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  各論
§12  化学工業
II  新原料と化学工業技術
1.  新原料の特性と原料転換の効果



(1) 新原料の特性

化学工業技術の性格は,化学工業が「原料から製品に到る主要な過程に化学反応を含む産業」であり,物質変性の場として,複雑な装置体系を持つた代表的な装置産業であることから生ずる。したがつてとくに出発原料の組成,量,価格等の特性が反応過程をはじめ装置から製品までの化学工業技術全般に及ぼす影響は大きい。このことは,石油,天然ガスさらにはコークス炉ガス等の新らしい流体原料の出現によつて,最近の化学工業の設備投資や技術導入が,アンモニア,メタノール等のガス源転換や石油化学に関連する部門に集中して行なわれていることからも判断できる。

この技術革新の最大の推進力である石油の化学工業原料としての特性を,従来の石炭ないしコークス等の固体原料と比較するとすれば次のとおりである。

1)価格が安く大量にえられ,立地条件に左右されることが少ない。
2)流体であるためパイプによる輸送等機械的大量連続処理が容易である。また化学的処理にあたつても条件均一性の維持の上から好都合である。
3)炭素,水素の含有率(純度)が高く,分離精製も比較的容易である。
4)各種炭化水素,とくに脂肪族炭化水素への利用範囲が広い。

以上のほかわが国としては石油の利用形態が重油中心であるため,余剰分としてのナフサを利用することが有利になる。

図12-3 石油化学系統図

ただし,石油化学における原料事情は各国により異なる。米国においては石油製品需要の約50%をガソリンが占め,揮発油以外の溜分の接触分解,接触改質等が盛んに行なわれ,石油精製廃ガスが多量に産出され,また天然ガスも湿性のものが大量に産出するため,主として石油化学原料にはこれらのガスが用いられている。これに対し,わが国では廃ガスは少なく,また天然ガスは量的にはまだ不十分なため,石油化学原料としてはもっぱらナフサを用いている。ただし,石油専焼火力の増加等により石油製品の需要はますます重質化する傾向があるため,石油化学工業には余剰ナフサの需要を増加し,重質分との需給のアンバランスを是正する効果が期待されている。

また欧州においては,天然ガスが開発されつつあるイタリアを除いてはわが国と同様ナフサを主原料としている。

表12-1 石油化学製品生産実績

しかし,従来のわが国の化学工業が原料塩,燐鉱石,油脂等を輸入に仰ぎ,石炭等についても価格の面で不利であつたことに比較すれば,欧米各国とも石油の輸入国であるため立地的な不利は少ない。この意味から石油化学の将来により以上の期待がかけられているわけである。

またコークス炉ガスが新らしい意味で注目されているのは,最近の鉄鋼の大増産と,平炉の熱効率の向上,酸素製鋼法の進歩とにより多量のコークス炉ガスの余剰を生じ,アンモニア,メタノール等の原料として利用できるためである。これは副生タール,高炉ガス,転炉ガス等についても同様である。
(2) 新原料と化学工業技術の展開

石油が炭化水素であり,とくに脂肪族炭化水素が反応受容体であることは,化学反応が多岐にわたりやすく,副生物の種類または量を多くする結果となり,このため反応の選択的促進のための触媒,分離精製技術の進歩と副産物の多角利用を促すことになる。また流体であり大量にえられることから必然的に装置の大規模,連続生産性という化学工業技術の特性を助長する結果となる。これらの特性はまず石油精製技術において表われて化学反応の工学的解析を促進し,これが石油化学の総合的技術を生んだといえるであろう。

(a)触媒の進歩

石油化学に用いられる触媒は,石油精製における改質,クラツキング等に用いられる固体酸,遷移金属を主体とする触媒が代表的なものであり,シリカ・アルミナ触媒を始めとしてニツケル,白金,パラジウム等がこれに入るが,その種類は極めて多く,最近の合成技術の開発には必ず新らしい触媒が一役買つているといつてもよい。

これらの触媒は主として反応速度論的研究または物性論的研究を基礎に発展し,これが合成化学と結合して,チーグラー・ナツタ触媒等の立体特異性重合触媒へと発展している。

(b)分離・精製技術の進歩

石油精製が分離精製の技術であるように,石油化学の技術の発達もこの技術の進歩に負うところが大きい。石油化学においては液体と液体または気体と気体の分離が重要となるが,抽出蒸溜,深冷分別結晶法,吸着または吸収分離法,深冷分留法等に著しい進歩がみられる。

(c)分析技術の進歩

無機化学からはポーラログラフイ,各種発光分光分析,X線分析が発展し,一方遅れていた有機化学でも赤外吸収分析,核磁気共鳴分析,質量分析,ガスクロマトグラフイ等各種の分析法が適用され,化学工業に広く用いられるに至つている。これらは従来の化学分析に対しいわば物理分析というべきもので,機器による分析であることから機器分析法とも呼ばれ,これによつて分析範囲,分析精度,分析速度の飛躍的向上がもたらされている。

(d)プラント技術の進歩

化学プラントを全体からみれば実際に化学反応の進行する反応塔以外に分離,混合,熱交換,加圧等の機器や貯槽等の占める比率が非常に大きく,これらがパイプラインとポンプにより結合されている。化学プラントの進歩にはこれらの単位機器のほか,計測,制御用機器の向上や全体のエネルギー収支,物質収支を,基礎として最適経済性を発揮する総合計画設計の技術(第1部プロジエクトエンジニアリングの項参照)の進歩が必要である。これらの特性が最も端的に現われ,高度の計装化と自動化が行なわれているのが石油精製と石油化学のプラントであるといえよう。

わが国の場合は石油化学工業が新らしい産業であり,またそのほとんどすべてが外国からの導入技術に依存していることもあつて,石油化学工業の建設にあたつての外国機械への依存度は極めて高く,昭和34年度までの外国機械装置の輸入額は約2,400万ドル,総投資額の10%以上になるといわれている。またエンジニアリング部門の会社も現在のところなお少数である。

しかしながら,たとえば尿素プラントの輸出,テキサコ法水素製造装置の建設等に見られるように,最近の国内の機械装置,プラントの製作技術の向上と生産活動の活発化への努力は次第に成果をあげ始めている。

これに関連して重要なことはプラントの規模である。化学工業が装置工業であることからコストに占める固定費の割合は非常に高いが,規模の拡大によりそのの比率はかなり減少する。従来のわが国の化学工業プラントが一般的に生産規模が小さかつたのに対し,石油化学のプラントは一応ながら経済規模を目標として建設されつつある点は注意すべきことといえよう。とはいえ国際的な規模にはなおほど遠い現状にある。


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