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  各論
§12  化学工業
I  化学工業の一般的動向と技術的背景
1.  生産構造と技術の変革

図12-2 にみられるように,わが国の化学工業は,製品面からみれば戦前から化学肥料,ソーダ製品,無機薬品,染料を中心に発展してきた。とくに戦後はいわゆる「傾倒生産方式」がとられたため,昭和25年を頂点として化学肥料とくに硫安工業が著しく肥大する結果となつた。これらの製品分野を原料の面から集約してみれば,石炭と電力が問題となる。

この無機化学工業部門偏重の生産構造を転換させる契機をつくつたものが,昭和27年頃からの硫安輸出にからむ国際競争の激化と,戦後のわが国のエネルギー事情,すなわち石炭および電力のネツクであつた。このため硫安についてはアンモニアの水素源を,重油,天然ガス,コークス炉ガス等の割安な流体原料へ転換する一方,硫酸根を含まない尿素(水素ガスとともに副生する炭酸ガスの利用)またソーダ工業においてはソーダとの併産による塩安(食塩中の塩素の有効利用)の製造へと技術的転換がはかられた。さらには尿素樹脂,アクリロニトリル製造などアンモニア利用の多角化へと進んだ。

図12‐2 化学工業の内部構成の変化

この間の技術動向を示すものが,油ガス化,メタン分解,アンモニア,尿素の合成についての数多くの技術導入であり,この傾向はその後のガス源転換の進展とともに最近にまで及んでいる。またこの部門において外国技術の導入と併行して行なわれた国産技術の開発も注目に値する。

またカーバイド工業においては,アセチレン誘導製品,すなわち各種ビニル系合成樹脂,合成繊維原料等への進出が開始された。

他方ソーダ工業においても,電解ソーダの副生塩素の塩化ビニル原料としての利用の拡大につれてこの分野への進出が行なわれた。

このようにして肥料工業の合理化が進められる一方塩化ビニル樹脂,尿素樹脂,石炭酸樹脂をはじめとして,メラミン樹脂,アルキド樹脂,ポリエステル樹脂等の各種合成樹脂およびビニロン,ナイロン等の合成繊維原料を中心とする有機合成品が,染料,医薬品等に代つて有機化学工業の成長部門となり,高分子製品に関する技術が広く展開されるに至つた。

この間諸外国においては,米国をはじめとして石油化学工業がすでに着々と基盤を築き,化学工業製品の各分野に次第に影響を及ぼしつつあつた。このためわが国においても化学工業製品の国際競争力の付与と,輸入防圧等の見地から石油化学工業の育成が検討され昭和30年ごろから積極的進出が図られることとなつた。この石油化学工業は原料が流体で処理が容易であり,大量安価に利用可能である等の利点があるため,化学工業全般にわたる基礎原料供給部門として既存化学工業に画期的な影響を与えたばかりでなく,合成樹脂,合成繊維原料,合成ゴム等の分野において従来の化学工業にみられなかつた直接的な大量消費需要を開拓しつつある。昭和32年に生産開始以来昭和35年には生産額が572億円(全化学工業に対して5.8%)に上り,短期間に急速な成長を示し,さらに今後の見通しとして,石油化学が全化学工業に占める比率は昭和45年には30%(COG,天然ガスを含めれば約50%)まで増大するものと見込まれていることからも判断されるように,今後の化学工業発展の主力となるものと予想されている。

この石油化学工業の進出によつ,て化学工業の生産構造の変化の方向は決定的となり,昭和34年には有機部門の比率が無機部門のそれを上廻るに至つている。

以上のように戦後のわが国の化学工業は,まず肥料を中心とする生産構造において生産力を回復し,昭和30年以降は,有機化学工業とくに石油化学工業を中心とする技術革新と生産構造の変革によつて生産力を高めようとしている時期にあるといえよう。


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