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第III部  現代社会における科学技術の役割
第4章  産業・貿易
II  企業経営の変革

最近における技術進歩の特徴は,大別して,(1)投資の大規模化,(2)生産の多様化,(3)生産技術の総合化,(4)技術進歩の急速化であるということができる。これらの特徴は,投資や生産の態様を変化させるとともに,企業の経営形態や経営体制をも,それに適合するように変革させるまでに至つている。

すなわち,形態変化のおもなものは,(1)企業規模の拡大,(2)経営の多角化,(3)企業集団化である。また,一方では,(1)生産の自動化および機械化,事務の機械化などの経営の科学化と,(2)長期的かつ総合的な計画化および,(3)研究開発などの技術の重視等の傾向を増大させている。

法人企業投資予測調査(経企庁)によつて,製造業平均の1件当り投資額の推移をみると,昭和32年下期を基準とすると,昭和36年下期は1.8倍となつている。産業別にその絶対額の大きい産業の順にみると,石油石炭製品(伸び率2.4倍),鉄鋼,非鉄金属(1.7倍),輸送機械(3.2倍),電気機械(2.5倍),化学(1.5倍),など技術進歩の影響の大きい産業であり,これらの産業の1件当り投資額はいずれも製造業平均を上回つている。このように投資単位が大規模化するにつれて,建設に必要な工期も長期化する。したがつて,巨額の資金を確保し,懐妊期間の長期化に伴う危険を回避するためには,投資の計画化とその長期化を必要としている。たとえば,石油化学では,第1期計画の1企業単位100億円程度から,第2期計画ではコンビナート単位で700億円程度に拡大し,自動車では昭和32年当時50億円以下のものが,400億円以上にまで増加している。この投資の大規模化傾向と,生産の増大は,必然的に経営規模の拡大をもたらしている。すなわち,主要大企業の全産業平均でみると,昭和30年下期,35年下期間では,1社当り資本金は3.0倍,純売上高は2.6倍,有形固定資産は2.1倍となつている。また,資本金別会社数の構成比率をみると,資本金5〜5O億円の大企業の比率がいちじるしく増大しているが,企業規模の拡大は,大企業のみならず,中小規模の企業にも及んでいる。しかも,産業別にみると新製品等の進出のいちじるしい産業ほど企業規模は拡大しているのが特徴的である。

製品の多様化は,最近における技術進歩の特徴でもある。これに伴つて,多角的な経営が要請される。この代表的な産業は化学工業における肥料中心から石油化学への移行である。石油化学もナフサや石油精製廃ガスの分解による多種類の連産品生産技術の発達によつて,プラスチツク,合成繊維,洗剤等製品分野は広範囲に拡大している。

また,電気機械器具製造業における電子機器も,テレビジヨン,トランジスタ等の民生電機部門から各種制御機器,通信機器,工業用機器等の高度の電子技術の裏付けを必要とする分野へ拡大しつつある。このように,技術進歩による将来の成長分野への進出が,経営多角化の一般的な方向であるといえる。しかも技術進歩の分化,専門化の傾向と経営の多角化および大規模化に伴つて,責任体制を明確化するために,多くの企業において事業部制が採用されている。

次の大きな特徴は,企業の集団化である。これは,技術の総合化にともなつて同一産業間または異なる産業間での生産技術の依存関係が密接化してきたこと,連産品生産技術が進歩したこと,および生産規模の増大にともなつて個別企業の枠を越えて,資本,資源の有効利用をはかる必要性が増大したこと等が大きな理由として挙げられる。

生産および事務の機械化等の科学的管理は,連続工程化技術,生産工程の自動化および電子計算機の発達による処理能力の拡大を中心として行なわれている。生産の自動化や機械化は,生産力の増大,コストの低下,製品の標準化と品質の向上を通じて,経営の合理化に貢献し,事務の機械化は種々の理論的手法の発達とあいまつて,科学的な経営管理の進展を支えている。

さらに,最近の技術進歩の特徽である投資規模の拡大と経営の多様化,技術進歩の急速化による設備の陳腐化,労働の質的転換,専門化分化に伴う専門家の必要性等の物的人的要因の変化は長期的かつ総合的な経営方針の確立を必要とするようになつている。とくに,経営の規模や範囲が個人の統率能力の範囲を越えて拡大している現状では,企業の安定的な成長を期待するためには,短期的部分的な判断によることなく計画的な経営が必要である。このような傾向を反映して,経営の長期計画化が盛んに行なわれ,現在では,大企業を中心として多くの企業が長期計画を作成し,それに基づいて,短期的な経営計画または生産,資金,人事,販売等の部門別計画を実施している。

たとえば,生産計画の状況を示すと, 表III-4-3 のとおりであるが,これによると,すべての産業が何等かの形で生産計画を作成しており,しかもその77%が長期短期両方の生産計画を作成している。この個別的な長期生産計画と,企業全体の総合的な長期経営計画との関係をみると,同表の103社中95社(92%)が,長期経営計画の一環として,長期生産計画を作成しており,長期の需要予測,販売計画,研究開発,設備計画等との関連において,生産計画の作成がなされていること を示している。長期計画の重点は,産業によつて異なるが,化学工業,電子工業等の技術進歩のいちじるしい産業においては,その多くの企業において研究開発を計画的に行なう傾向が高まつている。

表III-4-3 生産計画の作成状況

従来,わが国の技術進歩の大部分は,外国技術の導入に依存していた。しかしながら,最近における国際的な技術交流の傾向は技術を単純に一方的に導入する時代はすぎて,資本提携などの経済的諸条件を伴うか,または,国内における見返り技術の存在を必要とするようになつてきている。

これは,国内における技術開発の役割の重視を必要とするものである。さらに,一方では市場獲得の競争は,技術競争に通ずることが,新産業や高度成長産業の発展の実例からもうかがい知ることができ,また,高度な経済成長および急速な技術進歩に伴う科学技術者の需給構造の変化は企業にとつて科学技術者の不足を切実な問題としている。これらの観点にたつときには,経営における技術の重要性は,さらにより強く認識されなければならない。


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