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第III部  現代社会における科学技術の役割
第4章  産業・貿易
III  技術進歩と貿易

科学技術の進歩は,原材料の転換や原単位の低下をもたらす。また,一方では,新製品の出現や代替品の開発を通じて,天然資源への依存度を低下させる。この影響とともに,近年工業諸国において使用原材料にくらべて,付加価値の非常に高い製品をつくる精密工業や機械工業が発達しつつあることによつて,最近における世界貿易は,先進工業国の工業製品の増加がいちじるしい。また,工業国間貿易の比重が高まり,非工業国から工業国への輸出の割合はやや低下している。第1次生産物のなかで,貿易量の増加がとくにいちじるしいのは石油であるが,これは,油田探査技術や採油技術の進歩に伴う供給量の増大と,エネルギー需要量の増大に加えて,石油化学の発展にみられるように,石油が原材料として科学技術の進歩に適合した特質をもつているからであるといえる。

わが国貿易の特徴は,資源の貧困とあいまつて,鉱工業生産の原材料輸入依存度が高いことであるといわれていた。しかしながら,戦前における輸入の国民総生産に対する比率は,20%程度であつたものが,最近では10%程度に低下している。また昭和30年度以降の製造業生産と,輸入素原材料消費とを対比すると, 表III-4-4 に示すとおり,輸入素原材料消費率の低下傾向がみられる。

これは,技術の面からみれば,わが国の産業構造の重化学工業化の影響,すなわち原料依存度の高い加工産業から,金属,機械,化学工業等の原料依存度の低い産業へ重点が移行しつつあることおよび,科学技術の進歩に伴い,国内資源の利用度が高まり,半製品の輸入が減少したことなどによるものとみられる。

また,商品類別に輸入品の構成比をみると, 表III-4-5 のとおりであつて,原料品の比率は,約60%を占めているが,農業技術の改善に伴う主食の輸入減によつて,食料品の比率は大巾に減少しているなど,科学技術の進歩が輸入依存度の低下に役立つている面もある。しかしながら,重化学工業が大規模化してくると,それに伴つて,石油,鉄鉱石,コークス,非鉄金属などの原材料の輸入が急激に増加し,輸入依存度上昇の原因となることが当然予想される。

表III-4-4 輸入素原料消費率の変化

表III-4-5 商品類別輸入構成比の推移

このように,経済規模の拡大,生産の高度成長は,原材料の輸入増大につながり,かつ機械設備数の輸入増大をも伴つて,国際収支の問題を提起するのがつねであり,これに関連して輸出力の強化が叫ばれる。

輸出振興に対する科学技術の役割は必ずしもに直接的ではないが,科学技術の進歩によつて質的もより高度な産業構造へ脱皮して,各種の高度工業製品の輸出増大を図ることが必要である。最近における輸出の動向をみると,産業の動向が重化学工業化の傾向を辿つているのと同様に,重化学工業化率の上昇傾向がみられる。すなわち,わが国の輸出は,昭和28年の12億7,500万ドルから昭和35年の40億5,400万ドルと7年間で3.2倍に増大したが,このうち重化学工業品の占める比率をみると,昭和28年は34%(戦前,昭和9〜11年間平均では約20%)であつたものが,昭和35年には41%上昇している。この内訳をみると,まず金属および船舶の比率が上昇し,ついで船舶以外の機械類の比重が増加するという経緯を辿つて,輸出構造の重化学工業化が進展している。

このような輸出構造の高度化は,国内における産業構造の高度化によるものであることは当然であるが,先進諸国においては,一般的に輸出構造と産業構造は類似の型を示している。しかしながら,わが国のそれは,まだ相当の開離を示している。これは,わが国の重化学工業化の進展は,国内の産業構造高度化のは役立つているが,その技術的な国際競争力は,先進工業国に比べてまだ低位のあることによる面が多い。しかしながら,最近における急速な技術進歩を効率的の取り入れることによつて,重化学工業部門においても,国際競争力を有する分野が徐々に現れているとみられる。その結果として,鉄鋼を中心とする第1次金属の輸出から,船舶さらには各種機械類へとやや高次の重化学工業加工品の輸出が増加し始めたといえる。されにもかかわらず,わが国の重化学工業製品の構造開離係数(重化学工業製品の輸出学が輸出総額に占める比率を,重化学工業製品の生産額が生産総額に占める比率で除したもの)は最近においても0.8であり,アメリカの1.4,イギリス1.1,西ドイツ1.2に比べ多くの改善の余地を残している。逆に軽工業製品の構造開離係数は,アメリカ0.4,イギリス0.8,西ドイツ0.6に対し,わが国のそれは1.4であつて,わが国の輸出が繊維製品を中心とする軽工業品にまだ多くを依存していることを示している。

重化学工業製品の輸出が漸次増加しつつある大きな理由の一つは,技術進歩による新製品の輸出が増加していることである。

その代表的なものとしては,最近では電気調整装置及び冷凍機械,各種機械部品,土木建設機械,テープレコーダー,有線通信装置をはじめとして,電蓄,合成繊維,ベアリング,テレビジョン,計測用機械,シネ,カメラ等が上げられる。

これら新製品35品目の輸出増加は,昭和31〜35年の期間をみると,わが国の増加のうちの約22%を占めている。

これは,わが国の産業構造の高度化が,急速に進み,先進工業国との較差が次第に縮小した一面を示しているといえるが機械輸出の内容をみても,軽機械や精密機械が多く,重機械の輸出量は船舶などを除き極めて少ない。

輸出競争力は,技術水準,生産コスト,賃金および国際分業的な立場など,各種の面からの制約をうけるが,一般的について,技術進歩を積極的に推進することによつて,より高次の加工品輸出を可能とすることができるといえる。また,わが国の輸出額の相当部分を占める軽機械,雑貨,衣類製品などの分野は,主として中小企業の生産に依存している。しかしながら,これら部門の特色である低賃金と低加工度の製品は,漸次,新興工業国にその比重を移行する立場にある。

したがつて,これら中小企業の分野においても,設備の近代化,技術の高度化をはかるとともに,わが国の国情に応じた専門化の方向に進むことが必要である。


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