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第III部  現代社会における科学技術の役割
第4章  産業・貿易
I  技術進歩と産業の発展



1. 投資誘因としての技術進歩

科学技術進歩は,経済の成長や産業の発展に対して,いちじるしい影響を与えている。その影響の仕組は,種々の角度から考えることができるが,産業,経済に直接的に働きかけるのは,まず投資を通じてであるといえる。

すなわち,科学技術の進歩は,新製品の創出,生産方法の改善等のための投資機会をつくり出す。その投資の規模,性質,速度などによつて産業経済の発展の態様が方向づけられることとなる。

最近における経済成長を支えた要因が,技術革新であり,直接的には,設備投資の急増であるといわれるのは,この間の事情を示すものである。設備投資が急速に拡大した要因は,ここ数年間の好況が成熟した結果,操業度が高まり,設備拡張意欲を刺激したことや,資本財投資が,主力を占めたために種々の産業への波及効果が大きかつたこと,あるいは,貿易の自由化に対処して,生産原価の低下を図るための技術の向上および量産体制への投資が積極的に行なわれたこと,さらには,技術革新に伴う投資が累積的に増大したこと等が挙げられる。

しかしながら,戦後のわが国経済の回復過程終了後一貫して設備投資を刺激し,かつ投資を可能とした基本的な要因は,技術革新のための投資を生み出した科学技術の進歩であるといわれなければならない。すなわち,最近における設備投資の様相を分類してみると,(1)新製品開発のための投資,(2)経営多角化のための投資,(3)企業集団化のための投資,(4)中小企業の近代化投資,(5)新工業地帯の造成のための投資等いずれも最近における技術進歩の特徴に関連づけて考えることができる。すなわち,第1の新製品関係投資は,石油精製,石油化学,電子機器,合成繊維,自動化機器等の産業において,主として行なわれているものであり,技術進歩のいちじるしい分野を示しているといえる。第2の経営多角化のための投資は,技術進歩の多様化にともなう経営の多角化を主体として,これに成長部門における専門化投資,停滞部門の転換投資,危険分散的多角化投資,他産業への投資等が加わつたものとみることができる。第3の企業集団化の投資も従来,利用し得なかつた資源を,同一の生産プロセスとして,一連して,利用し生産化し得る技術が開発されたことによる面が大きい。これに加えて,生産技術の総合化の傾向と生産規模の大規模化に対する経済性重視の傾向とがあわさつて,大規模な設備投資を誘発していると考えられる。第4の中小企業の近代化投資もまた技術進歩の性向とあわせて考えられるものである。すなわち,中小企業の設備投資の投資目的(中小企業金融公庫調査)をみても,合理化および新製品生産を目的とするものは,単純な生産力拡充のための投資を上廻つている。しかもこの傾向は年を追つて増大している。これは,従来の技術革新的な投資が,主として大企業中心であつたものが,順次中小企業にまで滲透しつつあることを示すものである。観点を変えれば,わが国における技術の進歩は,主として大企業における外国からの導入技術などを中心として達成されていたといえるが,大企業における技術進歩は,直接的には系列化などを通じて,中小企業の技術進歩を促す側面を持つていることを示している。第5の新工業地帯造成のための投資にしても,設備投資の大型化,総合化に伴ういわゆる産業関連投資であつて,土地造成,工業用水の質的量的確保などの技術に関連のある投資を必要とするものである。

産業別にみた設備投資の技術的な内容は, 表III-4-1 のとおりである。

表III-4-1 産業別にみた設備投資

技術の進歩に革新的技術と量産化技術の2つのタイプが考えられるとすれば,最近における設備投資の動向と産業への影響とは,この2つのタイプに方向づけて考えることができる。第1の革新的技術に関連して行なわれる設備投資の型は,石油化学や電子産業においてみられる。これらは,そのような成長部門への投資を通じて産業構造を変化させ,市場開拓の結果として需要構造をも変化させるように働くものである。すなわち,化学工業を例にとつてみれば,戦前は肥料,ソーダ工業中心であつたものが,昭和30年頃からは,プラスチツクと有機薬品の進出がその性格を変え,さらに,最近における設備投資計画をみれば,アクリルニトリル,アルキルベンゼン,アセトアルチヒド,ブタノールなどカーバイト,アセチレン法や,発酵法に代替する設備投資が計画されているとおり,将来における化学工業の性格の大巾な転換が予想される。

これに対して,量産化技術の進歩にともなう設備投資の動向の変化は,より多くの産業においてみることができる。すなわち,鉄鋼業における連続鋳鍛造設備やストリツプミルなどは生産部内における代表的な存在であり,鉄鋼業の薄鋼板(熱間)設備に占めるストリツプミルの比率は昭和31年の60%から,昭和35年には90%に増加している。自動車工業における完全自動プレスセットの設備は国際的水準化を目指しての量産効果を期待しているともいえる。機械工業においてもコンベヤ・システムによる流れ生産の採用,高性能専用機の設置などの生産体制の変化がみられる。

このように,設備投資の動向は,産業によつて質的にもまた量的にも異なつているが,産業別にみた投資構造を比較すると 表III-4-2 のとおり,ここ数年問いちじるしい変化がみられる。

すなわち,鉄鋼,機械,化学等の投資の比重は次第に増加し,重化学工業の全産業に占める投資の割合は,昭和30年度の22%から,昭和35年度は48%に増加している。このような設備投資構造の重化学工業化は,また同時に,わが国における産業構造近代化の方向を性格づけていることを示している。

これらの設備投資を加速化しているのは,貿易自由化に伴う国際競争力の強化と,企業間競争激化の傾向であるとしても,一面では,技術進歩の速度が急速化していることも大きな原因となつている。

表III-4-2 設備投資構造の推移

経済成長や産業の発展が投資を中心として行なわれるという前提に立つ限り,技術進歩の範囲と性格およびその速度は,成長に対して,むしろ直接的な影響を与えるということができる。
2. 生産に及ぼす技術進歩の影響

わが国の鉱工業生産の増加の傾向は,国際的にみると 図III-4-1 のとおりであつて,工業諸国の中では,ドイツとならんで,年平均成長率は最も高いグループに属する。1948〜1953年(昭和23〜28年)における成長率の高い国は,日本,ドイツなど戦争被害の大きかつた国が大部分であり,また,1948〜1958年(昭和23〜33年)における成長率の高い国は,比較的,開発のおくれた諸国であるといえる。工業国といわれるような工業の進んでいる諸国は,1948〜58年間にわたつて,比較的同程度の成長率を示している。1948〜1958年(昭和23〜33年)間の国民総生産の年平均成長率をみても,わが国は8.2%であつて,ドイツの8.4%につぎ,以下フランス5.8%,イタリア5.5%,アメリカ3.0%,イギリス2.4%となつている。このようなわが国経済の高度成長を個人消費,民間設備投資,政府投資などの需要要因別に分けて国民総生産増加に対する寄与率でみると,昭和26年〜30年間では,民間設備投資の寄与率は約6%であつたものが,昭和30年〜35年間で36%に増大している。これは個人消費の寄与率の低下の上にたつてはいるが,民間設備投資が最近の経済成長の主要要因であることを示しているにほかならない。

これを産業別にみた場合,わが国における国民総生産の高い成長を支えているのは,農業など第1次産業および第3次産業における生産性の向上も閑却できないが,その中核をなすものは,第2次産業であり,とくに重化学工業の進展であるといえる。

図III-4-1 生産量の年平均変化率国際比較

すなわち,製造業の生産指数の伸びに対する重化学工業の生産指数の伸びの割合をとつて,その推移をみると,昭和30年頃までは大きな変化はみられないのに対し,昭和30年以降は,その割合は逐年上昇して,昭和35年には全製造業に対する重化学工業の付加価値構成比は65%となり,重化学工業の進展を示している。

この重化学工業化の進展の中で,技術進歩は,まず第1に新製品の創出という形をとつて表われている。

戦後にわが国で生産された新製品は,昭和31年前後までは合成繊維,プラスチツクの比重が高かつたが,昭和34年頃からテレビ,トランジスタ・ラジオを主とするエレクトロニクス製品の比重が高まつている。いずれにしても,現在新製品と呼ぱれ,技術進歩のいちじるしい製品はその大部分が重化学工業分野で生産されるものであり,昭和30年以降の製造業の生産増加額中に占める新製品生産の割合は約3割であり,重化学工業化の進展にとつて,技術の進歩が大きな影響を与えていることを示している。ここ数年間(30年〜35年)に,製造業平均で約43%の生産性向上がもたらされているが,生産性の伸びのとくにいちじるしい産業は,輸送機械,電気機械,一般機械,化学工業,鉄鋼業などでいずれも重化学工業部門である。すなわち,製造業における生産の増加は,新製品の創出と生産性の向上という形をとつて,重化学工業の技術進歩に依存しているといえる。

さらに技術進歩による生産性の向上は,製造業のみならず,各産業部門に表われている。たとえば,農業部門における水稲の反当収量(土地生産性)は,最近においては,戦前の約3〜4割増の水準を維持し,この面での技術の進歩を示している。また,流通部門における事務用機器の発達や,輸送,運信部門における高速化,能率化などは,その産業の付加価値生産性の向上に役立つているともいえる。

技術の進歩と生産との関係を量的に把えることは,極めて困難な問題である。通常は技術進歩を生産性で置き換えて考える場合が多い。いま,一応の試算であるが,生産函数を用いて製造業における生産の伸びを技術進歩による生産の伸びと,資本や労働などの生産要素の量的変化による生産の伸びとに分けて,図示すると, 図III-4-2 のようになる。これによると,技術革新といわれるように,技術進歩が生産に大きな役割を及ぼし始めた時期は,昭和34年頃からであり,昭和34年以降は技術革新の深化にともなつて,技術進歩の生産に対する役割がさらに増大しているといえる。

また,全生産の伸びに対する技術進歩による生産の増加分の割合と,生産の伸び率との関係を産業別に試算すると, 図III-4-3 のようになる。技術進歩による生産増加分の割合の高い産業は,石油製品,電気機械器具,金属製品,化学工業など,高分子化学やエレクトロニクスで象徴されるいわゆる技術革新産業と呼ばれる産業である。さらに,これら技術進歩の影響度が大きい産業ほど生産の伸び率が高いという一般的な傾向がみられる。これは,最近における生産の増加,ないしは経済の成長が技術進歩に大きく依存しているという一側面を示すものである。

図III-4-2 製造業における技術進歩の状況

図III-4-3 技術進歩と生産


3. 産業構造の変貌

革新的な技術の進歩が量産化に結びついた場合には,新産業を形成し,あるいは,高度の成長産業を発展させるとともに,一方ではこれに対して相対的な停滞産業を発生させることになる。このような技術進歩に伴う動態的な経済成長は,必然的に産業構造に大きな変化を与えることになる。 図III-4-4 は,産業別の国民所得構成比の推移を示したもので,明らかに第1次産業の比重の低下と,第2次産業の増大および第2次産業の発展に関連した第3次産業の比重の増加をみることができる。

技術進歩は,それを採用して生産力化する投資と生産の過程,および付加価値生産性の上昇を通じて,産業構造の変化に寄与することとなる。

最近における産業構造の変化は,単に生産性の低い部門から高い部門への構造変化が行なわれていることによつて支えられているばかりではなく,古い産業から新しい産業へという産業の交替によつて構造変化が促進されているところに特色がある。この産業の交替は,技術進歩による新製品の急速な台頭と普及という需要構造の変化を伴つた形で表われている。これは,最近における技術の進歩が,生産性の向上によつて,国民1人当りの実質所得を増大させる効果が大きく,新製品の消費市場開拓を容易にしていること,および大量生産技術の発達が,コストの引下げを活発にし,さらに消費需要の拡大を加速化する効果を有しているからである。

また,技術進歩の結果として合成繊維は,綿,羊毛,麻,パルプに対する比重を高め,プラスチツクは,原皮,ゴム,木材,金属,在来繊維に代替する働きがある。また石炭から石油利用への転換を可能とした技術進歩は,石炭産業の斜陽化,石油産業の台頭という産業の淘汰を招いている。

さらに,技術の進歩普及は,生産構造や需要構造の変化をもたらすばかりでなく,それらの変化に対応できる流通部門の能率化,宣伝機構の整備,生活意識の変化に伴う余暇産業の膨脹など第3次産業の形態をも急速に変貌させている。

他方,初期には大企業中心に展開した技術の進歩も漸く中小企業にまで影響を及ぼしているが,その影響の形態は産業によつて異なつている,。機械工業,加工食品,プラスチツク成型加工等の新産業または新製品とその関連部門においては,中小企業のいちじるしい増加と発展がみられる,これに対して食料品,繊維,木材・木製品,皮革製品等の消費財産業では,技術の進歩は停滞的であるため,大企業の市場進出によつて,零細企業の減少,下請け化が行なわれている。いずれにしても,造船,自動車その他の機械工業および繊維工業等の発展の根底には,下請中小企業の技術進歩による面が大きい。中小企業が果している役割はきわめて大きいことを考えると,中小企業の技術水準の向上がなければ大企業みずからの発展も制約され,さらには国全体の技術水準の向上もなし得ないこととなる。

図III-4-4 産業構成の変化

産業別に,労働生産性の伸びと,付加価値構成比を対比させると, 表III-4-2 のとおりである。製造業の付加価値額は,昭和31年上期〜35年下期間で106%増加し,この間の常用労働者数の増加は,約26%であつたので,常用労働者1人当りの付加価値生産額は64%の増加となつている。製造業平均の労働生産性の伸び1.64を上回つている産業は鉄鋼,一般機機,電気機械,輸送機械および石油石炭製品等の重化学工業部門であつて,すでに述べたように,技術進歩のいちじるしい分野である。しかも,化学,非鉄金属などを加えた重化学工業の付加価値構成比は,約65%となつて,量的にもその影響は大きいといえる。これに対して,食料品,繊維,パルプ紙などの産業の生産性は比較的小さな伸びにとどまり,その付加価値構成の比重もそれほど高くはない。

生産性の向上は,生産方法の改善などの技術進歩による面が大きい。したがつて,わが国の産業構造は,技術の進歩ないしは生産性の向上の面からみる限り,その影響の大きな産業,すなわち,重化学工業の発展によつて,大きく変貌しつつあるといえる。この傾向は,低開発諸国における軽工業の台頭や貿易の自由化などに対処するわが国の重化学工業化によつて,さらに強まることとなる。また,重化学工業の分野のみならず,その他の産業においても,高度工業化換言すれば高付加価値生産への移行は,国民経済の向上にとつて必須の条件である。そのためには,技術の進歩は極めて大きな役割をもつているということができる。

表III-4-2 産業別の労働生産性の変化と付加価値構成


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