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  各論
§3  材料
III  材料開発における科学の役割
2.  理論面における科学の進歩

理論面の進歩によつて,材料となる物質の構造の解明が進んでいる大きな成果の一つとして,金属の分野では転位論の発達をあげることができる。戦前の結晶理論は,理想化した状態の結晶構造に対する理論であつた。しかし,現実にはごく特殊な場合を除いて,完全結晶は存在せず,きわめてわずかでも格子欠陥が存在しており,わずかであるにもかかわらず,それが非常に大きな役割を演じて,結晶体の機械的強さを何百分の1,何千分の1に減じる。転位はこのような格子欠陥の一つで線状にのびた結晶のくるい目であるが,昭和18年にG.I.テーラ等により初めてその理論,すなわち転位論が発表された。以来,転位論は大いに発達し,転位のみならずあらゆる格子欠陥を包含するようになり,格子欠陥によつてかなりのことが説明できるようになつている。

一例をあげると,自動車の外板を深絞りする場合にできるしわの生因を研究した結果,転位箇所に窒素が集まり,その影響でプレスしにくくなることが判り,窒素の移動を阻止するためアルミニウムや珪素を添加し,時効硬化を防止して好結果をえた。また現在実験室の段階では,転位の全くない「ねこのひげ」ができているが,これは直径1ミクロン程度ときわめて小さいからできたのである。

大きいものとしては,シリコン半導体も転位の全くないものであるが,これは高純度であるたためにできる。なぜならば,不純物が入ると不純物原子による内部歪みを緩和するために転位ができてしまうからである。だから,完全結晶をうるためには,高純度化が必要である。しかし転位があつても,これを固定して了えば機械的強さは増す。焼入硬化等は,それと知らずにこの原理を使つていた例である。

その他,半導体材料の開発に対しては固体電子論が,有機合成材料の開発に対しては,高分子理論がそれぞれ大きく貢献している。

このように,従来経験的に行なわれていた材料開発を,転位論その他の基礎理論に照らして,理論から積み重ねて再検討して行くことによつて,初めて材料技術の急速な進歩が期待できるのである。また各材料の特性を完全に把握し,各材料を適材適所に使用するとともに,単一材料で不十分なときには複合材料にしたり,たとえば金属と非金属の境界にあるニユーセラミツクスのような境界新領域の開拓にも積極的に乗り出さねばならない。

このためには,材料を金属,非金属等個々に独立させてあつかうよりも,一緒に研究した方がよいという考え方が生れており,米国のマサチユーセッツ工科大学が,冶金学科を材料科学科と改称したことは,この好例である。


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