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  各論
§I  新科学領域
III  実験物理学の領域の拡大
3.  極低温

極低温の分野における最近の主要な動向として次の2つをあげうる。

第1に,便利な液体ヘリウム製造装置が開発され,急速に普及し,絶対数度(絶対0°は-273°C)という極低温が容易に得られるようになつたこと。

図1-6 真空技術

図1-7 極低温技術

第2に,50年来の物理学の懸案であつた絶対零度付近における超伝導(絶対零度付近で急に電気抵抗がゼロになる現象)の理論がほぼ確立されたことである。

そして現在は液体ヘリウムよりさらに低い温度をつくり出す断熱消磁が注目されている。( 図1-7参照 )

極低温の効果は,ひと口にいえば分子の不規則な熱運動を止めて,分子を静止状態(最低エネルギー状態)に近づける。このため,衝突によるエネルギーの授受が少なくなり,したがつて,自由電子,化学結合,結晶構造の観測が高い精度でできるようになる。この意味で,極低温は,分子の凝集状態を解明する物性の研究にとつて極めて重要な手段となる。もう一つの極低温の重要性は,結晶など系全体のエネルギーが最低になつているために,「エネルギーはごく小さな単位ずつ不連続に変化する。」という量子論の効果が巨視的な系全体にはつきり現われることである。

たとえば磁束は不連続な飛び飛びの値しか取りえなくなる。また,分子のもつエネルギーの総量が少くなり,分子間のエネルギー授受に必要な最低量以下となるため,エネルギーの散逸に起因する粘性抵抗がなくなつて,超流動という現象が生じる。

上記のような物性研究面の応用のほか,実用的な応用例としては,液体ヘリウムの温度ではヘリウム以外の気体はすべて液化してしまうことを利用してガスを液体にしてとり除くクライオポンプ,超伝導と常伝導が磁場によつて変ることを利用するクライオトロンスイツチ(高速電子計算機演算素子に利用)がある。また高周波磁場で常磁性イオンを低いエネルギー順位から高い順位にあげておくと,外からある周波数の電磁波がきたときそれと同じ周波数の波を出して中間の順位に落ぬることを利用する固体メーザー(マイクロ波増巾器),同様にして太陽より強い光を出すことのできる光レーザー(光増巾器)もとくに極低温では量子効果がいちじるしく,共鳴も鋭くなつて好都合である。さらに,不均一な金属で内部に常伝導と超伝導の部分を交互につくり電流を流すと10万ガウス以上の磁場をつくつても破壊しないことを利用した超伝導磁石など極めて注目すべきものが開発されつつある。

わが国では,昭和31年に東北大学金属材料研究所に初めて設置されたヘリウム液化装置(米国から購入)が,昭和35年頃からいくつかの研究所に設備され,現在では,全国で10基ほどに達し,物性研究をはじめ各方面に利用されるようになつている。


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