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  各論
§13  エネルギー
II  電力
3.  外国技術への依存と国際競争力



(1) 黒部川第四発電所の場合

黒部川第四水力発電所は,人跡未踏といわれる程のへき地に建設され,高さ186m世界第3位のアーチダム,全地下式発電所,中間湛水方式の採用等数々の記録を生み,わが国の建設技術の水準を示す記念碑的な意義を持つている。しかし,日本の技術陣の過去の経験を遥かに越えた規模のものであつただけに,ダムの設計,施工,基礎処理から水圧鉄管水車に至るまで外国技術の援助を必要とした。以下に外国技術の果した役割とそれが消化吸収されてどのように日本の技術を高めたかを眺めてみよう。
(a) ダム設計

アーチ型の採用によつてコンクリート量を重力型の半分にできたが,アーチダムについてはこれまで日本の技術が経験した最大のものは,上椎葉ダムの高さ110mであつた。黒四ダムは186mと格段に高いため,上椎葉ダムの円筒型に近いアーチでは,生起応力が大きく,断面も不経済となるので,縦横両方向へ彎曲したドーム型が選択され,本型式について経験の深いイタリアのエレクトロコンサルタントの技術援助を仰ぐことになつた。この技術援助は1)ダム地点の地形,地質調査,2)大型模型実験により,関西電力が当初独力で設計したダムを修正することの2点を目的として昭和31年10月から36年9月まで計4回にわたり契約が締結された。関西電力自体も参画して共同設計を行なつたので,対価支払額は合計約124万ドル,ダム建設費約150億円の3%程度で,通常のコンサルタント料7〜10%の半分以下ですんでいる。

なぜ,技術援助を必要とし,それによつて何をえたか。第1に,ダム設計にはまずアーチの型を考えてから計算で細部を決定するという手順がとられ,豊富な経験の蓄積から生み出されるダムの構造学的な形状へのアイデアが決定的な重要さを持つ。地形,地質に適応した設計をするため,おびただしい数の計算と模型実験が繰返され,20回にもおよぶ修正設計が行なわれた。この過程の中で想定された岩盤条件等の変化に応じてそれぞれのアイデアが出され,ダム構造に対してどんな考え方をしたらよいかを学んだことが最大の収穫といえよう。

第2に岩盤の調査,処理に重点が置かれたことである。ダム本体については,世界的に試し荷重法,膜応力理論による法等各種計算法が案出され,模型実験の併用により,安全率等の解明が十分なされているが,岩盤自体の安全率等の解明は不十分で適切な試験法もない状態である。

とくに,リミツトデザインを取入れて思い切つてコンクリート打込量をへらし,経済ダムといわれたフランスのマルパツセダムが昭和35年に崩壊し,調査の際発見できなかつた岩盤の欠陥が原因と判定される事件もあつて,岩盤調査には異常な努力が注がれた。たとえば,コンサルタントのミュラー氏(地質学者)のアイデアを発展させて,数億円を費して,世界で例のない大規模な岩盤試験を行なつた。岩盤をマスとして試験するため,岩盤中にトンネルを掘さくし,トンネル内に掘り残した3m立方体に対し,岩盤から離す剪断試験,300トンジヤツキ多数を使用する3軸圧縮試験を行ない,断層粘土については,断層まで掘り進み断層に狭まれたままの状態でテストする等新しい試験法を打ち立てた。

第3に,模型実験の技術がある。大型模型実験は岩盤の状態を細い欠陥に至るまで再現するという特殊な技術を持つイスメス社(伊)が実施したが,他方小型模型実験は,関電が東京大学生産技術研究所で行ないエ社案に修正意見を出し,一部採用されるという成果をあげている。

実施された計算,模型実験は次のとおりである。

計算    水平アーチ法    2回    H.Ritter法   数回    三成分調整法    2回    Schwedler法   2回    Stucky法    2回
模型実験    大型模型実験 (縮尺1/90)1回    振動実験 (〃 1/180)4回    小型模型実験 ( 〃 1/500)40回    基盤に関する実験(〃1/500)10回

(b) 高圧ずい道

水槽附近では,P(作用圧力)×D(直径)=681.6t/mに達し,耐圧ずい道としてはきわめて高水圧となるので,グラウト工法はフランスのSIF社と技術提携し,巻立てコンクリートにプレストレスをかけ,巻立てコンクリートと岩盤が一体となつて内圧に耐えるように設計施工した。
(c) 水圧鉄管および水車

大水量高落差で,きわめて高い水圧が作用し,解決を外国技術に依存せねばならなかつた。

水圧鉄管はPxD=2.285t/mに達し,佐久間の695t/mの3.5倍に当り,日本最高である。従来のSS41程度の鋼材では,鉄管の肉厚が100mmにもなり溶接が困難になる。なだれ対策上,鉄管は地下式となるため細いパイプを多数置くことは,トンネル掘さく費がかさみ不経済である。フランスのブツシヤイエ社(Bou-chayeb)からパンデツトパイプを購入して,一本案が実現された。この原理は,肉厚30mm足らずの普通鋼製鉄管に,高張力鋼製のバンドを冷間加工ではめ,次に,普通鋼の降伏点を越えるまで高水圧(使用水圧の2倍位)を作用させる。永久変形を生じ,膨張したパイプにより高張力鋼には強い圧縮残留応力を生じ,引張抵抗がいちじるしく増し,溶接の容易な普通の肉厚の鉄管でも水圧に絶えうる。従来のパイプを数本設置する場合に比して,このパイプの採用による節約額は約26億円と試算されている。

水車は,立軸機としては世界有数の6ノズルペルトン水車(容量9万kW)3台を使用するが,560mという高落差の立軸機に対する国内メーカーの経験が浅いという理由で,2台はドイツのフオイト社より輸入,1台は日本のH社が完成した。1)水量が大きい。2)低水量の時,一部のノズルを停止して弾力性を持たせるの2点から6ノズルが採用されたが,模型実験によりノズル間の干渉作用等の問題が解決され,またケーシングおよびその分岐部には,高張力鋼,特殊鋳鋼を使用して強度を持たせ,輸入品と遜色のないものが製作された。
(d) 建設工事

気象条件が悪く,年間正味6ヵ月しか野外工事ができぬため,マンモス機械が多数使用された。たとえば,ダンプトラック20〜22t:46台,28t:2台,6m3の動力ショベル,112φのバツチャープラント,24ドリフターの大型ジャンボー等であるが,大部分輸入機械である。これらの機械を駆使して,数々の記録を生んだが,そのうちで,1)月間ダムコンクリート打込量8.653m3,2)日間トンネル掘さく延長25.1m,3)月間トンネル掘さく延長376.6mの記録は,世界で1,2を争うものである。
(2) 発電用機器の生産に対する技術導入の影響

水力発電用機器については,一般に,その出発点が国産技術,導入技術のいずれであつたとしても,国内メーカーは長い間に蓄積された豊富な経験で自己のものとしており,その技術水準も国際的に一流といえる。とはいえ,新しいピーク用電源として,今後急速な需要増加が期待されているフランシス型,デリア型等の可逆水車ポンプについては,独力で開発をすすめているのは,1,2社にすぎず,導入技術に依存しているものが多い。

火力発電力機器については,戦中戦後のブランクによつてわが国の技術はいちじるしく遅れていたため,国内メーカーは27年頃から一斉に技術導入契約を結び,遅れを取り戻すことに懸命の努力を注いできた。

ユニット規模,蒸気条件,熱効率等の最高記録が毎年のように更新され,その度に一号機輸入,そのコピーによる2号機の国産化といつたやり方でともかくも技術水準を高めてきた。したがつて国産品は大容量機器に関しては国内市場においてすら外国品と太刀打ちできないのが現状である,輸入自由化の場合には,包括契約や別個契約の廃棄,廃棄されない場合でも新規の契約または契約更新が困難になり,ロリヤリテイ引上げ等の面で現行契約の改訂を迫られる等の事態が予想される。現に,コピーによる2号機以下の国産化という原則は実行困難になつてきている。今後は,独自の技術開発の必要性は一段と強まつてくるであろう。

図13-7 に重電機器の生産,輸出における導入技術の役割を示す。昭和30,35両年度を比較すると,とくに目立つのは発電機(大部分水カタービン)の輸出力増強に導入技術が大きな貢献をしていることである。
(3) 国産火力発電用機器の国際競争力

図13-7 重電機部門における導入技術による生産額,輸出額およびロイヤリティ支払額

最も需要の多い蒸気タービンおよびタービン発電機を例にとると,国産品は,CIF価格に輸入税(15%),諸掛および手数料(10%)を加えた外国品価格とくらべてさえ,約40%も割高である。これは次の理由による。

(a)原材料の割高

原材料価格は重電機器原価の50〜60%を占めており,その主要原材料の銅および珪素銅板をとると,わが国の建値は欧米にくらべ20%位割高である。

(b)生産規模の相違

わが国の生産規模は,米国の1/10,英仏独の1/2〜2/5にすぎない。

(c)減価償却額の相違

昭和30年以来合理化投資が累増したため,老朽機械の更新が進み,生産能力も徐々に増加しているが,今後さらに大規模な投資が要請されている。したがつてわが国の減価償却費の比率は,すでに新鋭機械の償却の進んだ欧米諸国よりいちじるしく高い。

これらの弱点を強化して,国内市場で輸入品と対抗しうるまでには,かなりの努力と年月を要するであろう。


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