例については,次にのべることにする。
(5) 電子技術の応用と自動化

最近急速に進歩した電子技術の応用によつて,鉄道輸送のあらゆる分野で自動化の研究が進められている。

輸送に直接結びつく例として,列車の中央集中制御,自動列車制御,貨車の自動仕訳,列車運転曲線計算機,座席予約の計算機等があげられる。
(a) 列車集中制御装置(C.T.C)

C.T.Cとば列車の運行を一ヵ所で制御する方式であるが,これはすでに昭和30年頃より京浜急行,東武鉄道,名古屋鉄道等の私鉄で,さらに33年には国鉄伊東線で実用化された。これらの方式は継電器式のものであるが,列車密度が高くなり,高速になるにつれて一段と時間的遅れの小さいものが要求され,さらに精度の高いものが研究試作されている。
(b) 列車自動制御装置(A.T.C)

列車が高速化するとその制御距離がいちじるしく伸び従来の地上信号により乗務員が速度制御をする方式では,安全度が低くなり運転不可能となるので車内信号表示の必要が起つてくる。この車内信号を列車の速度に関連をもたせ,列車が信号速度をこえた場合警報を発し,同時に自動的にブレーキ装置が作用して制限速度以下に落すように自動化すれば列車の自動制御が行なえるわけで,国鉄はじめ私鉄においても研究が進み,各種の試験車が出現している。また自動制御への一段階である車内警報装置についてはすでに実用化されている。このほか列車の速度曲線を予め作成しておき,走行中それにしたがつて,速度をチエツクしながらプログラム通りに運転を行なう自動列車運転法もあるが,これらは今後の研究にまつところが大きい。
(c) 運転曲線計算機

列車の速度,加速度等の運転性能は動力車の特性,けん引車両,線路の勾配,曲線半径等の諸条件により変化するが,計算を短時間に行ない列車運転計画のスピード化を図るための,運転曲線計算機が試作され,実用の段階に入つている。
(d) 貨車の自動仕訳装置

操車場における貨車入換作業を合理化してその滞留時間の短縮をはかり,貨物の輸送コストを低減させるためにテレタイプ利用の貨車自動仕分装置が実用化され,その後さらに貨車入換速度の制御を行なうため,カーリターダー自動制御装置が試作されている。
(e) 座席予約計算機

近代的交通機関として旅客の質的サービス向上のために座席予約業務が必要となるが,人力では予約に要する時間が長く,いちじるしく旅客サービスを低下させるとともに,大巾な業務の増加は不可能となる。この欠陥を解消するために,記憶容量が大きく,高速度の電子装置による座席予約システムが研究され,昭和35年より国鉄,近畿日本鉄道等において,実用化されている。


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