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  各論
§12  化学工業
II  新原料と化学工業技術
3.  中間製品と反応過程-製造プロセスの競合-

化学工業の最大需要部門が化学工業そのものであることから判断されるように,化学工業においては原料から製品に到るまでに多種類の中間体が生産されるが,とくに有機化合物は反応過程が多岐にわたるため,新原料の導入と,研究開発の進展に伴い, 図12-5 に示すように製造プロセス間の競合,代替が目立つている。

原料をより安価なものに求め,プロセスをより簡単で容易なものとし,収率を高める方向に向うことは当然であるが,石油,天然ガス等の新原料についてはこの傾向は一層拍車をかけられ,石油化学製品間においてすらすでに競合するものがみられる状態にある。また石油化学の第1期計画においては既存製品への圧迫を少なくすることが考慮されたが,第2期計画に入つていわゆるスクラツプ・アンド・ビルドの傾向が顕著となつている。

図12-5 石油化学製品と既存工業製品との競合関係図

(1)アセトアルデヒド(オレフインの液相酸化法)

アセトアルデヒドの製造法を基礎原料からみれば数多くあるが,わが国では工業的に行なわれているのはカーバイドアセチレンの水和による方法である。これに対して最近生産が開始されようとしているのがエチレンの液相直接酸化法(ワツカー法)であつて,エチレンがアセチレンより安く入手できる見込のため石油系のアセトアルデヒド生産計画はすべてこの方法に依存している。

これはエチレンと酸素または空気を加圧下に塩化パラジウムを含む塩化銅水溶液に吹込む方法であつて,各種オレフインからカーボニル化合物を生成するのに適用できるが,収率等の点で現在はアセトアルデヒドの製造への適用にとどまつている。

(2)酸化エチレン(オレフインの気相酸化法)

酸化エチレンは当初はエタノールを脱水してエチレンをつくり,これに塩素を作用させてエピクロルヒドリンとしたのち加水分解する方法がとられていたが,コストが高く需要の開拓が進まなかつた。

最近は上記の方法におけるエチレンが石油系エチレンヘ切替えられる一方,エチレンの気相接触酸化法が国産技術および導入技術の両方により発足し,大巾のコストダウンが実現し,テトロン等の生産の拡大に貢献している。

この方法はエチレンと空気とを銀触媒を用いて高温接触させるもので,クロルヒドリン法に比し装置の腐食の問題も少なく,製品純度も高い。

この気相接触酸化法はプロピレンから酸化プロピレンを製造するのにも適用できるが,反応の選択的進行の点でなお問題があり,もっぱらクロルヒドリン法が実施されている。

(3)アセトン(IPA法,キュメン法)

アセトン製造法としては,古くから糖蜜を原料として発酵法によりアセトンとブタノールとを併産する方法が行われていたが,石油化学方式としてプロピレンを原料とするIPA法,キユメン法による生産が開始され,さらには直接酸化法が計画されるに至り,発酵法は次第にこれらにおきかえられつつある。

(a)IPA法-プロピレンを硫酸化したのち加水分解してイソプロピルアルコール(IPA)を生成し,これを気相脱水素反応する方法。
(b)キユメン法-プロピレンとベンゼンから塩化アルミまたは固体リン酸触媒を用いてキユメンヒドロパーオキシドとし,これを硫酸で分解してアセトンとフエノールを併産する方法。この方法によりフエノールの石油化学方式による生産も同時に開始されることとなつた。 以上の2方法が技術的に確立しているが,IPA法ではIPAのコスト,キユメン法では併産されるフエノールとの需給バランスに問題が残されており,直接酸化法が実施されれば最も有利であると考えられている。

(4)アクリロニトリル(ソハイオ法)

アクリロニトリルは現在アセチレンと青酸とから合成されているが,最近プロピレン,アンモニア,酸素から合成するソハイオ法が開発され,わが国にも技術導入が行なわれている。この方法はリンモリブデン酸ビスマス等の触媒を用い,一段階で合成する点が画期的である。この方法により原料面からかなりコストが低下して需要が増すことが予想される。

(5)塩化ビニル(EDC法)

カーバイドアセチレンは,カーバイドアセチレンと塩化水素から合成されていたが,これに石油アセチレンが代替する傾向があり,またエチレンと塩素とから2塩化エチレン(EDC)をつくり,これを脱塩酸する方法が計画されている。またエチレンアセチレン,混合ガスからの製法も検討されている。エチレンの価格は今後低下を見込めるだけにカーバイドアセチレンからの方法との競合が今後問題となろう。

(6)カプロラクタム

ナイロン原料であるカプロラクタムは従来フエノール法によつて生産されているが,現在 図12-6 のような各法が開発されて,かなりコストの低下が見込まれている。現在これらの方法はいずれも改良が進められており,その得失はまだ明らかになつていないが,国産技術により開発された光ニトロソ化法が反応段階も少なく,高収率で最も有利といわれている。

(7)安息香酸(トルエンの酸化)

安息香酸は現在工業的には無水フタール酸の脱カルボキシル反応による掛のが大部分で,量的にも僅かであつたが,スニア法カプロラクタム,または安息香酸からのフエノールの製法が計画されているため,安息香酸の需要増が見込まれトルエンの硝酸酸化または液相空気酸化が工業化されようとしている。

(8)芳香族ジカルボン酸(テレフタール酸)

芳香族カルボン酸のうち無水フタール酸はナフタリンの空気接触酸化により古くから製造されているが,最近合成樹脂,合成繊維用の無水フタール酸(可そ剤),テレフタール酸(ポリエステル繊維等)の需要が増大するとともに石油系キシレン,トルエンの酸化による製造法が行なわれるに至つた。このうちわが国ですでに実施されているものまたは計画中のテレフタール酸の製法には次のものがある( 図12-7参照 )。

(a)丸善-SD法-キシレン3異性体からパラキシレンを深冷分別結晶化し,残分を循環異性化処理してすべてパラキシレンとして分離したのち,液相酸化によりテレフタール酸とする方法。
(b)ヘンケル法-フタール酸,イソフタール酸,または安息香酸のカリ塩をテレフタール酸に転位させる方法。

以上のうち,キシレン混合物からのパラキシレンの深冷分離,キシレンの異性化については国産技術が開発されている。

図12-6 カプロラクタムの各種製法

図12-7 芳香既カルボン酸の各種製法

(9)スチレン

スチレンは合成樹脂,合成ゴムの原料として石油化学の発展により利用されるに至つたものであり,現在はエチレンとベンゼンからエチルベンゼンを合成し,これを脱水素してスチレンをえている。しかし,将来キシレン留分から分離されるエチルベンゼンの量の増大にともない,これを同様に利用することが予想される。

(10)高級アルコール

高級アルコールはその炭素数が増加するにつれて,溶剤,可そ剤,界面活性剤,化粧品と用途が変るが,炭素数の多いものは従来はもっぱら油脂の高圧接触還元またはけん化蒸溜によつてえられていた。しかし,その用途の拡大にともない,合成品の進出が著しくなつている。製法もわが国で実施または計画中のものに次の各種があるが,アルフオール法以外はオクタノール(2-エチルヘキサノール)を製造する方法である。またこれらの方法は,数個の分子の重合する形であるため低重合とも呼ばれる。

(a)アセトアルデヒド法-アセトアルデヒド分子を縮合,脱水,水素添加の工程を経てn-ブチルアルデヒドとし,さらにこれを分子縮合させ,脱水,水素添加して製造する方法で,わが国でも国産技術で行なわれている。
(b)オキソ法-プロピレンをオキソ反応(水素と一酸化炭素とにより,アルデヒド基を付加する)により,ブチルアルデヒドとし,あとはアセトアルデヒド法と同様に処理する。最近国産技術による生産が開始されている。
(c)アルドツクス法-オキソ反応とn-ブチルアルデヒドの縮合反応を一工程で行なう方法で導入技術による生産が予定されている。
(d)アルフオール法-チーグラー法を基礎とするもので,金属アルミニウム,水素,エチレンからトリエチルアルミニウムを合成し,これにエチレンを附加生長させて高級アルキルアルミニウムをえ,これを酸化,加水分解して直鎖状アルコールを合成する方法。

アセトアルデヒド法は出発原料の価格,オキソ法は中間の副生物(イソブタノール)が生ずること,アルフオール法は炭素数が種々のものがえられることのためにそれぞれ副生物または併産物の分離利用の方法が問題となろう。

高分子重合技術

石油化学工業の大きな特徴は,高分子製品を大量安価に供給して,合成樹脂,合成繊維,合成ゴム,塗料,接着剤等化学製品の新らしく広い需要分野を開拓したことである。たとえば合成樹脂は,家庭における食器,家具,包装,電気器具部品,玩具等従来木材,紙,皮革,天然ゴム等からつくられていた製品や金属製品の分野を浸食するとともに,合成樹脂独自の利用分野を形成しつつある。これに合成繊維,塗料等の進出を加えれば家庭生活だけをみてもその合理化,多様化に果した役割は極めて大きいといえよう。

現在高分子製品は極めて多種類に上つているがこれら製品の大量進出には原料が大量安価に供給されることと相まつて高分子合成技術の発展が著しい貢献をしている。高分子製品は,その構成要素たるモノマー(単量体)を多数(分子量で1万ないし10数万)重合接続させてつくられ,モノマーの種類や重合条件を変化することにより,硬度,軟化温度,たわみ性,染色性等の物理的,化学的性質を種々異にするものが得られる。

また重合を行いやすいモノマーとしてはエチレンのような不飽和化合物や環状化合物またはフエノールのような官能化合物があり,不飽和化合物は付加重合,環状化合物は開環重合,多官能化合物は縮合重合とそれぞれ重合反応の型が異る。またこの重合を機構の点からみれば付加重合や開環重合は連鎖反応であつて,単量体の原子の並び方を変えないでそのまま連結していく生成反応であり,縮合重合は逐次反応といわれ,低分子と低分子が逐次反応して高分子となる。これを整理すると,表10-3の通りとなる。また高分子の構造からは1種類のモノマーからなる単独重合体,2種類以上のモノマーからなる共重合体,異なる高分子と高分子を接合(グラフト重合,ブロツク重合)した重合体があり,この共重合,グラフト重合,ブロツク重合の発展により,単独のモノマーからは得られないような性質の高分子を得ることが可能となり,高分子物質の多様化と改質が著しく促進されている。

また単分子を活性化させ重合を促進する手段の面からみれば,熱重合法や,触媒重合法が多く行なわれていたが,原子力の開発に伴い放射線重合が注目されている。この放射線重合は,はじめはアセチレンの気相重合などで研究されていたが,質量分析器の発達により初期のイオン化過程の研究が容易になり著るしい進歩が行なわれた。また液相重合についてもはじめはラジカル重合が主であつたが,最近はイオン重合についての研究も盛んとなり各種の重合法への応用が期待されている。

石油化学からの高分子製品についてのもう一つの大きな話題はポリプロピレンの立体特異性重合触媒の発見であろう。表10-3にみられるように連鎖重合反応における主要な型として,ラジカル重合とイオン重合がある。

この連鎖移動反応は次の3つの段階に分けられる。

活性化A* →A

生長A* +A→AA*

AA* +A→AA・A*

停止An* →An

このAという単量体分子が活性化されてA* となり,最終的にn個重合してAnという高分子となるが,活性化がラジカル(遊離基)によつて起るものがラジカル重合,イオンで生ずるものをイオン重合と呼ばれ,さらにイオンが陽イオンである場合と陰イオンである場合とに別けられる。当初この連鎖反応については,イオン重合で得られる製品の種類と量が少ないという理由で,ラジカル重合に比してイオン重合の研究は発展していなかつた。しかし最近の石油化学の進展とともに,チーグラー・ナツタの触媒によりプロピレンの高分子がイオン重合で得られること,およびこれに加えてその重合体が直鎖状で枝分れがなく,分子結合法のみならず,原子の立体配置までも著しい規則性をもち,いわゆる立体特異性の重合体が生成することが判明して,学問的にも工業的にもにわかに注目されてきた。この立体特異性のポリプロピレンは結晶性がよく物理的性質も優秀であるといわれている。この立体特異性重合は,たとえば合成ゴムにおいては天然ゴムと同様な立体構造をもつ重合体の合成が工業的にも可能となつた点で特筆される。このほか高分子製品の話題としては,アルデヒド,ケトンのようなカルボニル基をもつ分子からの高分子(ポリアセタール等)による金属製品分野への進出や,高融点ポリマー,熱分解し難い高分子,等耐熱性高分子の研究,半導体高分子,含金属高分子等の新らしい分野の開拓等があり,高分子化学の分野は急速に拡げられつつある。石油化学の発展による単分子の種類と量の増加と相まつて,この分野の研究がさらに強化されることが望まれる。

表12-3 重合反応の分類


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