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  各論
§12  化学工業
II  新原料と化学工業技術
2.  基礎製品の技術-原料の代替,補完-

石油化学の一つの特徴は,図12-3にみられるように原料炭化水素を分解または,改質して水素,一酸化炭素,エチレン,プロピレン等の脂肪族炭化水素,ベンゼン,キシレン等の芳香族炭化水素などさまざまの化学工業の基礎原料を大量安価に産出することにある。これによつて化学工業の新らしい基礎製品分野が確立されるにいたつている。

(1)水素および一酸化炭素

アンモニア,メタノール等における技術動向を代表するものは,水素および一酸化炭素についての原料転換が著しく進行したことである。メタノールは天然ガスないしコークス炉ガスへの原料転換がすでに9割程度までに進行し,アンモニアについてもテンポはメタノールに遅れているが 図12-4 のように着実に進行している。

一酸化炭素は炭化水素または炭素の水蒸気分解により製造され,水素における技術動向と共通するのでここではアンモニアの水素源を主体として述べる。

かつての水素の代表的製法は,石炭およびコークスを原料とする水性ガス炉,ウインクラー炉,微粉炭ガス化装置等による方法であつた。しかしながらこれら固体原料を用いる方法は急速に地位を失い,油ガス化法,天然ガス法,コークス炉ガス法,石油廃ガス法等が次々と導入されている。

(a)油ガス化法-石油を水蒸気と酸素で分解し,一酸化炭素をさらに水蒸気で変成する方法である。最初稼動されたのは重油常圧分解法(フアウザー式)であるが,その後原油加圧分解法(テキサコ法)の技術が導入された。テキサコ法は原油の割安なこと,加圧式で装置がコンパクトになり,電力,蒸気等の原単位が少ない等の利点があるために最近はもっぱらこの方法が採用されており国産技術も確立されている。

図12-4 アンモニア(硫安換算)原料源別生産量の推移

(b)天然ガス分解法-新潟,秋田,千葉などで天然ガスが開発されるとともに工業化された方法である。わが国の天然ガスの主成分がメタンで不純物も少ないところから接触分解が行なわれている。他のガス源中のメタン分解も反応は同様であり,部分酸化法,蒸気改質法,およびこの両者の併用法の各種が導入されている。

(c)コークス炉ガス法-製鉄所の余剰ガスとしてのコークス炉ガス利用法における新らしい点は,コークス炉ガス中のメタンを分解せず,水素のみを深冷分離して利用することである。この深冷分離によりえられるメタン,エチレン留分はさらにメタノール,塩化ビニル,スチレン等への利用が進められている。

(d)石油廃ガス法-方法としては水素の深冷分離とメタン分解によるものである。

現在はナフサ分解によるオレフインまたはアセチレン製造の際の廃ガス利用を小規模実施または計画中の段階であるが,石油精製の拡大とともに将来増大するものと思われる。

以上に共通していることは,これらの水素および一酸化炭素によるアンモニアまたはメタノールの生産が製鉄,石油化学などで副次的に行なわれる傾向にあることである。また,アンモニアの用途も肥料以外の用途が開拓されているため,以上の水素の各種製造法の得失はアンモニア以外の製品の需給状況と副次製品としてのアンモニアとの需給バランスに影響されるところが大きい。

(2)オレフイン系炭化水素

石油化学の製品を代表するものが,エチレン,プロピレン,ブチレン等のオレフイン系炭化水素であり,このうち最も重要なものがエチレンである。オレフイン系炭化水素はそれぞれの国情により,製油所廃ガス,天然ガス,ナフサ,重質油の熱分解,アセチレンの水添またはコークス炉ガスなどからえられている( 表12-2B参照 )が,一般的にガス状原料から重質油原料に向うにつれエチレンの収率は落ち,プロピレン,ブチレン等が多くなり,液状油の生成が多くなる。わが国の場合は製油所廃ガスが少ないこと,石油のナフサ溜分の利用が経済的に有利であることからもっぱらナフサの熱分解によつている。

表12-2 主要諸国におけるエチレン規模と原料使用状況

この炭化水素の熱分解は,高温において高級炭化水素の炭素間結合切断反応および低級炭化水素の脱水素反応が起ることを利用するものであるが,これによる各オレフイン炭化水素の収率は,原料組成,反応温度圧力,反応時間等により非常に巾がある。強く分解すれば,エチレンの収率が上昇するが,プロピレン,ブチレン収率は低下する。

わが国で採用されている製造方式はもっぱらコイルクラツキング方式(S&W法,ESSOR&E法)であるが部分燃焼方式(SBA法)が実施されているほかサンドクラツキング方式(ルルギー法)が昭和37年内に完成の予定である。

(a)コイルクラツキング方式-この方法はエチレン,プロピレン,ブチレンの併産を目的とする方法であつて,ナフサを原料とともにコイル式分解炉へ装入して分解し,生成物を急冷し,深冷分離または吸着分離する。この方式は技術的に安定しており,建設費,技術費が安価な反面,エチレンの収率を高めるには不向きである。
(b)サンドクラツキング方式-砂を熱媒体とする反応器で原料を分解する方式であつて,広範囲の石油溜分の使用が可能であり,強分解すればエチレン中心の生産となるが,中分解では分解ガス組成はエチレン55%,プロピレン23%となり,弱分解すればプロピレン,ブチレンが増加する。
(c)部分燃焼方式-エチレン,アセチレンの併産方式で,燃料ガスと酸素を混合し,特殊なバーナで短い焔で燃焼させ,この燃焼ガスにナフサを注入して分解する。 エチレンの収率が高いが,アセチレンの有効利用をすることが必要である。 以上の方式のほか,海外で各種のものが開発されているが,オレフインのコストは主としてナフサの価格,オレフインの利用率,装置規模および操業度に左右される。わが国のエチレンの生産規模を諸外国と比較したのが表12-2Aであるが,最初2〜3万トン規模で出発した4社についても4〜8万トンへの規模拡大が進められており,新規3センターについては最初から4万トン以上の規模が予定されている。また石油化学製品はエチレン誘導製品が中心であるため,当初第1期計画ではエチレンの収率向上が問題となつたが,第2期計画にあるようにプロピレン,ブチレン等の用途が拡大すればこれらの評価如何によりエチレンのコストが大巾に上下するので一概に当否は断定できない。

(3)アセチレン

アセチレンは現在までもっぱらカーバイドから生産され,誘導製品も塩化ビニルをはじめとして,価格,技術,量の上で国際水準に達している。しかし,原料のカーバイドが電力の価格の面から限界があり,カーバイドアセチレン系製品については石油系誘導製品との競合関係が目下の焦点となつている。

石油アセチレンの製造方式で計画が具体化しているのいは,ずれも炭化水素の部分酸化法であつて,前記のSBA法によるナフサからの生産,およびBASF法またはモンテカチニ法による天然ガスからの生産である。この方法の問題点は廃ガスの水素,一酸化炭素の有効利用,およびエチレン併産の場合は他のエチレン製造方式によるエチレンとの競合である。

石油アセチレンは,カーバイドアセチレンに代替するといわれるが,むしろ問題は従来のアセチレン誘導製品のうち,たとえばエチレンから直接酸化法によるアセトアルデヒドの製造,EDC法による塩化ビニルの製造のように,アセチレンを経ない製造方法が続々開発される傾向にあることである。

(4)芳香族炭化水素

ベンゼン(B),トルエン(T),キシレン(X)およびナフタリン等の芳香族炭化水素は,従来はコークス炉ガスおよびタールなど,主として石炭乾溜生成物からえられ,染料,医薬等の有機合成化学の主原料となつてきた。

しかし,最近,ガソリンのオクタン価上昇を目的とする改質法の発展にともない,これらの工程から生ずるB,T,Xを化学工業原料として抽出利用する量が増加してきている。米国においてはすでにB,T,Xの大部分が石油系でおきかえられ,この傾向はナフタリンにまで及びつつある。わが国においてもT,Xは既に石油系が過半を占めるに至つている。

改質法としてわが国に導入されている代表的なものはプラツトフオーミング法である。触媒にアルミナを担体とする白金を用いる点が特徴である。反応は多岐にわたるが,芳香族生産に関与するのはナフテン系炭化水素の脱水素,異性化およびパラフイン系炭化水素の環化であり,ナフテン系炭化水素を多く含む溜分を原料として用いる。

改質油からB,T,Xをとり出すにはユデツクス法,またはアロソロバン法がもっぱら用いられている。これはグリコール類の混合溶剤により,B,T,Xをそれぞれ選択的に抽出し,この抽出液を精密蒸溜する方法である。

B,T,Xのうちキシレン溜分は3種の異性体およびエチルベンゼンを含み,それぞれ用途が異なるため通常精密分留および深冷分別結晶法によりさらに分離される。

石油芳香族の利用上の問題はB,T,Xの比率がほぼ1:2:3であつて,石炭芳香族と逆に最も利用価値の高いベンゼンの量が少ないこと,およびトルエン,キシレンの3異性体のそれぞれの有効利用の途が十分確立されていないこと,ならびにB,T,X以外の改質油成分の分離利用が困難なことである。

最近では,トルオールについては第2ヘンケル法によるテレフタル酸の製造,スニア法によるカプロラクタムの製造,ハイデイール法によるベンゼンの製造等への道が開かれ,キシレンについてはフタール酸類への活用の技術が開発され,石油芳香族の総合利用の途が拡げられつつある。


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