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  各論
§9  繊維
I  繊維工業の動向とその技術的背景
1.  転機に立つ繊維工業

世界各国の繊維消費の型を大きくわけると大体次の3つの型になる。第1は繊維消費量が大きく,しかも化学繊維や合成繊維の占める比率の大きい「化繊型」で,欧米先進国にみられる。第2は繊維消費量は多いが,まだ羊毛の比重が高い「羊毛型」で,北欧やオーストラリアが含まれる。第3は繊維消費量が小さく,しかも綿の比率が圧倒的に大きい「綿型」で,アジア,アフリカ等の低開発国にみられる型である。

日本は第1の型には入る。 図9-1 をみると昭和34年の日本の1人当り繊維消費量は8.6kgで,アメリカ,イギリス,,西ドイツにくらべればまだかなり劣るとはいえ,イタリアを抜きラランスに迫つている。アメリカ,イギリス,イタリアの1人当り国民所得がそれぞれ日本の国民所得の大体7倍,3倍,1.5倍であることを考えると,わが国の繊維消費の水準は質,量ともに国民所得に比してかなり高い水準にあるといえる。これはわが,国の繊維製品価格が国際的に安価であり,また国内的にも他の工業製品にくらべて割安なことが主因である。日本と米国の卸売物価を比較すると,重化学工業製品は軒並み日本の方が高いが,繊維製品価格は米国の5〜6割で,日本の方がはるかに安い。

次に繊維工業の国民経済上の地位について製造業を100とした付加価値構成比でみると,昭和30年度の17.5%から昭和35年度の12.1%と急速に比率が低下している。しかも繊維工業の内部では,合成繊維の発展と天然繊維の停滞という形で急激な生産構造の変化が進行している。天然繊維工業が比較的労働集約的であるのに対し,合成繊維工業は原料から糸にするまでの段階が大きな比重を占め,資本集約的な装置産業の性格が濃厚で,化学工業に近い。重化学工業化を内容とする産業構造の高度化を目指す段階を迎えて,繊維工業は重大な転機に立つており,合成繊維工業のウエイトを高め,装置産業的性格を深めることによつて対処しようとしているといえよう。しかし発展の過程で,停滞部門が抱える莫大な過剰設備( 表9-1参照 )の処理という難問を解決せねばならない。

表9-1 昭和40年度における設備の過不足

一方繊維輸出の面に眼を転じてみると,昭和36年度約11億ドルで総輸出のほぼ1/4を占めているが,これを維持し,さらに拡大するために貿易構造の変化を迫られている。低開発国で綿等の天然繊維製品を自給化し,さらに輸出国に転ずる国が増加している反面,アメリカを始めとして先進国では綿製品の輸入制限の動きが根強く,天然繊維の輸出市場は狭隘化する傾向にあり,勢い合成繊維や高度な技術を要する高級な天然繊維品に活路を見出さざるをえなくなる。幸いなことには,昭和29年頃にはほとんど無に近かつたわが国の合成繊維工業は急速な発展をとげ,昭和35年度の生産量は11万8,300屯でアメリカに次ぎ繊維,糸,織物を含めて輸出量は,1万7,000屯に成長している。しかし欧米諸国の合成繊維工業の発展が国内需要を大幅に上まわる日は近く,その暁には合成繊維輸出についても激しい競争が生れることになろう。


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