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  各論
§I  新科学領域
III  実験物理学の領域の拡大
2.  超高真空

現在実験できる高真空つまり低圧は 図1-6 に示すとおりである。従来高真空といわれていた10-3 mmHgでも1立方センチ中に1010 個の分子が存在し,この中に金属を入れるとわずか1秒で金属の表面が酸素の単分子層で蔽おわれてしまうほどである。昭和29年アルパートは従来最も感度がよいとされていた電離真空計(真空中の残存気体分子に電子をぶつけ,電離したイオン電流をはかつて真空度を知る)が構造上10-8 mmHgまでしか測定できないことを発見した。彼は,新しい測定方法を開発し同時に真空グリースやゴムパツキング等を金属におきかえて有害蒸気をなくすことを考案し,以来急速に10-8 以上の超高度真空技術が開発されてきた。

真空技術は,基礎的な技術の一つであつてきわめて広く各方面に利用されている。いくつかの例をあげよう。ガス分析は,超高真空で蒸発するわずかなガスの分圧を測定するもので,イオンのサイクロトロン共鳴を利用したオメガトロン質量分析器がアルパートによつて実用化され,最近,10-3 〜10-7 mmHgのものが国産化されつつある。

電子ビームも高真空を応用する重要な部門である。シンクロトロンなどビームを長い距離はしらせて加速するものは高真空にすることが決定的に重要であり,プラズマ物理においても,ますます大型の高真空への要求が強まつている。電子ビーム加熱による真空中での高純度金属の精製は,原子力,宇宙工学の分野で高純度金属の需要が増加しているため,金属材料技術研究所,金属材料研究所等で盛んに研究されている。

また表面物理も超高真空の実現によつて,はじめて研究が可能となる分野である。とくに半導体表面の電子的特性はわずかの吸着物によつても大いに影響されるので,その急速な進展は超高真空技術の開発を待たねばならなかつた。

わが国では,10-3 mmHg(ガラス製装置により実現できる限界)の壁をやぶるのに非常な努力を払つてきたが,昭和36年頃からようやく導入技術により金属製の超高真空発生装置が製作されるようになつて,超高真空を用いる研究分野が開かれ始めた。すなわち,米国バリアン社との技術提携による真空イオンポンプやドイツのターボ分子ポンプが輸入され,ようやく10-9 mmHg以上の真空が研究に利用できるようになつた。


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