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  各論
§I  新科学領域
I  科学技術のフロンテイア

ガリレイが手製の望遠鏡をはじめて天体に向けたとき,人類にとつてまつたく新しい世界が開かれ,コペルニクス的転換とともに近世の歴史がはじまつた。レーウエン・フツクの顕微鏡によつてはじめて微生物の世界の扉が開かれた時,そこから近世の生物学が生まれ,ヴオルタやフアラデーが電磁気の世界を開拓したとき,そこから新らしい科学技術が誕生した。

人類が何等かの意味で今日までの験経の範囲を越えて,まつたく新らしい自然の領域に踏み込むとき,そこではじめて遭遇する新らしい現象は科学技術の進歩のための宝庫となるものである。

人類の経験は身のまわりのごく日常的なものから次第にその範囲を拡げ,より広く適用されるより深い認識に達し,同時に認識された自然法則をよりよく利用する技術を創り出してきた。

図1-1 は,そうした科学技術のフロンテイアを長さの次元の断面で図化することを試みたものである。

広大な宇宙と極微の素粒子の両極端は今日の科学の主要な領域である。宇宙と物質の究極を解明することは宇宙と生命の進化の全過程を解明することと共に,科学の基本的な目標である。またこのような従来の経験を越えたわれわれの全く知らない世界の知識から,現在の理論の修正を迫るような自然のより本質的な問題が見出される可能性がある。したがつて,この領域では研究目的としては純粋科学の目的が主体である。しかし,決して技術も無関係というわけではない。むしろこの領域を拡大し,深めることは,電波望遠鏡や加速機など強力な手段が開発できるかどうかという技術問題の解決にかかつている面が多いのである。

一方日常的現象の世界では,新らしい問題は自然そのものよりもむしろ技術の進歩により人工的につくり出されてくる。この領域についても決してすべてが科学的に解明されたわけではないが,しかしナイロンのような高分子もゲルマニウム半導体も研究開発によつて人為的につくり出された物質である。すなわちここでは技術こそがフロンテイアの主導権をにぎつているのである。

今日その意味での技術の領域は原子や分子というミクロの世界の現象においても国土や地域のような大規模な現象においても急速に拡大している。ここで新科学領域と呼ぶのは現在拡大しつつある上記の技術の領域のすぐ外側に接続しており,近い将来技術の領域中に取り込まれると考えられる領域,すなわち大きさの断面でとらえれば宇宙空間と原子核の領域である。

図1-1 科学技術のフロンテイア

またこの技術の領域とかりに呼んだ部分についても別の断面から見たフロンテイアがある。

そのうち最も基本的なものとして,ここでは物質の状態をきめる基本量である温度と圧力および複雑さの極限ともいえる生物現象をとりあげる。

したがつて,ここで新科学領域といつても決して科学や技術の新局面の全体をいうのではない。天体物理や素粒子の基礎理論といつた純科学の領域も物性や化学のような技術とすでに密接に結合した領域も含まないその間の特定の狭いある領域を扱うにすぎない。しかしその領域は遠くない将来,新しい知識をもたらすことによつて今日の物性論や化学のような重要な地位を占めることが予想されるし,また,この新領域の研究開発は従来の手段で到達できる限界を越えているので,非常に応用範囲の広い新技術の開発とも密接に関係しているということからもとくに注目してよいと思われる。


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