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  各論
§4  電子技術
II  電子技術の利用分野とその現状
1.  基礎電子技術

合目的基礎段階に当り,固体電子技術(半導体に関する電子技術),輻射電子技術(ミリ波等の発生およびこれに関連する電子技術)および情報基礎技術(形,音声等の情報の視覚および聴覚についての評価,再現ならびにその許容限度等に関する技術)を包含している。この部門の研究は技術研究であり,大学等における学術研究と異なり,合目的性の上に存立しなければならない。このことは電子技術のように進歩発展の速度が速くその方向がきわめて広汎かつ多様なものについては,とくに強調する必要があろう。したがつて,この部門の研究は,自由研究と異なり,系統的総合的な共同研究が必要である。

現在,この部門の技術の動向のうち最も注目されるのは,新らしい半導体材料の開発及び部品の小型化,すなわち固体回路化であろう。次にこれらについて技術の現状および問題点を述べよう。
(1) 半導体材料の開発

今日,半導体材料の主なものにゲルマニウム,シリコンがある。トランジスタの面から,これらの材料に要求されるのは1)高周波に適すること。2)大出力が出せること。3)高度の信頼性があること。4)寿命の長いこと。5)製作が容易であること等である。

高周波の問題は,易動度を大きくすること,半導体のベース領域を薄くすること,コレクタ静電容量を低減すること等であり,これから考えてできるだけ完全に近い結晶を作り出す半導体が必要である。

大出力の問題は抵抗と発熱の2点である。ベース抵抗を減少するには印刷,蒸着,拡撒等の技術によつて解決するほかはないので,これらの技術を容易に利用しうる半導体材料が要求される。ゲルスニウムとシリコンはこの条件に好都合な材料である。しかし,大出力トランジスタになると消費電力が大きく,したがつて発熱が大きくなるので,高温でも性能の落ちない材料が要求され,この点ではゲルマニウムは不利である。ゲルマニウムは70°C以上になるとトランジスタ機能を失うが,シリコンは200°C以上まで作動する。したがつて易動度の大きいゲルマニウムと耐熱性の大きいシリコンとの両者の特性を兼ね備えた新材料が望まれている。

信頼性を高め寿命を延長する手段としてはトランジスタのハーメチツク封じも一法であるが,固体回路に用いる場合には部品の小型化のため露出状態で使用することになるので,最近では酸化皮膜でトランジスタを保護する方法が開発されつつある。しかし,現状ではまだ完全ではない。

ダイオードの面では,脚光をあびたエザキダイオードの応用開発が余り発展していないが,その原因は,2端子素子としての扱い難さの他に電圧電流値の使用範囲が極めて小さい点にある。後者の難点はゲルマニウムやシリコンでは救済されないので,もつと適した材料の開発が望まれる。

熱電素子,すなわち冷却用素子と発電用素子の面では,性能指数(Z=α2 σ/K)が問題である。現在の材料では冷却用素子としての性能指数の到達限度は3×10-3 /°C程度であり,圧縮式電気冷凍機と匹敵する経済性をうるためには,さらに2〜3倍の性能指数の向上が望まれる。また発電素子としては,性能指数のほかに融点が高く,高温でも変質しない材料が望まれる。現在の研究では,新材料の開発はなかなか困難であるが,冷却素子は小型の冷却機器,精密な温度調節を要する低温恒温槽,特殊用途の局所冷却等にその応用面が開拓されるであろう。発電素子の応用面についてはまだ将来の問題である。

光,電気変換の面では,光→電気の方向,すなわち,光電池,光伝導材料については,現在研究しつくされた感がある。

逆の方向,すなわち電気→光の面では螢光灯が出現してから以後は,エレクトロルミネツセンスの現象が見出されている。現状では1ワツト当りの発光効率が劣つている。この欠点を取除くのは,新材料の開発に負うところが大きい。

最近話題に出ている新材料では,有機半導体とIII〜V族間化合物がある。これまでの研究では有機半導体は易動度が小さいために,トランジスタ等の固体電子装置には不適であるといわれているが,有機半導体は光伝導性,放射線による伝導性を有しているので,光や放射線の検出に利用できる可能性がある。III〜V族間化合物では易動度の高いものが現在9種類わかつており,新らしいものが今後出る見込みはない。

Ga,As,In,Sb等の化合物は面白い性質を有するが,純度の向上等の改良が進むにつれて,応用面が開拓されるものと思われる。

前述のとおり,新材料の開発は重要であり,これによつて画期的な発展をもたらすことになるが,この発見のためには科学研究と合目的基礎研究との結合が肝要である。すなわち,新理論,新物性等の発見と,これに基づく材料の精製および電子機器への応用に関する研究とは相互に密接な関連を有する問題であり,このためには各研究機関相互の研究連絡が十分行なわれる必要がある。

このような前提の下に,今後最も必要と思われる研究のうちで,科学研究との関連が深く,しかも新材料の開発および部品の小型化の基盤となるものは物性の研究,薄膜の研究および固体の界面現象の研究であろう。物性の研究は部品材料(金属合金半導体,誘電体,磁性体)の良質化,新材料の開発および特性の測定等の基礎的研究で1)極低温(0.3°K),強磁界下(200Kφ)および超高圧下(10気圧)での特性を,また超高真空下(10-9 mmHg)での材料の表面の性質解明の研究,赤外線,ミリ波・センチ波等の電磁波,音波,放射線とその材料との相互作用を解明するための研究等を含んでいる。薄膜の研究は,薄膜の物性が連続体に比べて著しく異なる点があり,最近多方面で実用に供しうる見込みが大きいので重要である。これには1)高速度スイツチングおよび記憶用の慣性の小さい磁性体素子の実用化を目的とする強磁性薄膜の研究,2)強誘電体薄膜を磁性体にかわつて記憶素子に用いることおよび小型蓄電器の構成部分に用いることを目的とする強誘電体薄膜の研究,3)真空装置への応用および化学反応促進用触媒としての利用を目的とする吸着性薄膜の研究が含まれる。固体の界面現象の研究は,1)超高真空下の固体清浄表面における物性的諸現象を解明する研究,2)固体表面の電気的性質の研究,3)半導体表面の物性(吸着,表面構造)の研究,4)半導体装置の表面現象の研究をその内容とするものである。

これらの研究の推進が最も基盤的であり,かつ,重要なものと思われる。
(2) 部品の小型化

最近,電子機器部品の超小型化が叫ばれてきた,米国ですでに実用化されているマイクロモジユールとレエクトロニクスというのは,前者はRCA,後者はウエスチングハウス社の商品名であり,ともに米国において軍事用途,とくにミサイル関係の電子装置の小型化,軽量化を目的とするものである。現在ではこれらを超小型化または固体回路と呼んでいるが,一般的には次元を用いた分類を行なつている。

1次元型というのは,抵抗または蓄電器等の単一の機能をもつた部品が各々の板に作られ,これらを重ねて配線するものである。これにはRCAのマイクロモジユールが該当する。

2次元型は,いくつかの区別できる機能の部品が1枚の板の上に作られるもので,トランジスタ,ダイオード等は後で取り付けられる。

すなわち,現在のプリント配線の超小型化と考えられる。

3次元型は,各機能を区別することのできない部品が1枚の半導体内に作り込まれる。たとえれば,トランジスタを基盤としてトランジスタを作るのみならず,導体,抵抗,蓄電器,インダクタンス素子等を作り,これらを配線することなく一体化するものであり固体回路とも呼ばれる。モレクトロニクスがこれに該当する。

超小型化の目的の第1は小型化軽量化である小型化の概念を与えるため増巾器1段当りの寸法を 表4-1 に示す。

表4-1 増巾器段当りの寸法

第2は信頼度の向上である。現在の複雑化した電子装置では,構成要素である部品の数が増加し個々の部品に要求される信頼度は益々厳重になる。これを固体回路化すれば内部結線が減るから,結線による故障が激減する。第3には価格の低減である。

以上の3つの目的から前にのべた3つの型を見ると,1次元型は現在の部品の型をコンパクトに作ることであり,その結線の数も変らないから,小型化信頼度の面で飛躍的進歩は期待できないし,価格低下も限度がある。

2次元型は現在のプリント配線を拡張して,抵抗蓄電器等をこの方法で作るもので,この方式の将来を決定するのは,トランジスタ等の半導体部品が,蒸着印刷等の方法で作りうるようになるかどうかという点にかかつている。

3次元型は半導体内の不純物の分布につよて回路部品を実現し,区別できない部品で構成する。すなわち,結線部分をなくして了うので,電力消費の問題を除けば,小型化の限度は現在見当がつかない。また内部結線がなくなるから,現在までの電子機器の故障の大半を占めた結線による故障がないため,信頼性が高い。価格は固体回路であつて配線する必要がないから安くなりうる。したがつて3次元型が最も好ましいといえよう。ただし,この型については,固体内に種々の部品を構成するのであるから固体内の不純物の分布は複雑化する。つまり任意の不純物分布の作れる製作方法が望まれる。

また,可変抵抗,可変容量等は絶対に固体回路では作れないし,精密な部品の値,精密な調整を要する回路も3次元型には適さないので,今後3次元型が主になつたとしても,1次元型2次元型がこれを相補つた形で進歩して行かねばならない。

最後に,ここでも各次元型の進歩に対しては,やはり新材料の開発に負う面が大きい。


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