ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
  各論
§9  繊維
II  繊維工業技術の動向
2.  合成繊維

世界の合成繊維生産高は,また全繊維生産高の約5%に過ぎないが,その伸び率は他繊維の伸び率を引離している。

図9-3 で繊維別内訳をみるとナイロンの,率は逐年低下しているが依然過半数を占め,以下アクリル系ポリエステル系が続き3者で全体の9割を占めている。わが国では,表9-7に示すとおり,昭和36年実績ではナイロンが生産量の約1/3を占め,以下ポリエステル系,ビニロン,アクリル系と続き,塩化ビニール,塩化ビニリデン,ポリエチレンなどの生産も行なわれている。

わが国は世界第2の生産国(昭和35年の合成繊維世界総生産高の17%)となつているが,合成繊維の種類によつて差があり,塩化ビニリデン,アクリル系ののびが比較的小さいのに対し,ポリエステル系の躍進,ナイロンビニロンの着実な増加が注目される。

図9-3 世界の主要合成繊維生産量の推移

合成繊維工業の行き方にも大きな方向転換が見られるようになつた。合成繊維誕生以来激烈をきわめた新繊維の導入,開発競争がポリプロピレンを境に下火となり,大勢は既存繊維の改良に向つている。その理由としては,繊維間の競合に割り込むには質と価格の両面で相当な優位性が必要であり,新繊維を開発してもこのような優位性を付与するには,長年月と多額の研究費を要するので,むしろそのような努力をある程度改良の進んでいる既存繊維に向けた方が効果的であることがあげられる。

表9-7 日本における合成繊維生産量の推移

既存繊維改良の方向は,第1に,原料,製造技術の改良によるコスト低下であり,第2に,既存繊維を特定の用途に向くように改質することであり,第3に,加工技術の高度化により製品の多様化をはかることである。安くて,個性の強い繊維の創出がそのねらいである。

とくに,わが国の場合,タール工業,カーバイド工業を原料基盤として発足したためこれまで原料面で新技術の採用が制約されることが多かつたが,石油化学工業の発展にともない石油化学系原料に転換することにより新技術採用の基礎ができたことも手伝つてその動きは極めて活発である。また,新技術の導入により国内の先発企業と対抗し,新たに綿,レーヨンから合成繊維への転換を試みる企業も相ついでおり,合成繊維会社間の競争は激化している。

原料転換の例としては,ナイロンにおけるフエノールからトルオールへの転換(スニア法),ビニロンにおけるカーバイドアセチレンから天然ガスあるいは石油化学エチレンヘの転換,ポリエステル系におけるナフタリンからパラキシレンあるいはトルオールへの転換(SD法,第2ヘンケル法),アクリル系におけるアセチレンからプロピレンへの転換(ソハイオ法)などがあげられる。

合成方法の改良としてはナイロンにおける光エネルギー法,ポリエステル系におけるイムハウゼン法などがある。

繊維自体の改質の例としては,ポリエーテルエステル(グリレン),混合フタール酸エステル(バイクロン),エステルアミド(コーデル),ポリアジン(ナイロン類似)などがあげられる。

汎用性を持つものとしてとくに注目すべきものに,変形断面繊維の製造がある。変形断面繊維がすぐれた物理的,機械的性質を持つことは,以前から知られていたが,工業的に生産するには複雑な孔形をもつた紡糸口金が必要であり,在来の加工法ではその製作が不可能であつた。

最近の電子ビーム加工装置の出現によつて,この口金の製作が可能となり,色々な断面の繊維の製造が可能になつたのである。
(1) ナイロン

ナイロンは,その品質の総合的な優秀性,多様性等により,世界的に今後も最も発展性のある繊維と見られている。現在の生産は,ナイロン66(6割強)とナイロン6(3割強)がほとんどを占めている。日本で生産されているのはナイロン6で特殊用途に異なつたタイプのナイロンの開発も進められている。また,ナイロン6の原料カプロラクタムが低価格のため,技術の焦点はもっぱらナイロン6に集まり新設もほとんどナイロン6である。

ラクタムの新製法(§12化学工業参照)のうち,東洋レーヨンにより開発された光エネルギー法は,装置材料の面で問題が残,されているが,工程数が最も少なく,コスト低下の可能性が大きいとみられており,世界的に注目され,技術輸出も進められている。

また新製法として,界面縮合法による重合技術の開発が進められているが,まだ工業化試験の段階である。従来の真空,高温の密閉式に対し,簡単な開放式で安く,しかも多種類のナイロンが製造できる点で期待されている。
(2) ビニロン

ビニロンは,国産技術により開発されたわが国独自の合成繊維で,その原料および技術はアメリカ,フランスに輸出されている。

現在,2社でステープルが生産されているが,最近,フイラメントの生産を目標に新規企業化が試みられている。ビニロンの特質は吸湿性にあるが,また種々の誘導体を選択的に合成でき,多様性に富むことで,将来性の多い繊維である。
(3) ポリエステル系

テトロンは,高価,難染性,帯電性,ピリング等の欠点を持つにもかかわらず,欠点をカバーするだけの強い個性(しわ回復性,熱固定性,疎水性等イージーケアーに最適の性質)を持つため,衣生活簡易化という時流に乗つてめざましい躍進を続けている。現在コストの低下を図るため,既存2社は,それぞれイムハウゼン法,第2ヘンケル法の技術を導入して,工程改良を進めている。その他,国産技術によりパルプ廃液を原料とする工程の工業化が試みられている。また繊維の性質の改良の面では,グリレン(スイス),コーデル(米),バイクロン(米)等の技術を導入して,新規企業化がはかられている。
(4) アクリル系

現在4社が企業化しているが繊維の組成,性能は各社とも若干異なつている。アクリル系繊維は,1)基本特許がないこと。

2)難溶性高分子物のため溶剤の選定に苦心がいるが,その反面色々な溶剤を選択することによりヴアラエテイがでてくること。

3)染色性改良のため共重合物とする必要があること,といつた特徴により色々な可能性が考えられ,これらのうちどのタイプが最も将来性に富むかは明確でなく,勝負がつくまでにはあと数年を要するであろう。

このような技術的背景がのび脳んだ一因でもあるが,これは反面では今後の発展性を約束するものといえよう。

もう一つのアクリル系の特徴として,原料面での大幅な価格低下の可能性をあげることができる。主原料アクリルニトリルの製造原価は,ソハイオ法の採用により,大幅に低下するものと思われ,わが国でもすでに3社がその技術を導入しており,近く生産開始の予定である。
(5) その他

夢の繊維と騒がれ,4社が導入技術,1社が国産技術で工業化に着手したポリプロピレンは,昭和37年から本格生産に入る予定である。染色性等まだ未解決の問題が多く,当面は産業用需要が主体となると予想される。また,繊維工業試験所で研究されたポリアジン繊維の企業化が試みられている。

アメリカでは,ポリウレタン85%以上からなるゴムのような弾性のあるポリウレタン系繊維が,スパンデツクスという名称で商品化され,海水着,フアウンデーション用として好評であるが,化学反応が複雑なため高度の技術を必要とするといわれている。

その他,フツ素繊維,尿素繊維,ジニトリル繊維などは,そのすぐれた性質を認められながらも,コスト高,原料入手難などのために工業化が見送られている。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ