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  各論
§I  新科学領域
V  原子核の研究
3.  わが国の原子核研究の現状

原子核および素粒子の理論については,戦時中から戦後にかけて,中間子論や場の理論の共変型式などを中心に非常にすぐれた業績が発表されて世界の注目を浴びた。

最近も重い素粒子の強い結合に関する西島一ジエルマンの法則や,その背後に実体論的模型を考える坂田昌一等の素粒子の複合モデル,さらにこれを軽粒子と関連させる名古屋モデルなどが提出され注目されている。

しかし,実験の方法はようやく昭和26年から再開され,戦前の水準を抜いたのは昭和32年原子核研究所の40MeVのサイクロトロンが完成してからである。そして昭和37年にはいつて待望の同研究所の純国産IGeVの電子シンクロトロンが完成し湯川博士が予言してから27年目,世界におくれること14年ではじめて人工中間子をつくり出すことに成功した

原子核や素粒子の実験はこのように全体からみれば非常におくれている。しかし比較的低いエネルギー(数〜数十MeV)の領域では,世界でもあまり例のない数十MeVでエネルギーを変化させる実験装置など特色ある装置が活躍し,昭和34年頃から急に国際学会へ多くの報告が出るようになつた。現在わが国の原子核研究用の加速器は 表1-7 のとおりである。このほか加速した粒子の荷電の符号を変えてさらに2倍のエネルギーの加速するタンデム加速器の建設や,いつたん引用電子対を発生させ一定のエネルギーのものを選択してから対消減させて単色のガンマ線をとり出す装置の開発など新しいものの計画もすすめられている。また原子核研究所は共同利用施設として,毎年百名を越える多くの若い研究者の研究にも役立ち,学界で最も高い稼働率をあげている。

表1-7 原子核研究用加速器の現状

測定装置でも名古屋大学福井崇時,大阪市大の宮本重徳両氏のスパークチャンバーは,霧函,泡函につぐ新しい測定器として注目され,米国の高エネルギー加速器の研究ではすでに実用化している。

一方高エネルギー原子核実験については,わが国はもつぱら宇宙線に頼つて進めてきた。昭和36年の京都における国際宇宙線会議においては,討議の中心になつたいくつかの新らしい問題を提起し,また国際共同原子核乾板飛行計画ICEFや日米共同でボリビヤの5,000mの高山で行なう観測にも指導的役割を果し,宇宙線の分野では世界最高の研究水準にあることを立証した。

現在,低エネルギーの加速器による実験が充実するにしたがい,当然高エネルギーの加速器による実験にふみ込む新らしい段階にきているといえる。日本学術会議を中心に2年以上にわたつて熱心に将来のわが国の原子核研究のすすむべき方向が論議され,12GeVの強出力の陽子シンクロトロンの建設が日本学術会議から政府に勧告された。比較的宇宙線に力を入れていた英国,イタリアなどヨーロツパでも欧州原子核共同研究所(CERN)を中心に米ソを抜く加速器をつくり,フランス,イタリアもそれぞれ高エネルギーの陽子加速器を建設中であることからみても,わが国もこの問題を真剣に考慮すべき時期にきているといえよう。


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